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余話〜輝夜のお留守番
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アタシ名は輝夜。
誇り高き魔獣……だったんだが、ヘマしちまって今はちっぽけな黒猫の姿だ。
こんな姿にされちまって、これからどうやっていきゃいいのかと悲観していたんだが、アタシをこんな姿に固定しちまったクリステアって小娘が、監視するという名目で住処と食い物を保証した。だからなんとかやっていけている……いや、正直なところ、こんなに楽できるなんて今までの苦労はなんだったんだ? ってくらい快適な生活を送っている……と、思う。
苦労して雨風をしのがずともあたたかく柔らかい寝床がある。ひもじくなりながら駆けずり回って食いもんを探さなくても腹が減る頃には美味いメシが出てくる。信じられなかったね。
はじめの頃はこれを食ったら次はもう無いかもしれないと、ガツガツと身動きできなくなるまで貪り食ったモンだけど、今では落ち着いて食えるようになった。というか、あの小娘……クリステアがアタシの食べる適量を見極め、それ以上出さなくなったからだ。もっと食べたいと思っても、なかなか出さなくなっちまったのはちょっと不満だね。
普段、小娘が聖獣契約しているフェンリルの黒銀とホーリーベアの真白が側にいる時、アタシは屋敷の中をうろつき、居心地の良さげな場所を見つけては昼寝三昧をしている。
小娘の近くにいると、あの聖獣どもは独占欲丸出しでアタシを寄せ付けまいとするからね。適度に魔力をいただけさえすりゃ、アタシは小娘にべったりしたいとは思わない。むしろ、小娘の方からアタシを構い倒そうとするもんだから、聖獣どもの嫉妬の目を向けられるんで勘弁してもらいたいぐらいだよ、まったく。
聖獣どもが警備のために屋敷の周りを偵察に回る時だけ、アタシはクリステアの側にいるようにしている。何かあれば奴らに念話で呼びかけさえすれば、転移で駆けつけるからね。ちょっとした監視役ってやつさ。アタシは首に付けられた魔導具のせいで自分の身を守るくらいしかできないからね。それでもまあ、小娘を聖獣どもの代わりに監視するくらいはできるだろうと思ってね。
まあ、そんな感じで今はうまいことやってるのさ。
つい昨日のことだ。小娘が『明日は海に魚を捕りに行く』と言い出した。
前に魚を持ち帰った時、美味い魚をたらふく食べたのを思い出す。うん、あれは美味かった。
アタシも過去に海のある土地に行ったことがある。それなりに魔力を持った魔物を喰らおうと襲ったら、逆に海におびき寄せられ、溺れちまった。
どうにかこうにか陸に上がって逃げ出し、それ以来海に行ったことはなかった。
だけど今は小娘がうまいこと魚を捕るみたいだし、ついて行ってとれたての活きの良い魚を食うのもいいかもしれないと思ったんだ。小娘も『今度は一緒に行こうね!』と言ってたことだしね。付き合ってやってもいいかな。
朝早くから出発すると聞いていたから、いつもより早く目が覚めたアタシは、調理場へと向かい、鳥のササミやらを出してもらい食べた。最近では屋敷内をうろつくと何かしら食いもんをくれるやつが何人かいる。おやつがわりにといただくが、その対価として小娘のようにモフらせて欲しいというので寛容なアタシは撫でさせてやるのだ。たまに度を越して触り倒そうとする不埒な輩は爪を立てないようにして顔を押しのけたり、尻尾で叩いてやるんだが、それすらも喜ぶんだから。小娘同様、変な連中だよ。
そんなこんなで軽めに朝食を済ませて部屋に戻ると、そこはもぬけの殻だった。魔力を探るものの、どこにも気配がない。
……どこに行ったんだ?
思っていると、ガチャリとドアが開いた。
「あら? 輝夜? ここにいたのね」
小娘かと思いきや、そこにいたのはミリアとかいう小娘付きの侍女だった。
「ンナー」
黒猫の姿の時は、アタシの今の力じゃ人間相手では契約者のクリステアとしか念話ができない。だからこいつの言うことに返事することしかできないのだ。
そんなアタシをミリアは抱き上げ、背中を撫でる。こいつの撫で方は優しく落ち着いているので安心して大人しく抱かれるままでいた。
「クリステア様たちは、先程お館様方と一緒にお出かけされたみたいだけど……あなたはお留守番なのね?」
「……ニャ?」
……は? なんだって? 出かけた⁉︎
あいつら、アタシを置いて出かけたってのかい?
「ギニャ⁉︎ ニャニャニャニャニャー!」
そりゃ本当かい⁉︎ アタシを置いてけぼりにしやがってー!
ミリアは憤慨するアタシに驚いてなだめる。
「きゃっ! ど、どうしたの? やっぱりお留守番はさみしかった?」
……! べ、別にさみしかったってんじゃないよ⁉︎ 置いていったのに憤慨してるだけさ! そりゃアタシも今回はついていくとは言わなかったけどさ……置いてかなくたっていいじゃないさ……
しょんぼりとうなだれたアタシをミリアは優しく撫でる。
「……久しぶりに私がブラッシングさせていただいても良いですか? おやつは、シンにお願いしてベーコンを焼いてもらいましょう?」
「……ニャ」
……仕方ないね。アンタがそういうなら付き合ってやろう。
アタシは尻尾でミリアの腕をするりと撫でた。
「輝夜ー! ごめん! ごめんなさい! 次は絶対に一緒に行こうね!」
クリステアは海から戻ってくるなり平謝りしてきた。アタシのことをすっかり忘れていたようで、ずっと謝り倒している。
だからってすぐに許すわけにはいかないね!
ツンと不貞腐れたポーズをとり続けていると、晩メシに豪華な魚の切り身……刺身とやらが山盛りになって出てきた。どうやらこれは詫びの印らしい。とっておきのを出してきたようだ、新鮮で美味かったよ。
まあ、また行くんだろうから今度はついて行くと意思表示しよう。うん。今度こそ、海で美味い魚をたらふく食べてやる。
……後日、学園とやらに入学したら、海にはあまり行けなくなると知り、密かに不貞腐れたのは秘密だ。
誇り高き魔獣……だったんだが、ヘマしちまって今はちっぽけな黒猫の姿だ。
こんな姿にされちまって、これからどうやっていきゃいいのかと悲観していたんだが、アタシをこんな姿に固定しちまったクリステアって小娘が、監視するという名目で住処と食い物を保証した。だからなんとかやっていけている……いや、正直なところ、こんなに楽できるなんて今までの苦労はなんだったんだ? ってくらい快適な生活を送っている……と、思う。
苦労して雨風をしのがずともあたたかく柔らかい寝床がある。ひもじくなりながら駆けずり回って食いもんを探さなくても腹が減る頃には美味いメシが出てくる。信じられなかったね。
はじめの頃はこれを食ったら次はもう無いかもしれないと、ガツガツと身動きできなくなるまで貪り食ったモンだけど、今では落ち着いて食えるようになった。というか、あの小娘……クリステアがアタシの食べる適量を見極め、それ以上出さなくなったからだ。もっと食べたいと思っても、なかなか出さなくなっちまったのはちょっと不満だね。
普段、小娘が聖獣契約しているフェンリルの黒銀とホーリーベアの真白が側にいる時、アタシは屋敷の中をうろつき、居心地の良さげな場所を見つけては昼寝三昧をしている。
小娘の近くにいると、あの聖獣どもは独占欲丸出しでアタシを寄せ付けまいとするからね。適度に魔力をいただけさえすりゃ、アタシは小娘にべったりしたいとは思わない。むしろ、小娘の方からアタシを構い倒そうとするもんだから、聖獣どもの嫉妬の目を向けられるんで勘弁してもらいたいぐらいだよ、まったく。
聖獣どもが警備のために屋敷の周りを偵察に回る時だけ、アタシはクリステアの側にいるようにしている。何かあれば奴らに念話で呼びかけさえすれば、転移で駆けつけるからね。ちょっとした監視役ってやつさ。アタシは首に付けられた魔導具のせいで自分の身を守るくらいしかできないからね。それでもまあ、小娘を聖獣どもの代わりに監視するくらいはできるだろうと思ってね。
まあ、そんな感じで今はうまいことやってるのさ。
つい昨日のことだ。小娘が『明日は海に魚を捕りに行く』と言い出した。
前に魚を持ち帰った時、美味い魚をたらふく食べたのを思い出す。うん、あれは美味かった。
アタシも過去に海のある土地に行ったことがある。それなりに魔力を持った魔物を喰らおうと襲ったら、逆に海におびき寄せられ、溺れちまった。
どうにかこうにか陸に上がって逃げ出し、それ以来海に行ったことはなかった。
だけど今は小娘がうまいこと魚を捕るみたいだし、ついて行ってとれたての活きの良い魚を食うのもいいかもしれないと思ったんだ。小娘も『今度は一緒に行こうね!』と言ってたことだしね。付き合ってやってもいいかな。
朝早くから出発すると聞いていたから、いつもより早く目が覚めたアタシは、調理場へと向かい、鳥のササミやらを出してもらい食べた。最近では屋敷内をうろつくと何かしら食いもんをくれるやつが何人かいる。おやつがわりにといただくが、その対価として小娘のようにモフらせて欲しいというので寛容なアタシは撫でさせてやるのだ。たまに度を越して触り倒そうとする不埒な輩は爪を立てないようにして顔を押しのけたり、尻尾で叩いてやるんだが、それすらも喜ぶんだから。小娘同様、変な連中だよ。
そんなこんなで軽めに朝食を済ませて部屋に戻ると、そこはもぬけの殻だった。魔力を探るものの、どこにも気配がない。
……どこに行ったんだ?
思っていると、ガチャリとドアが開いた。
「あら? 輝夜? ここにいたのね」
小娘かと思いきや、そこにいたのはミリアとかいう小娘付きの侍女だった。
「ンナー」
黒猫の姿の時は、アタシの今の力じゃ人間相手では契約者のクリステアとしか念話ができない。だからこいつの言うことに返事することしかできないのだ。
そんなアタシをミリアは抱き上げ、背中を撫でる。こいつの撫で方は優しく落ち着いているので安心して大人しく抱かれるままでいた。
「クリステア様たちは、先程お館様方と一緒にお出かけされたみたいだけど……あなたはお留守番なのね?」
「……ニャ?」
……は? なんだって? 出かけた⁉︎
あいつら、アタシを置いて出かけたってのかい?
「ギニャ⁉︎ ニャニャニャニャニャー!」
そりゃ本当かい⁉︎ アタシを置いてけぼりにしやがってー!
ミリアは憤慨するアタシに驚いてなだめる。
「きゃっ! ど、どうしたの? やっぱりお留守番はさみしかった?」
……! べ、別にさみしかったってんじゃないよ⁉︎ 置いていったのに憤慨してるだけさ! そりゃアタシも今回はついていくとは言わなかったけどさ……置いてかなくたっていいじゃないさ……
しょんぼりとうなだれたアタシをミリアは優しく撫でる。
「……久しぶりに私がブラッシングさせていただいても良いですか? おやつは、シンにお願いしてベーコンを焼いてもらいましょう?」
「……ニャ」
……仕方ないね。アンタがそういうなら付き合ってやろう。
アタシは尻尾でミリアの腕をするりと撫でた。
「輝夜ー! ごめん! ごめんなさい! 次は絶対に一緒に行こうね!」
クリステアは海から戻ってくるなり平謝りしてきた。アタシのことをすっかり忘れていたようで、ずっと謝り倒している。
だからってすぐに許すわけにはいかないね!
ツンと不貞腐れたポーズをとり続けていると、晩メシに豪華な魚の切り身……刺身とやらが山盛りになって出てきた。どうやらこれは詫びの印らしい。とっておきのを出してきたようだ、新鮮で美味かったよ。
まあ、また行くんだろうから今度はついて行くと意思表示しよう。うん。今度こそ、海で美味い魚をたらふく食べてやる。
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