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1巻
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しおりを挟むあれから、あの手この手でお父様を説得し、辞去しようとする少年をなんとか勧誘(という名の確保を)して、晴れて少年は我がエリスフィード家の料理人と相成りました。やったね!
うん、私のための庶民の味専属料理人にしちゃうよね!? するしかないよね!?
私、めーっちゃ頑張った! 今までにないくらい熱心に両親を口説き落としたのだ! 頑張った自分を褒めてあげたい!
その情熱をもっとお勉強にも向けましょうね、とお母様やミリアに釘を刺され、少年を雇う交換条件としてお勉強の時間を増やされたけど。うぐぅ。
しかしお小言その他諸々、甘んじて受け入れましょう。今の私はとても機嫌が良いのだから!
少年はシン・カイドゥーと名乗った。漢字で書くなら海堂真、あたりかなぁ? 東の島国に漢字なるものが存在するかわかんないけどね。
前世の記憶のこともあり、ついつい少年呼ばわりしていたけど、彼はなんと十六歳で、私より八つも上だった。欧米の人からすると東洋系は若く見えるって聞いたことがあるけど、こちらの世界でも同じなのかなぁ。
背はそれなりにあるものの、ひょろひょろの細身だから、年齢を聞くまでは十二歳くらいかなぁと思っていた。実際の年齢を聞いて、皆一様に「えっ?」という反応をしたせいで、シンが少し落ち込んでいたのはここだけの話。
後日、我が家で供されたオクパル……たこ焼きは大好評でした。ふふふ、そりゃあ美味しいに決まってるよねっ! また食べられて幸せ♪
お父様もお母様も熱々を頬張り、目を白黒させながらも美味しそうに食べていた。今は学園で寮暮らしをしているお兄様にも、いつかご馳走したいな。
シンにオクパルの作り方を聞いたら、ほぼ前世と同じだったよ。材料の名前は馴染みがないものばかりだったけど。これから色々教わろうっと! 夢が広がるわぁ。
そして、オクパルのメインの素材であるオクシーは、やっぱりタコっぽい生き物でした。お湯に入れたら足がくるんってなるところも同じだった。
ミリアは生のオクシーを見て、「あ、あれを食べてしまったなんて……!」と卒倒しそうになっていたけど、いざオクパルが焼き上がると、「食べ物に罪はないですよね」なんて呟きながら食べていたのを私は知っている。
シン曰く、見た目がかなーりグロテスクなオクシーを食べたがる人は少ないから、元の形が想像しづらいオクパルにして売ることにしたらしい。需要がないので、仕入れ値も安いそうだ。
シンが皆の目の前でオクパルを焼いているのを見て、「私もオクパルを作ってみたーい!」と子供らしく駄々をこねて、無理矢理焼かせてもらった。……返しのところを手伝わせてもらっただけとも言う。
私が見事な手さばきを披露すると、成形させるのが速くて上手いとシンに褒められた。そりゃあね、こちとら年季の入り方が違いますよ? こっちの世界では初めてだけど。
まんまるとした可愛らしい形と手軽さから、立食パーティの時にいいわね、なんて声も上がった。
でも、材料を知ってミリアみたいに卒倒しそうになる人が続出しても困るから、中身を変えて作るのもいいかもしれない。
よーし、これからはシンを東の島国の庶民の味担当として、食生活を充実させるんだからねっ!
第二章 転生令嬢は、勉強よりも料理がしたい。
「ねえ、シン。私、今夜はウーロンが食べたいですわ」
「却下です。あいにくと今夜のメニューは決まっておりますので」
にっこり笑って小首を傾げ、可愛らしくおねだりする私を一瞥することもなく、シンは調理場の隅で野菜の下ごしらえを続ける。
「えーっ! いいじゃなーい! ウーロン食ーべーたあーいーっ! ウーローンーっ!」
ちなみに、ウーロンとはお茶ではなく、うどんのことだ。
子供のように駄々をこねつつ、テーブルをバンバンと叩く。あっ、私、子供だったわ。
「地が出てるぞ、お嬢様」
「あらやだ、おほほほ」
「とにかく却下」
「うう、シンのいじわる!」
「はいはい」
周りにいた料理人たちがくすくすと笑っているのが聞こえる。うっ、恥ずかしい。
あれから半年。私は九歳になり、シンは我が家の料理人としてすっかり馴染んだ。
エリスフィード家定番のコッテコテ料理に、シンの作る珍しい異国風料理も加わり、それに影響を受けた料理長が奮起して我が家の食生活はバリエーション豊かになってきた。良きかな良きかな。
先程のやりとりからわかるように、シンには既に地がバレている。
初めはシンの前でも令嬢らしく振る舞おうと頑張ったけれど、美味しいご飯の前ではついつい油断して、何匹も被っていたはずのにゃんこがマタタビを与えられたかのようにごろにゃんと剥がれ落ち……うん。バレたよね、てへ。
シンも雇われの身だし、最初こそ公爵令嬢相手に不敬になるのではと緊張していたらしいけど、私の残念っぷりに呆れて今は対応が雑になっている。ええ、とても雑です。まぁ気にしてないけどね! むしろこっちも気を遣わなくてよいけどねっ!
しかし、この拒否られっぷり……私の庶民の味専属料理人計画どこいった? ぐぬぬ。
とはいえ、シンの前で気を抜いて地を出していると、ミリアに淑女とは云々って怒られちゃうから、なるべくお嬢様らしくを心がけている。一応ね、うん。たいてい心がけるだけで終わるけどね。
うーむ、前世を思い出す前の自分って、もっと、こう……おしとやかというか、物静かだった気がするけど。なんだかもう遠い昔のことのようだわ。
あっ、うん、戻れない過去は振り返らない方がよいね?
あの騒ぎから、私の変化に周囲も驚いて戸惑っていたけれど、最近はすっかり慣れたのか、生温かい目で見守られている。や、やだ。そんな目で見ないで……
最初はお嬢様が調理場に入るなんて! と料理人たちに止められたが、新メニュー開発の役に立つということを証明してみせたところ、今やアドバイザーとして料理長に認められフリーパスの身だ。
ラノベ定番(?)のプリンやマヨネーズは、もちろんレシピを提供して大絶賛された。
商業ギルドで発案者を私、開発協力者をシンとして連名で特許を取ったので、私たちはちょっとだけ小金持ちだったりする。ふふふ。
その後に開発したのは、ウーロンこと「うどん」。昆布とか鰹節とかはないから、干し肉を煮て出汁をとり、塩で味を調えただけのなんちゃってうどんだけど。
お箸の文化はないのでフォークで巻き取りやすいように、前世のものより少し細めの麺だったりする。馴染みのあるうどんと比べたら似ても似つかないが、いつか絶対にあの味に近づけてやるんだと、食べるたびに誓いを新たにするメニューだ。
オクパルといい、ウーロンといい、粉もんのメニューばっかりなのは、やはりお米がこの世界にないからなのかな? はぁ、粉もんを極めるしかないのかなぁ。
「クリステア。貴女、最近勉強をサボっては調理場に入り浸っているそうね。しかも料理人の真似事までしているそうじゃないの」
ある日の昼食の席で、お母様がいきなり話を切り出した。
今日、お父様は仕事で王都にいる。普段お父様を立てているお母様は、不在を狙ってお小言を言ってくるんだよね。
しかし、サボりがバレたか。調理場の居心地がいいからって足を運びすぎたかな?
「美味しい料理ができる過程を見るのがとても楽しいのですわ。それで、私も作ってみたくなったのです」
「貴族の娘が調理場になど入り浸るものではなくてよ? ましてや、料理だなんて……」
確かにそうかもしれないけれど、調理場に足を運んでわかったんだ。素材の味そのものは悪くないのに、調理の仕方があんまりよろしくないから、くどくなったり、物足りなかったりするんだって。
現に、野菜の皮やクズ肉なんかは、見た目が良くないからといって以前はさっさと捨てていた。なんてもったいない! そこには栄養やうまみがしっかりつまっているというのに!
うまみを十分に引き出していないのも原因の一端だと思った私は、シンを巻き込んで調理してもらった。捨てられるはずだったそれらを煮込んでアクをとり、スープの出汁をとり、塩で少し味を調えたものを料理人たちに試食してもらったら、深みのある味に皆驚いていた。
それからかな、料理人たちの私を見る目が変わったのって。それまではワガママお嬢様がまた仕事の邪魔しにきたよ、みたいな反応だったのに、今となっては味見やアドバイスを求められることだってあるのだ。
ようやく邪魔者扱いされなくなったし、調理の手伝いだって少しだけさせてもらえるようになったのに……今度はお母様か。
ちなみに、お父様は私が料理に関わることについては黙認している。「お父様のために私、頑張りましたの!」と笑顔を添えて料理を差し出せば「そうか、私のために頑張ったのか!」とご満悦になるからだ。あまりのチョロさに仕事で騙されていないか心配なくらい。
しかし、お母様は一筋縄ではいかないだろうなぁ。
「お母様、勉強ばかりでは息が詰まってしまいますわ。調理場への出入りは許してくださいませんか?」
「出入りを許可して欲しいのであれば、まずは決められた勉強をちゃんとすることね。それができたら考えなくもないわ」
うっ、それはごもっとも。
「けれど、料理するのはおやめなさい。公爵令嬢に相応しいこととは思えないわ」
そんなぁ……せっかく食の改善が進んできたっていうのに。
あれから私は、調理場に出入りする権利を勝ち取るために、勉強をサボらず頑張った。
そもそも、前世の教育を受けた私にとって、今の勉強内容では退屈で仕方ないからサボっていただけなので、真面目にやればあっという間に終わってしまうのだ。
それならさっさとやればいいのだけれど、あまりに簡単に片付けるとそれはそれで不自然かなと思い、ペースを調整していた。……嘘です。退屈すぎて面倒だっただけです。
ともあれ、ある程度頑張ったおかげで、学園入学前にやるべき学習内容はあらかた修了した。
あとはドリスタン王国についての歴史や、淑女としての教養を学ぶマナー学、魔法学など、前世では勉強することのなかった科目を残すのみだ。
終えた科目については、入学の少し前に忘れていないか確認するくらいだろうか。
そんなわけで、少しは自由時間を作ることができて、調理場への出入りが許可されたのだった。
それに、料理長をはじめとした調理場のメンバーからも要望があったらしい。アドバイザーとしての私の存在の有用性について、お母様に直訴したそうだ。ありがたや~。
しかしながら許されたのは味見役までで、私が料理をするのはダメだった。
がっかりだよ。まあ、こっそり作る気満々なんだけどね。
「どうしたらお母様に料理するのを認めていただけるのかしら」
やっと出入りが許可された調理場で、仕込み中のシンに愚痴るように相談する私。
今日の夕食はコロッケかぁ。皆がハマったメニューなので、料理人たちがせっせと大量に成形している。私も手伝おうとしたら、シンに止められてしまった。ちぇっ。
「さあな。そもそもお嬢がここに出入りすること自体が普通じゃありえねぇんだ。いいじゃないか、レシピの提案さえしてくれたら俺たちで作るし」
「それはそうかもしれないけど。レシピを考えるにしたって、実際に作ってみないことには分量とか味の調整とかわからないじゃない?」
そもそも前世では、初めて作るものはちゃんと調味料を計るけど、慣れたら大体でいいじゃーんと目分量で作っていたから、レシピとか言われてもねぇ。
「ああ……確かにお嬢はこのくらいかな? って適当に塩やハーブをぶち込むくせに、できたもんは不思議と美味いよなぁ。で、作った後にレシピを書いてたっけ」
納得したようでしてないような、そんな答えを返すシン。すみませんね、適当で。
「まあ、なんだ。奥様の好物とか、喜ぶものを生み出すためには実際に作らないと、とか何とか言って説得するしかないんじゃないか?」
「そんな適当なこと言って……」
お母様の喜ぶものかあ……。まあでも、いっちょやってみますか。
数日後の夕食の席。今日もお父様はお仕事で王都の屋敷に滞在しているので、お母様と二人だけで食事をしていた。大きなダイニングテーブルは、二人で使うには広すぎるなぁ。
今日の前菜は、鶏によく似た鳥のむね肉を蒸したものに、ジュレと温野菜を添えたものだ。
お母様は、ジュレのふるふるとした食感を楽しみながら美味しそうに味わっていた。
「お母様、調理場の件ですが」
「何かしら? 料理長の嘆願もあって出入りは許可したはずだけど?」
「それについては感謝しています。そのうえで……お母様は今よりもっと美味しいものを食べたいと思われませんか?」
「それはまあ……せっかく食べるのであれば、美味しい方がいいわね」
「美味しい食事で、美しくなりたいと思いませんか?」
「それは思うけれど……え、食事で美しくですって?」
ツンとしながら答えていたお母様は「美しく」という言葉に反応した。
肌荒れに悩むお母様は、美容とかそういう言葉に敏感だ。そこを利用させていただこう。
「ええ。たとえば今食べているお料理は、プルプル、つやつやしたお肌になりますわ」
「えっ!? お肌が!?」
私の発言に、思わず目の前の皿を凝視するお母様。
「そのジュレ……プルプルした食感のものは、鳥肉の皮からとったものですが、それがお肌にいいのです。試作を食べた料理長のお肌は、翌朝ツヤツヤしていましたもの」
「お肌がプルプル、つやつやに……?」
「そうです。プルプルのつやつやお肌に」
それを聞いたお母様は、ジュレを丁寧にすくっては大事そうに食べていたのだった。
やはり、お母様は美容関係で攻めるのが良さそうだ。
「食べたものが身体にいかに影響をもたらすかがわかろうというものですわね。私は皆に美味しいものを食べてもらい、健康に美しくなって欲しいのです。そのためにも自分で料理がしたいのですわ。お願いです、お母様。危ないことはしないから、料理する許可をください」
深々と頭を下げる私を見て、お母様は嘆息しながら「考えておくわ」とポツリと言う。
私もそれ以上は何も言えず、黙々と食事を続けたのだった。
うーん、ダメだったかぁ。仕方ない、次の手を考えるしかないか。
翌日の朝食の席。お母様のお肌はプルップルでした。
おお、効果てきめん! 許可はもらえなかったけれど、お母様が嬉しそうなので良しとしよう。またチャレンジするのみだ。
「クリステア。昨夜の話だけれど」
「はい、何でしょう?」
「誰かの監督の下であれば、料理に関わるのを許可するわ」
「え!? いいのですか?」
まさかこんなに早く許可が下りるとは。
「昨夜、ミリアがやってきて、貴女が私のためにシンと一緒に試作を頑張っていたのだと聞いたわ。私が肌のことで悩んでいたことを知っていたのね?」
「ええ、まあ……」
ミリアったら、いつの間にそんなことを……ありがとう。
「今でも料理することは貴族の娘に相応しいとは思わないわ。でも、貴女の家族を想う気持ちは嬉しかったもの。あくまでも趣味の範疇としてであれば許可します。ですが、火を使うなど危ないことは許しませんよ?」
「あ、ありがとうございます!!」
な、なんだか少し後ろめたい気持ちはないこともないけど、制限付きとはいえ料理する許可を得たぞー!!
「完全に認めたわけではありませんからね? 当然、勉強は頑張らないといけませんよ? またサボったりしないように」
「は、はい!! 頑張ります」
うーむ、釘を刺されてしまった。
それから数日後の魔法学の時間。我が家の裏庭にある修練場で、魔法学の第一人者と名高いマーレン師の指導のもと、私は水魔法や火魔法等の中級魔法を展開していた。
「うむ、クリステア嬢。大変結構ですぞ」
やった! マーレン師から「大変結構」をいただいた!
この言葉が出ないと、なっかなか次へと進めないのだ。
「ありがとうございますわ。マーレン先生」
優雅に淑女の礼をしてみせる。
公爵令嬢である私は、初級~中級魔法は入学前にできるだけ学んでおく必要がある。入学後に実施される実技と筆記の試験に合格し、授業を免除してもらうためだ。そうして空いた時間は、貴族として必要なことを学ぶべく、平民とは別の講義を受けなくてはならないらしい。
……めんどくさぁ。学園は貴族も平民も分け隔てなく学べるところのはずなんだけど。貴族の義務は、頭の柔らかいうちに学ばせようということかな。
「いやいや、なかなかどうして筋が良い。近頃は教えたことをたちまち習得されるので、手こずっていた頃が懐かしくなるほどじゃよ。これでサボり癖さえなければ、なお結構ですがのう」
ホッホッホと自分の長い髭を撫でつつ、好々爺然として笑うものの、チクリと釘を刺すのも忘れない。食えない爺さんだ。
「……そ、その節は大変申し訳ございませんでした」
前世の記憶が戻る前、魔法学は苦手でよくズル休みしていた。魔力量は多いくせに上手くコントロールできなかったからね。今は魔法が使えるのが楽しくて仕方ないので、真面目にやっている。
「なんのなんの。最近は頑張って魔法を学ぼうとする姿勢が見えるので実によろしい。逆に、今はマナー学のレティア殿が苦労しておるようじゃがのう」
「……」
かっかっかと笑うマーレン師に、私は反論の余地もなく、引きつり笑いで返す。ぐぬぬ。
だって、マナー学ってめっちゃしんどいんだもん! 「カーテシーが美しくできるまでひたすら繰り返す」とか、「優雅に見せるために、頭に本を載せてひたすらまっすぐ歩く練習」とか。ひたすらシリーズが「スポ根か!」ってレベルで厳しいんだよー!
前世にレティア先生がいたなら、絶対に運動部の鬼コーチとかやっていたに違いない。そんなレティア先生の授業だもの、サボりたくなっても仕方ないでしょう?
「さて、すでに学園で学ぶことの大半を習得したわけじゃが。次の課題に移る前に、何か特別に学びたいことはおありかな?」
私に、「最近頑張っておるクリステア嬢にご褒美じゃよ」と、悪戯っ子の孫を見るように、目を細めて笑うマーレン師。飴と鞭の使い分けがうまいよなぁ……レティア先生、まじ見習ってほしい。
えっと、学びたいこと? あ、そうだ。うん、聞くなら今がチャンスかな?
「あの、空間魔法について知りたいのですけど」
そう。空間魔法。ラノベやゲームでは定番のあれだ、インベントリ。
実際に学園を卒業した魔法師の中には、空間魔法を習得して、商業ギルドから護衛と荷運びを兼ねて雇われる冒険者となった人もいるらしい。高い依頼料ながらも引っ張りだこなんだそうだ。
空間魔法が使えるなら、学園に入学しても色々と持ち込めそうだと思わない? 主に食材。生き物は無理だけど、生物は入れた時の鮮度をそのまま保てるらしいし。冷蔵庫いらずとか最高か。
「ふむ。空間魔法か。あれはちと難しいのう」
「……やはり、適性がないと無理なのでしょうか?」
えぇ~まじか。私の安定した食生活のための布石がぁ。
「ふーむ、そうじゃのう。空間魔法を使うには、まず亜空間というものが理解できねばならん。とはいえ、現在、空間魔法を扱える者は、亜空間を意識せずとも自然と使えるようになったという場合がほとんどじゃ。そういった者ほど、使える空間の容量は多いようじゃの。本人の魔力量によっても差が出るらしいがのう。さて、亜空間というのは……」
長いあご髭を撫でつけながら、空間魔法についての説明を始めるマーレン師。
あっ、これ、話が長くなるやつ……と思ったが後の祭りだ。半分意識を飛ばしつつ、講義を受けるしかない。
ふむふむ、亜空間ねぇ。私の空間魔法のイメージは、未来から来た某ネコ型ロボットが持つ、例のポケットなんだよなぁ。あれなんて、収納力無限大っぽくない?
某ポケットを思い浮かべつつ、某ロボットの声真似で呟いた。
「えっと……インベントリ~!」
なんてね。あっ、あれは道具を出す時のかけ声だったね? まずしまうのが先だよね! 失敗、失敗!
……と思いながら近くにあったベンチに触れたら、忽然と消えてしまった。
「えっ!?」
「なんと……」
二人して呆然とする。
えっ!? 今の何? 私がやったの? ベンチどこに行ったわけ?
あっ!! やばいっ! あのベンチはお母様のお気に入りなのにっ。
実はどこかに吹っ飛ばしたとか、跡形もなく粉々にしたとかじゃないよね?
「えっと、マーレン先生? 今のは私がやったのでしょうか? ……空間魔法ですよね? どうやって戻したらいいのでしょう?」
オロオロする私の問いに、呆然としていたマーレン師はハッと我に返り、私に言い聞かせる。
「これ、落ち着くのじゃ。クリステア嬢、先ほど説明した亜空間が理解できるのであれば、そこから取り出すイメージも簡単じゃろう?」
あっ! なるほど~。それでは某ポケットから取り出すイメージで、と。
「できました!」
消えたベンチがまた現れた。
よかったあ、さっきと向きが違うけど、まあいっか。あとで誰かに戻してもらおう。
ん? あれ? これって……
また触れてみる。消える。取り出す。
「「……」」
えっ? もしかしてインベントリ習得しちゃった!? マジで? これなんてチート!? こんなにあっさりできちゃっていいんですかあぁ!?
「……この調子で頑張るようにの。本日はこれまでにするとしようかの」
「は、はい……。ありがとうございました」
マーレン師が若干頭を抱えつつ去ったように見えたのは気のせいじゃない、かな……?
この世界の魔法はイメージする力が大事だと学んだけど、こんなんでいいの!? ねぇ!?
と、とりあえず、魔力量を増やす訓練しようかな。もちろん、食料備蓄のために!
第三章 転生令嬢は、いい加減和食が食べたい 。
この世界にはお米がないのかなぁ。そう思った私は、調理場で料理長をはじめとした料理人たちにお米の存在について尋ねてみた。
「おこめ? って何ですか? ……真っ白で、炊くともちもちしていて、噛めば噛むほど甘くて美味しい穀物? そんなものがあるのなら、ぜひ食べてみたいもんですがねぇ」
「炊くって何ですか? はあ、煮ること……ちょっと違う? ……うーん、わからないですねぇ」
……とまあ、そんな答えばかりで手がかりらしいものが一切見つからない。
頼みの綱であるシンに聞いても、シンのお父様がご存命だったのは幼い頃のことなので、記憶が定かではないとのこと。
覚えている料理は全てお母様に習ったものらしい。お母様はラスフェリア大陸の方らしいので、お父様直伝といわれる料理は少ないようで。
うーむ、どうしたものか……
ああ、和食が食べたい。
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