上 下
99 / 373
連載

黒銀にお願い

しおりを挟む
自室に戻った私は、聖獣の姿で床に寝ていた黒銀くろがねの元へ近寄った。
『主よ、小童こわっぱとの話は終わったのか?』
「小童って……シンのこと? 一応、成人しているんだから、本人にそんなこと言っちゃダメよ?」
シンはヤハトゥール人とのハーフだからか、前世の東洋人のように実年齢よりも若く見えるのだ。
本人はそのことを気にしているみたいだから、コンプレックスを刺激するような呼び方は避けてあげてほしい。
『フン、我からしてみればどいつも小童同然よ。悔しければ名前を覚えてもよいと思えるような働きをすればいいのだ』
……名前すら覚えてないのか。
聖獣って、自分の関心事以外は本当に無頓着というか……
「とりあえず欲しい情報は少しだけ掴めたわ。それで、黒銀くろがねにお願いがあるのだけど……」
私はインベントリから黒銀くろがね専用のブラシを取り出した。
『お願い? 主からの頼みとは珍しいな』
ブラッシングを始めると、黒銀くろがねは気持ち良さそうに目を細めて前脚に顎を乗せてリラックスしている。
「あのね、オークを狩ってきてほしいのだけど……あ、たくさんは要らないからね? 一~二匹でいいから」
以前黒銀くろがねにオークを狩ってきてとお願いしたら、集落を見つけて殲滅してきたことを思い出し、慌てて必要数を付け加えて念を押した。
とはいえ、オークの集落ができていれば後々厄介なことになるので、数が増えないように討伐しなければならない。
そうなるとたくさんは要らないよ! なんて言っていられないのだけど。
ま、その時はティリエさんに相談して納品時期を調整して値崩れしないようにするしかないか……
『ふむ。最近では王都の冒険者ギルドからの依頼でベーコンを手に入れるようとする冒険者が増えているそうだ。其奴らはついでとばかりに領地へ向かう道中、領地では常時依頼となっているオーク肉の素材買い取りのために積極的に狩っていると聞いた。そのため現在、領地ではオークがかなり減っていると聞く』
……領地ではそんなことになってたのか。ベーコンを手に入れるために王都の冒険者ギルドから冒険者におつかいの依頼があることも、ベーコン用の肉確保の為に領地ではオーク狩りが常時依頼になっていることも知っていたけれど。
なんだかんだでいつのまにか数が増えるといわれるオークがすっかりいなくなるほどって、どんだけ狩り尽くしてるの……?
値崩れどころの話じゃなかった。
『そのような状況では、大した個体も残ってはおるまい……河岸を変えてみるか』
「わ、悪いけれどお願いね。本当に少しでいいから。わざわざ探してまでたくさん狩らなくてもいいからね?」
『承知した』
黒銀くろがねはそう言うと、目を閉じて引き続きブラッシングを堪能したのだった。
黒銀くろがねのブラッシングを終えると、いつのまにか私の背中にべったりとくっついていた真白ましろが今度は自分の番とばかりに私の膝に寝転んだ。
もちろん真白ましろにも平等にブラッシングをするつもりでいたので、インベントリに収納していた真白ましろのブラシを取り出して真白ましろの背中に優しくブラッシングし始めた。
しばらくブラッシングしていると、真白ましろがボソリと呟いた。
『……おれも、おーくをかれるのに』
あらら、真白ましろが拗ねちゃった。
こういう時はついつい黒銀くろがねを頼っちゃうからなぁ。
真白ましろは自分でも狩れるって言うけれど、オークとの体格差を考えたら、ついつい黒銀くろがね頼りになってしまうのだ。
真白ましろが、私のために今は敢えて小さな姿でいてくれているのはわかっているけれど、この可愛らしい姿を見慣れているせいか、ついつい甘やかしてしまいたくなるというか……
大きなホーリーベアの姿を見たことがないからってこともある。
……前世のホッキョクグマみたいなのかな?
「もちろん、真白ましろには黒銀くろがねがいない間、私の護衛をしっかりしてもらわないとね。シャーケンの時みたいに、真白ましろにお願いしたい時は遠慮なくお願いするわね?」
『わかった。おれ、ほんとうはおーくをかるより、くりすてあのごえいのほうがいい』
「まあ、ふふ」
きゅ、としがみつく真白ましろをもふもふとなで、ブラッシングを続けたのだった。

---------------------------
庶民の味三巻は書店にて発売中!
そして、コミカライズが8/8より連載開始しました!毎月第二木曜日更新です。
生き生きと動き回る可愛らしいクリステアをぜひご覧ください!

そうそう、今回書籍三巻の帯にコミカライズの告知を入れたためWEB番外編の告知はありませんが、今回も番外編を書き下ろしております。
まだお読みではない方は、よろしければレジーナのサイトにてお読みくださいませ~( ´ ▽ ` )
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。