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昨日の今日だぞ⁉︎
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私はある程度オークの仕分けを終え、屋敷へ戻り昼食の席に着いた。
それからしばらく食後のお茶を楽しみつつ、料理人達の仕事がひと段落した頃を見計らって調理場へ向かった。
調理場をそうっと覗くと、料理人達もまかないを食べ終え、あらかた片付けを済ませたようだ。
調理場に残っていたのは夕食の仕込みをしている数名だけだった。
仕込みは新人の仕事なので、その中にシンがいるのを確認した私は、そうっとシンに近寄った。
「シン、ちょっといいかしら?」
「げっ? なんだよ? ……じゃない、クリステア様、俺……いや、私になんの御用でしょうか?」
シンは野菜の皮むきに集中していたようで、私から声をかけられて振り向くなり素で驚いていた。
げっ!とは何よ、お化けが出てきたみたいなリアクションだなんて、失礼ね。
まあ、雇い主の娘がいきなり声をかけてくるんだから、気持ちはわからないでもないけれど。
「ええと、昨日言っていた解体のことなんだけど……」
「あの話ならもう……て、え、まさか」
終わったはずだろ、と言おうとしたところで自分が解体すると発言したことを思い出したのか、サッと顔色が変わった。
ふふふ、察しが良くて助かるわぁ。
「ええ、解体をお願いしたいの」
私はにんまりと微笑みながらお願いした。
「ちょっと待ってくれ、昨日の今日だぞ? 手回し良すぎだろ⁉︎」
軽く動揺したシンは敬語が抜け落ちてしまい、傍でシンと一緒に仕込みの作業をしていた新人料理人達に「おい」とたしなめられて口を噤んだ。
確かにね。シンにしてみたら、ああは言ったものの、昨日の今日で「解体ヨロ☆」なんて言われるなんて思ってもみないだろうから、そりゃ動揺もするか。
私だって、黒銀の仕事の早さにびっくりしたし。ましてや、その量たるや……
今朝のことを思い出し、遠い目になりかけた私は慌てて現実へと意識を引き戻し、シンに再度お願いした。
「偶然にもオークがたくさん獲……いえ、手に入ったの。ギルドに解体を頼むと欲しい素材が手に入らないから、シンにお願いしたいの」
「オークが大量に手に入るとか、偶然なわけないだろ……」
シンが小声で突っ込むけれど、解体については昨日自分で言いだしたことだから、拒否権はないんだからねっ!
「クリステア様? どうなさいましたか? 何か新作でも作られるのですか⁉︎」
うわっ、料理長がいないうちにと思ってたのに、見つかっちゃった!
昨日みたいに色々とまとわりついて面倒なことになりそうだから、料理長が不在の時を狙ったのにぃ!
料理長はタタタッと私の元に駆け寄り、仕込みのメンバーの手が止まっているのを見つけると早く仕事に戻るように声をかけてから私に向き直った。
「申し訳ございません、クリステア様。それで、何かございましたでしょうか?」
「あの、私が彼らの手を止めてしまったの。ごめんなさい。それで、あの、シンを借りたいのだけど……」
「シンですか? 今彼は仕込みの最中ですので、私で宜しければ……」
うーん、何かとシンを頼っているからか、間近で私の料理を見たい料理長がやたらと張り合ってるような気が……でも今日は流石に料理長に頼むわけにはいかないと思うのよね。
「あの、オークがまるごと一体手に入ったの。それで、解体ができるシンにお願いしたくて……」
「オークを丸ごと? 一体どうやって……ああ、いやこれは愚問ですな。それならば、冒険者ギルドに解体の依頼をかければよいのでは?」
料理長は調理場の中では、シンを除いて黒銀達が聖獣であることを知っている一人だ。護衛である黒銀と真白の食事は基本私が準備することが多いし、二人とも私の魔力のこもった料理以外はさほど食べたいとも思わないみたいで、使用人と一緒に食事することはない。
料理長にはこれこれこういうことだから、と説明している。
「そうですか……それならば、私の出る幕ではございませんね。シン、クリステア様のお役に立つようにお手伝いしなさい。他の者はシンの仕事を分担しなさい」
「「「はいっ」」」
うわー、申し訳ない。インベントリに入っているから、今すぐじゃなくてもよかったのに、とも言えないし。
ごめんね、新人さん達。今度何か作ったら彼らにも何か差し入れしてあげないとね。
「仕方ねぇ、やるか……あ、でもどこで解体すりゃいいんだ……ですか? ここで解体できる場所なんてあんのか……あるのですか?」
「あっ!」
「おや、そういえば……どこならよいかギルバートさんに聞いてみないと」
そうか。解体場所の確保をしてなかったわ。つい、領地と同じ感覚でいたけれど、ここは王都だった。オーク丸ごと仕入れて解体なんてしないものね……
私は、料理長がサッと調理場を出て家令のギルバートの元へ確認に向かうのをありがたく待つことにしたのだった。
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「転生令嬢は庶民の味に飢えている」三巻は、書店、電子書籍ともに発売中です。
是非読んでいただけると嬉しいです!
三巻の番外編の書き下ろしはレジーナのサイトにてアンケートにお答えいただけると無料で読むことができますのでこちらもよろしくお願いいたします!
それからしばらく食後のお茶を楽しみつつ、料理人達の仕事がひと段落した頃を見計らって調理場へ向かった。
調理場をそうっと覗くと、料理人達もまかないを食べ終え、あらかた片付けを済ませたようだ。
調理場に残っていたのは夕食の仕込みをしている数名だけだった。
仕込みは新人の仕事なので、その中にシンがいるのを確認した私は、そうっとシンに近寄った。
「シン、ちょっといいかしら?」
「げっ? なんだよ? ……じゃない、クリステア様、俺……いや、私になんの御用でしょうか?」
シンは野菜の皮むきに集中していたようで、私から声をかけられて振り向くなり素で驚いていた。
げっ!とは何よ、お化けが出てきたみたいなリアクションだなんて、失礼ね。
まあ、雇い主の娘がいきなり声をかけてくるんだから、気持ちはわからないでもないけれど。
「ええと、昨日言っていた解体のことなんだけど……」
「あの話ならもう……て、え、まさか」
終わったはずだろ、と言おうとしたところで自分が解体すると発言したことを思い出したのか、サッと顔色が変わった。
ふふふ、察しが良くて助かるわぁ。
「ええ、解体をお願いしたいの」
私はにんまりと微笑みながらお願いした。
「ちょっと待ってくれ、昨日の今日だぞ? 手回し良すぎだろ⁉︎」
軽く動揺したシンは敬語が抜け落ちてしまい、傍でシンと一緒に仕込みの作業をしていた新人料理人達に「おい」とたしなめられて口を噤んだ。
確かにね。シンにしてみたら、ああは言ったものの、昨日の今日で「解体ヨロ☆」なんて言われるなんて思ってもみないだろうから、そりゃ動揺もするか。
私だって、黒銀の仕事の早さにびっくりしたし。ましてや、その量たるや……
今朝のことを思い出し、遠い目になりかけた私は慌てて現実へと意識を引き戻し、シンに再度お願いした。
「偶然にもオークがたくさん獲……いえ、手に入ったの。ギルドに解体を頼むと欲しい素材が手に入らないから、シンにお願いしたいの」
「オークが大量に手に入るとか、偶然なわけないだろ……」
シンが小声で突っ込むけれど、解体については昨日自分で言いだしたことだから、拒否権はないんだからねっ!
「クリステア様? どうなさいましたか? 何か新作でも作られるのですか⁉︎」
うわっ、料理長がいないうちにと思ってたのに、見つかっちゃった!
昨日みたいに色々とまとわりついて面倒なことになりそうだから、料理長が不在の時を狙ったのにぃ!
料理長はタタタッと私の元に駆け寄り、仕込みのメンバーの手が止まっているのを見つけると早く仕事に戻るように声をかけてから私に向き直った。
「申し訳ございません、クリステア様。それで、何かございましたでしょうか?」
「あの、私が彼らの手を止めてしまったの。ごめんなさい。それで、あの、シンを借りたいのだけど……」
「シンですか? 今彼は仕込みの最中ですので、私で宜しければ……」
うーん、何かとシンを頼っているからか、間近で私の料理を見たい料理長がやたらと張り合ってるような気が……でも今日は流石に料理長に頼むわけにはいかないと思うのよね。
「あの、オークがまるごと一体手に入ったの。それで、解体ができるシンにお願いしたくて……」
「オークを丸ごと? 一体どうやって……ああ、いやこれは愚問ですな。それならば、冒険者ギルドに解体の依頼をかければよいのでは?」
料理長は調理場の中では、シンを除いて黒銀達が聖獣であることを知っている一人だ。護衛である黒銀と真白の食事は基本私が準備することが多いし、二人とも私の魔力のこもった料理以外はさほど食べたいとも思わないみたいで、使用人と一緒に食事することはない。
料理長にはこれこれこういうことだから、と説明している。
「そうですか……それならば、私の出る幕ではございませんね。シン、クリステア様のお役に立つようにお手伝いしなさい。他の者はシンの仕事を分担しなさい」
「「「はいっ」」」
うわー、申し訳ない。インベントリに入っているから、今すぐじゃなくてもよかったのに、とも言えないし。
ごめんね、新人さん達。今度何か作ったら彼らにも何か差し入れしてあげないとね。
「仕方ねぇ、やるか……あ、でもどこで解体すりゃいいんだ……ですか? ここで解体できる場所なんてあんのか……あるのですか?」
「あっ!」
「おや、そういえば……どこならよいかギルバートさんに聞いてみないと」
そうか。解体場所の確保をしてなかったわ。つい、領地と同じ感覚でいたけれど、ここは王都だった。オーク丸ごと仕入れて解体なんてしないものね……
私は、料理長がサッと調理場を出て家令のギルバートの元へ確認に向かうのをありがたく待つことにしたのだった。
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