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シンのお願い
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料理長から情報を得た私は、調理場から出て自室へと向かった。
とりあえず、モツが実際に食べられているというのがわかっただけでも収穫だわ。
あとは、処理の方法だけれど……
前世のモツの扱い方で大丈夫なのかなぁ。
さすがにモツは処理済みのものしか買ったことないから、テレビやネットで見た方法を思い出しながらやってみるしかないか。
「おい、いや、お嬢……さま。ちょっとよろしいですか」
「え?」
背後から声をかけられて振り向くと、そこにはシンがいた。
「あら、どうしたの?」
「あー……さっきの件だけど……いや、ですが」
「料理長やミリアもいないし、別に言葉遣いは気にしなくてもいいのに」
「いや、そういうわけにもいかな……いきません。ここで働く以上はきちんとしないといけませんから」
真面目か。
でもまあ、領地とは違って王都では使用人の格も主人の評価になると言われたら頑張らざるをえないわよね。
「……わかったわ。それで? さっきの件って?」
私はシンに敬語を使われるのに違和感を覚えつつ言い淀むシンの言葉を待った。
「前にも臓物が使えないかと聞いてきたことがあったが、まだ諦めてなかったのか……ですか?」
ああ、そういえば以前にもシンには聞いたことあったんだった。すっかり忘れてたわ。
「あの時も敢えて処分することしか言わなかったが、臓物は肉を買うことができないやつらの貴重な食料なんだ。下ごしらえに手間はかかるが、食えないわけじゃない。高級肉だって手に入れられる貴族が、わざわざ口にしなくてもいいだろ?……すいません。いいと思うんです」
「あ……」
なるほど。シンはあの時、わざと言わなかったのか。
たしかに、貧しい平民の貴重なタンパク源だものね。それを私たち貴族が美食のために取り上げたら、彼らが食べられるものがなくなっちゃうと。
それで、臓物は捨ててるって言うだけに留めていたってことかな。
でも今回の料理長の話で、貧しい平民が臓物を食べていることを知られてしまった。
過去、冒険者ギルドで解体の手伝いをしていたシンがそういう需要があるのを知らないわけがないだろうから、敢えて言わなかったということなんだろう。
「お願いします。臓物についてはそっとしておいてやってください」
シンはそういって頭を下げた。
「ちょ、シン……」
「俺も、冒険者をしていた親がガキの頃に死んでたら、そういうものすら食えなかったかもしれない。俺は運良くギルドの手伝いができたから食うには困らなかったけど、そういうやつらがいるのは知ってたんだ。そいつらから食い物を奪いたくない」
頭を下げたままそういうシンに、私はなんと声をかけたものかと悩んだ。
たしかに、どんな食材だって手に入る私が彼らから貴重な食料を奪うことになりかねない。いや、モツ料理を新作として公表すれば、間違いなく彼らの食卓から消えてしまう。
でもお父様にうっかりソーセージのことを話しちゃったし……どうしよう。困った。
「前に使うからと臓物をインベントリにしまい込んだ時にどうしようかと思ったんだが、使う様子がないから諦めてたと思ってたんだ。黒銀様がオークを狩ってきたりすることがあれば、俺が解体してやるから、ギルドから買い取るのはやめてくれないか」
すっかり敬語がなくなってしまったシンだが、そんなことはどうでもいい。
「……前に? インベントリに……?」
しまい込んだ……?
「ああーっ⁉︎」
「えっ? な、何だ⁉︎」
突然叫んだ私にビクッとしたシンを横目に、インベントリ内を検索した。
……あった。モツが。
ビッグホーンブルをシンに解体してもらった時に、捨てられるくらいなら、と回収してたの忘れてた! タンもまるっと一本!
……でも、ビッグホーンブルの腸は体格に見合ってものすごく太かったから、ボロニアソーセージどころじゃない太さになりそうだし……
初めてのソーセージ作りには向かないよね。
「……お嬢……さま? どうしたんだ……ですか?」
シンが恐る恐る私の様子を伺っていた。
叫んでから考え込んでいたから、シンの存在をすっかり忘れてたわ。
「ねえ、シン?」
「お、おう。いや、はい。なんでしょう」
「オークを狩ってくれば、解体してくれるのね?」
「は? はあ、まあ……」
「わかったわ、ありがとうシン! おやすみなさい!」
「え? ちょっ、おい?」
私はシンにおやすみを言うと、踵を返して自室へと急ぐのだった。
---------------------------
拙作「転生令嬢は庶民の味に飢えている」3巻が書店に並びました!
よろしければお手にとっていただけると幸いです。
よろしくお願いいたします!
すでに手に入れられた方もいらっしゃると思います。ありがとうございます。
1巻と2巻の帯にあったWEBでの書き下ろし番外編の告知がありませんが、今回もありますのでレジーナのサイトにてお読みいただけますと幸いです!
今回は書き下ろし番外編のお知らせの代わりに、他の素敵なお知らせが掲載されております!お持ちの方で見逃されている方は、ぺろっと開いて見てくださいね。
私もとっても楽しみにしております!
詳しくは後日、近況のほうでお知らせしますね♪
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あとは、処理の方法だけれど……
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「おい、いや、お嬢……さま。ちょっとよろしいですか」
「え?」
背後から声をかけられて振り向くと、そこにはシンがいた。
「あら、どうしたの?」
「あー……さっきの件だけど……いや、ですが」
「料理長やミリアもいないし、別に言葉遣いは気にしなくてもいいのに」
「いや、そういうわけにもいかな……いきません。ここで働く以上はきちんとしないといけませんから」
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ああ、そういえば以前にもシンには聞いたことあったんだった。すっかり忘れてたわ。
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「あ……」
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たしかに、貧しい平民の貴重なタンパク源だものね。それを私たち貴族が美食のために取り上げたら、彼らが食べられるものがなくなっちゃうと。
それで、臓物は捨ててるって言うだけに留めていたってことかな。
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過去、冒険者ギルドで解体の手伝いをしていたシンがそういう需要があるのを知らないわけがないだろうから、敢えて言わなかったということなんだろう。
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シンはそういって頭を下げた。
「ちょ、シン……」
「俺も、冒険者をしていた親がガキの頃に死んでたら、そういうものすら食えなかったかもしれない。俺は運良くギルドの手伝いができたから食うには困らなかったけど、そういうやつらがいるのは知ってたんだ。そいつらから食い物を奪いたくない」
頭を下げたままそういうシンに、私はなんと声をかけたものかと悩んだ。
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すっかり敬語がなくなってしまったシンだが、そんなことはどうでもいい。
「……前に? インベントリに……?」
しまい込んだ……?
「ああーっ⁉︎」
「えっ? な、何だ⁉︎」
突然叫んだ私にビクッとしたシンを横目に、インベントリ内を検索した。
……あった。モツが。
ビッグホーンブルをシンに解体してもらった時に、捨てられるくらいなら、と回収してたの忘れてた! タンもまるっと一本!
……でも、ビッグホーンブルの腸は体格に見合ってものすごく太かったから、ボロニアソーセージどころじゃない太さになりそうだし……
初めてのソーセージ作りには向かないよね。
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シンが恐る恐る私の様子を伺っていた。
叫んでから考え込んでいたから、シンの存在をすっかり忘れてたわ。
「ねえ、シン?」
「お、おう。いや、はい。なんでしょう」
「オークを狩ってくれば、解体してくれるのね?」
「は? はあ、まあ……」
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