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2巻

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『うるさいね! このチビ! 黙ってな!』
『ちびじゃない。いまは、おまえのほうが、ちび』

 真白が黒猫さんの頭を前脚で押さえつける。

『グッ! この……っ、覚えときな!』
『しょぶんされる、ちっぽけなまじゅうのことなんて、おぼえるわけない』

 おおお? 真白、怒ってる? 執務室の空気が、冷え冷えとしてる……

『くりすてあを、たべようとしたの、ゆるさない』
『そうだの。あるじきばにかけようとしたことは、到底許されない。万死ばんしあたいする。食い出はなさそうだが、我がってしまおうか。腹をくだしそうだがな』

 黒銀も、結構怒ってるね?

『ヒッ……!』

 黒猫さんが短く悲鳴を上げ、ガタガタと震え始めた。
 私はというと、周りが怒っているので逆に冷めてしまった。
 っていうか、真白と黒銀が、弱いものいじめしてるみたいな図になっていてね……。私のためとはいえ、いたたまれない。
 このままだと、黒銀が本当に黒猫さんをべちゃいそうだなぁ。
 目の前でスプラッタを繰り広げられるのは……ねぇ? ちょっとしたホラーだよ。そんなの見たくない。それに――私、実は猫好きでもあるんだよね。飼ってみたいんだけど、そんなことを言っても、聞いてもらえないよね。えぇと、それじゃあ……

「殺処分しないで、このまま監視するわけにはいかないのでしょうか?」
「『『はあ?』』」

 おお、見事なユニゾン。お父様と真白、黒銀が声を揃えた。

「クリステア、其方そなたは自分が何を言っているかわかっているのか?」

 信じられないという表情で、お父様が私に問いかける。

「ええ、もちろんですわ」
「まさか、契約する気か?」
「いえ、契約はいたしません」
「契約もしないでそばに置くことなど不可能だ。ましてや、捕縛ほばくし続けることなんて、できるはずがない。いつか隙を突いて逃げ出すぞ?」
『その通りだ、あるじ。契約せずに魔獣をそばに置くことなど、不可能だ』

 難色を示すお父様と黒銀。
 私は少し考えて、解決策を提案する。

「魔力が一定量以上増えないようにできれば、この姿を保てますよね。そうしたら、悪さもできないのではないでしょうか?」
「そんなこと……いや、待て。そう言えばアレが……」

 お父様は即座に否定しようとしたが、何か思いついたようで、執務机の引き出しをあさり始めた。
 そこから取り出したのは、大きな魔石が連なるように配置された、バングルのようなもの。

「これは、生まれつき魔力量の多すぎる者や、魔力の使用を制限させたい者に対して使う、魔導具だ。多すぎる魔力を魔石の中に吸収するよう、条件付けしてある」

 なるほど。魔力暴走防止アイテムってやつね。

其方そなたが生まれた時、其方そなたの魔力量が多いと知り、これが必要になることもあるかと取り寄せておいたのだが……」

 おおっと、まさか私用になる予定だったブツだとは。
 私は内心おののきながらも、お父様に話の続きをうながす。

「これが黒猫さんに使えるということでしょうか?」
「ああ、恐らく。しかし魔力を適度に吸収するという条件だけではな……。この魔導具を外されてしまっては、意味がない」
「外せないように固定する方法はないのですか?」
「条件の書き換えが必要だな。この魔導具を行使する者が、条件を書き換えるだけの力を持たなければできないが」
「なるほど。それなら、やってみます。魔導具を貸していただけますか?」

 私が手を差し出すと、お父様は魔導具を私から遠ざけるようにして、眉をひそめる。

「これを使わずとも、さっさと処分すればいいだけのことだろう」
「お父様。私は真白や黒銀に無益な殺生せっしょうはさせたくないのです」
『くりすてあ……』
あるじ、我等のことを思って……』

 真白と黒銀が、感動した様子でこちらを見た。

「そこまで言うのなら、やってみるがいい。できなければ、処分するまでだ」

 根負こんまけしたお父様は、私に魔導具を渡そうとする。
 よしよし――と思っていたところで、お父様がピタリと動きを止めた。

「待て。其方そなた、昔から猫が飼いたいと言っていたな。まさか、この黒猫を飼いたいなどと思ってはおるまいな?」

 ぎくっ! お父様、するどい! そしてよく覚えてらっしゃいましたね!?

「契約せずとも、魔導具で矯正きょうせいする以上は、私が責任持って監視しようとは思っております」

 そう言ってみたものの……うう、お父様の顔が見られない。

『くりすてあ?』
あるじ?』

 真白と黒銀も、疑惑の眼差まなざしを向けてくる。
 あっ、さっきまでいい感じだったのに! その眼差まなざしがつらい! 図星なだけに、良心が痛む!

「と、とりあえず! 魔導具の書き換えをいたしますわね!」

 これはもう、さっさとやってしまおう!
 疑惑の眼差まなざしの中、私はお父様の手から奪うようにして魔導具を手に取った。

「あの、書き換えってどうすればよろしいのですか?」

『やってみます』とは言ったものの、書き換えの方法を知らない。私のおばかー!
 ううっ、大口を叩きながら何もできなくて、恥ずかしい。
 固まる私に、お父様があきれたように説明してくれる。

「私が過去にほどこした条件は、書き換えられるように解除してある。魔導具を手にして、魔力を込めながら書き換える条件を念じればよい。それで行使する者と、される者への条件の登録になる」
「わ、わかりました。ありがとうございます、お父様。まずは、魔力量の制限、かしら? 黒猫さんから黒ヒョウ……大きな魔獣に変化できる魔力量を超えないように」

 これは、絶対条件だよね。

「次に、他者を害さないこと。少しでも悪意を持って傷つけようものならば、その時点で身動きができなくなるほど、魔力を奪い取るものとする。故意に魔導具を外そうとした時も同様とする。ただし、悪意ある第三者に対する抵抗が必要な場合は、その限りではない」

 要は、悪さをしたらお仕置きしますよってことね。でも悪い奴に攻撃されたりした時に全く抵抗できないのはかわいそうだから、その時は例外ね? って感じかな。

『は? ちょ、ちょっと待ちなよ! 何勝手なこと……』

 黒猫さんが何やら騒いでいるけど、聞こえなーい! 気にしなーい!

「また、私が死ぬようなことがあれば、その時はすべての魔力、命をも奪い取るものとする。第三者を利用し、魔導具を外そうとした時も同様。黒猫さんの死後、魔導具の魔石に残る魔力はそのままに、魔導具に登録した条件はすべて白紙とし、機能しなくなるものとする。最後に、すべての条件は、私の自由意志で随時変更可能とする」

 こんなもんかな? ……と思った瞬間、魔導具がポワンと輝く。その光はすぐに消えた。

「あ、これで書き換えができたのかしら?」
『なっ、なんでそこまで徹底すんだい!? 解放しなよぉ!』

 涙目で抗議する黒猫さん。

「……何かかん違いされているようですけれど、私のわがままであなたを処分しないだけですよ? 私が死ぬことで自由になるのなら、あなたはどんな手を使うかわからないじゃないですか。それなら道連れにしておかないと。私を守らないとあなたも消えちゃう、というのが合理的でしょう」

 おびえる黒猫さんに、私はなおも続ける。

「なんだかご不満みたいですが、優しい条件だったと思いますよ? 本来ならば『すぐ処分された方がマシだった』と思うくらいの苦痛を与えなければ、罰にならないと思いますけど……。最後は苦痛すら感じる間もないほどすみやかに、かつ安らかに永遠の眠りにつけるのですから」
『ヒイィ……!』

 私がにっこり笑いながら言うと、黒猫さんはガタガタと震えあがってしまった。腰が抜けて動けないようだ。……脅かしすぎたかな?

あるじ、それはちと、えげつないのではないか?』
『くりすてあ、こわい』

 黒銀と真白がドン引きしている。
 さっきまで黒猫さんをべちゃおうとしていた君たちには、言われたくないよ?
 それに私だって、黒猫さんがお兄様たちを食べようとしたこと、怒ってるんだから。
 黒猫さんには、少しは怖い思いしてもらわないとね。
 でも、突然の事故や病気で私に何かあった時、本当に条件付けた通りになっちゃうのは、可哀想かな。……が、頑張って生き残ろう。長生きしよう、うん。

「大丈夫、私が死ななければいいことですもの。それに、黒猫さんにとっても特典はありますよ?」
『ヒィ……え? 特典?』
「ええ、私の監視下にいれば、食べるものや寝床には困りません。その姿のままならば真っ先に困ることでしょう?」
『そ、そりゃそうだけど、でも……』
「さらに、定期的に私がブラッシングやマッサージをおこないます。気持ちよかったでしょう?」
『マッサージ……あうぅ』

 もふられた時のことを思い出したのか、もじもじする黒猫さん。
 ふっふっふ、私のフィンガーテクは忘れられまい。

「お嫌でしたら、しませんけど」
『い、嫌なんて言ってないよっ! ど、どうせ逃げられないんだし、好きにすりゃいいだろっ!』

 黒猫さんは半ギレだ。

「まあ、そうなんですけどね」
『ぎにゃっ!?』

 私が魔導具を黒猫さんの首に装着すると、魔導具は大きさが自動的に変わってぴったりフィットした。おお、サイズ調整機能付きなんだね。

あるじ、魔獣を誘惑ゆうわくし、陥落かんらくさせてどうする』
『くりすてあの、うわきもの』
「えっ?」

 黒銀と真白に、白い目で見られてしまった。さらには、お父様まであきれた様子で口を開く。

「クリステア……。其方そなたのしていることは、名付けをしないだけで、魔獣契約とほぼ変わらんような気がするが?」
「えっ?」

 ……もしかして、私、やらかしちゃった?


 魔獣の黒猫さんに首輪をつけてから、真白と黒銀の機嫌が急降下してしまった。
 人間と契約した聖獣は、契約者に対する独占欲が強い。真白と黒銀は、二匹の時もちょっと張り合っていたのに、さらに黒猫さんが増えたから我慢ならないみたい。
 私はご機嫌取りで大変です。

『くりすてあは、おれたちのこと、どうでもいいんだ』
「そんなことないってば」
『やはり、あの時ひとのみにしておけば』
「そんなこと言わないの」

 そんなやりとりと共に、自室にてブラッシングアンドもふりタイムが延々と続いております。
 さすがに手が疲れた……
 黒猫さんは同じ部屋にいるんだけど、魔力補給しようと私に近寄ると、真白と黒銀にていっとねのけられてしまう。魔力補給なんて、ちょっとの間くっついてるだけでもできるのに、それすら許せないらしい。
 そんなことを何度か繰り返した末に、黒猫さんは部屋の隅でふて寝し始めた。ごめんよ、今は耐えてくれたまえ……

『こうなってしまったからには仕方ないが、あやつが我らの中では最下層であることは、確定事項だぞ? そもそも契約していないのだからな』

 ようやく機嫌が直った黒銀が、念を押してきた。すると真白が割り込んでくる。

『くりすてあ、おれがいちばんだよね?』
『何を言う。我が一番に決まっておろう』
「あーはいはい。どっちも一番ですってば」

 順位をつけようものなら、血で血を洗う争いが勃発ぼっぱつしかねない。

『アホらし。あーあ、天下の聖獣様が人間なんかにびて、みっともないったらありゃしない』

 そう言った黒猫さんを、真白と黒銀が一蹴する。

『『最下層さいかそうだまってろ』』
『……! フン!』
「……はあ、お願いだから仲良くしてよね?」

 契約聖獣は独占欲が強いと知っていたのに、やらかした私が悪いんだけど……
 ちょっとは仲良くして欲しいなぁ。
 そんなことを思っていると、黒銀が保留にしていた問題を蒸し返してきた。

『結局、名付けはせんのか?』
「名付けたら、契約が完了しちゃうんでしょう? 魔獣と契約したら危険だからしない方がいいって聞いたけれど……」

 そういえばお父様は、『これでは魔獣契約とほぼ変わらない』と言ってたな。

『身近に置くなら名前がないと不便ではないか?』
「まあ、そうね。でもなんとかなるんじゃない? 黒猫さんとか、適当に呼べば」
『本当に適当だな。あるじよ、あそこまでガチガチの条件で縛れば、契約したも同然だぞ? あの条件ならば、名付けで契約が完了したところで、あやつは自分の命がかかっておるからあるじのことを害せぬ。むしろ死にものぐるいでまもることになるだろうよ』

 それなら、契約しても問題ないかな。反対されたら面倒だから、お父様には内緒にして……

『それに、なにかあっても、おれがくりすてあをまもるからね?』
『そうだな。我らがあるじまもるから、気にすることはないぞ?』
「真白、黒銀……ありがとう」

 二人はこんなに私のことを思ってくれているのに、私はもふりたいという理由だけで黒猫さんをかばってしまって……なんだか、申し訳ない。でも、二人に無益な殺生せっしょうはさせたくないしね。

『それに、あるじはあやつのことを黒猫と呼ぶが、我の名前とやや被るのが気に食わぬ。違う呼び名にしろ』

 もしかして――黒銀にとって重要なのは、そっちだね? もう、黒銀ったら。

『ていへんとかでいいんじゃない?』
「ていへんって……底辺!? ま、真白ったら、そういうことを言っちゃだめ!」

 真白、容赦ようしゃないなぁ。

『ちょっと! さっきから黙って聞いてりゃ、好き放題言ってるんじゃないよ!』
『『だま底辺ていへん』』
『きいぃ!』

 キシャー! といかりをあらわにする黒猫さんに、冷ややかに返す真白と黒銀。
 んもー、ほんっとに仲悪いなぁ。このままじゃ、真白たちは本当に黒猫さんを『底辺』って呼びそうだ。
 さすがに不憫ふびんだから、名前を考えたほうがいいかな。女の子の黒猫さんに合う、『黒』を使わない名前、ねぇ。
 ミケは違うし、タマは論外。名付けのセンスが皆無な私は、頭を抱える。

「黒猫さんの名前……黒は使わないで、かぁ」

 やみはいかにも魔獣っぽいから嫌だなぁ。
 うーん……夜? 夜ならいいんじゃない? つややかな毛並みだし、艶夜と書いて『えんや』とか? ……某アーティストか。それに字面じづらがちょっとなまめかしいかな。
 他に夜で連想するのは何だろう? 黒猫さんの目は金色だから、星夜、月夜? なんか違うな。
 うーん、月……かぐや姫……そうだ!

「かぐや。輝く夜と書いて輝夜かぐやはどう? 夜を連想させる黒い毛並みと、月を連想させる瞳にぴったりだと思うのだけど」
『底辺の名前にしては立派すぎるのではないか?』
『こいつには、もったいない』

 黒銀と真白は手厳しいなー。
 二人はともかく、黒猫さんの反応はどうかなと、様子をうかがうと――

『かぐや……輝く夜? アタシが?』
「そう。異国には、かぐや姫っていう名前のプリンセスのおとぎ話があるのよ?」
『プ、プ、プリンセスなんて! ア、アタシには似合わないよ……そんながらじゃないし』

 黒猫さんはモジモジしていて、満更まんざらでもなさそうだ。

「気に入らない?」
『そ、そんなことないよ。でも……』

 チラッと真白と黒銀を見る黒猫さん。二人のコメントが気になったみたい。

「私は輝夜って名前にしたいんだけどなぁ……だめ?」
『し、仕方ないねっ! アンタがそう言うなら従うしかないじゃないかっ! ふん! 好きに呼びゃいいだろ!』

 ……悪態あくたいをつきつつも、尻尾はぴんと嬉しそうに立っている。
 おお、これがツンデレというものか!!

「じゃあ、あなたの名前は輝夜ね?」

 黒猫さんのツンデレっぷりにニヨニヨしながらそう告げると、真白たちと契約した時と同じく、何かの回路が繋がるような感覚がした。これで契約完了かな?
 なんだかちょっと疲れちゃったなぁ……
 そんなことを思っていると、騒がしい声が聞こえてきた。

『こいつに、おひめさまのなまえなんて、なまえまけしてる』
『まあ、こやつはプリンセスというがらでは確かにないな』
『うっさいよ!』
「もう……ケンカしたらご飯抜き! だからね!」

 この一言で舌戦はピタリとやんだ。さすが、伝家でんか宝刀ほうとう『ご飯抜き』。効き目あるなぁ。


 あれから、黒猫さん――輝夜がもじもじしながら、かぐや姫とはどんな話なのかと聞いてきた。
 私はところどころ合っているかあやしいものの、内容を語ってみせる。

「……というわけで、かぐや姫は月に帰ってしまったの」
『ふーん』
『ふむ』
『……うう、いい話じゃないかぁ……』

 真白と黒銀はそっけない反応だけど、輝夜はなんだか感動している。
 そんな彼女を横目に、黒銀が首をかしげて口を開く。

『要は、結婚したくないがゆえに、言い寄る貴族どもに無理難題を出してみつがせた挙句あげく、トンズラしたということか?』
『なるほど』

 黒銀の解釈に、私は慌てて反論する。

「ちがーう! いや、解釈の仕方によってはそうとも取れるかもしれないけど……ち、違うからね!」
『……アンタたち、ほんっとに性格悪いね!?』

 輝夜がそう言うと、黒銀はフンと鼻を鳴らした。

『魔獣に言われたくないわ。性格の悪さは、魔獣の方が一段上を行くからな』
『かぐやは、しょうわる』
『きいぃ! アンタたち覚悟しな!』

 キシャー! と、黒銀たちに飛びかかろうとする輝夜。

「あっ輝夜!? ダメよ!」
『へ? ……ふ、ふにゃあ?』

 飛びかかろうとした瞬間、輝夜はへなへなとその場にくずおれた。魔導具の首輪が作動し、魔力を吸い取られたらしい。

「……だから言わんこっちゃない」
『ま、魔力があぁ……』
『がくしゅうのうりょく、ないね?』
『悪知恵は働くだろうにのぉ?』

 ……真白、黒銀。さては、わざと挑発したな?
 しばらくすると、輝夜はなんとか動けるようになった。身動きが取れないほど魔力を吸い取られるのは少しの間だけで、時間が経過すると、ある程度の魔力は回復するらしい。

『うにゃあ……ひどい目にった』
「もう。条件は知ってるんだから、気をつけないと」
『条件を付けたのはアンタだろぉ!?』
「そうよ? もっとガチガチな条件に変更してもいいけど?」
『……滅相めっそうモゴザイマセン』

 私は輝夜を膝の上にのせ、もふり始めた。
 真白と黒銀から大ブーイングが起きたけど、さっき輝夜を挑発したことを指摘して黙らせる。
 ちょっとのことで、大変な騒ぎだ。

「はあ……契約獣が増えれば増えるほど、大変な気がする。セイはどう対処してるのかなぁ?」

 セイは、東の島国ヤハトゥール出身の男の子で、私の友達だ。なんでも、後継者争いで命を狙われたため、留学を名目にここドリスタン王国に逃げてきたらしい。ヤハトゥールは前世の日本にそっくりな文化を持つ国らしく、私が日本の食材を求めていた時、ヤハトゥールの輸入品を扱うバステア商会で出会ったのだ。
 そんなセイは、白虎びゃっこ朱雀すざく青龍せいりゅう玄武げんぶの四神獣と契約している。彼らは聖獣と似たような存在ではあるものの、ヤハトゥールでは神獣と呼ばれているのだとか。
 たしか、ヤハトゥールをつ時に、一気に契約することになったんだっけ? 契約した時の状況が違うから、彼と自分を比較してもしょうがないか。
 ……そういえば、真白や黒銀とダブル契約をしたのは、セイと契約してる白虎様が原因だったなあ。私の魔力が美味しいから魔物に狙われるんじゃないかと心配して、護衛として真白たちを連れてきてくれたのだ。あの時は本当にびっくりした。
 とはいえ、契約したことで助かったこともある。
 聖獣がまもってくれるからという理由で、お出かけできるようになったり、もふれたり、もふれたり、もふれたり……大事なことなので繰り返し言いました。
 その時――背後から突然、声が聞こえた。

「おい、お嬢。お前、膝に何をのせてんだ?」
「ひゃあっ!?」

 私は驚いて飛び上がる。振り向くと、そこには噂をすればなんとやら……白虎様がいた。
 普段は魔力の消費を抑えるためにミニサイズの虎の姿なのだけど、今は人型の男性の姿だ。どうやら転移魔法でやってきたらしい。

『おいこら、白虎の! あるじの背後を取るでない!』
『くりすてあをびっくりさせたら、だめ!』

 私の代わりに抗議してくれる黒銀と真白。私は心臓を落ち着かせながら、ゆっくりと息を吐く。

「ああ、びっくりした。白虎様、どうなさったんです?」
「ん? お前さんに届け物があってな。それより、その黒いのはどうした?」

 白虎様は輝夜を指さして聞く。あれ? 輝夜がカチコチに固まってる。

「どうしたの、輝夜? ええと、この子は今日契約した、魔獣の輝夜ですわ」

 輝夜をゆさゆさと揺らしても、身じろぎひとつしない。心なしか冷や汗をかいているような……肉球が汗でしっとりしてる?
 そんな輝夜はおかまいなしに、白虎様は私に詰め寄った。

「は? 魔獣と契約? お前、何考えてるんだ!?」
「そう言われましても……」

 かくかくしかじかと、成り行きを説明すると、白虎様はあきれる。

「お前なぁ……。俺が何のために真白や黒銀を探してきてやったと思ってんだ」

 私の魔力を狙う魔物たちからまもってもらうためですよね? わかってます。

あるじは自分で此奴こやつ退しりぞけ、支配下に置いてしまったのでな。我らの出る幕なぞなかったわ』
『まもらせて、くれなかった』

 ねたように言う黒銀と真白。
 あああ、ごめんよぉ……君たちのプライドをへし折るつもりはなかったんだけど。

「お前な、今後ほいほい契約するんじゃないぞ? これ以上面倒見きれんだろ?」
「はい。気をつけます」

 白虎様のおしかりを受け、私は頭を下げる。

「わかったならいい。おい、そこの」
『ピャッ!?』

 白虎様は、ひょいと輝夜の首根っこをつかんで持ち上げた。
 輝夜はかなり緊張して……いやおびえてる?

「ふーん? 元はそこそこ強い魔獣のようだが、今は普通の猫より魔力が強い程度ってとこか」

 輝夜をしげしげと眺める白虎様に、私が応じる。

「首にめている魔導具で、猫型を維持できる程度の魔力しか持てない仕様にしています」
「契約獣の魔力をぐなんて、普通はやらねぇけどなぁ」
「元々契約する予定ではありませんでしたので」
「そうか。しかしこのままじゃただの愛玩動物でしかないぞ?」
「私としてはもふれるだけで満足なので、大丈夫です」
「まあ、まもりだけなら真白と黒銀で十分とは思うが。今回のように不意を突かれたら、やばいんじゃないか?」

 うっ、それを言われると……。私は言葉に詰まる。

「いざという時に備えて、これも戦力になる方がよくないか?」

 白虎様はそう言うと、ガチガチに固まった輝夜を私の膝に下ろす。その瞬間、輝夜はダッシュで部屋の隅に隠れた。
 私は輝夜を目で追って少し考えてから、白虎様に向かって首を横に振った。

「すぐに力を戻しては罰になりませんし、反省もしないでしょう?」
「お嬢は手厳しいねぇ」

 くくっと笑う白虎様。
 むっ。そんなことないと思うけど。

「白虎様は反省の時間が短いから、りないんじゃありませんこと? セイに伝えておかないといけませんわね?」

 ジト目でそう告げると、白虎様は慌てた。

「だあぁっ! お前なぁ。あいつには余計なこと言うなよ!?」
「冗談ですよ。それより、先ほどおっしゃっていた届け物ってなんですの?」
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