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27‐1 そんなことある?(前編)
しおりを挟むリュウエンとロジンを風間さんに預けた後、俺はすぐ外に出た。そして兵長のギエンに声をかけ、ダンジョンの十一階を根城にしていた犯罪者たちの討伐報告をした。
昨夜はギエンが見当たらなかったので兵士に言伝手を頼んだが、討伐証明の生首を渡し忘れていた。それを思い出し、こうして受け渡しにきたって訳だ。
「兵から報告は受けておりましたが、道理で十一階以降の到達報告が上がらなかった訳ですな。感謝します。ときに、ダンジョン攻略はどうなりましたか?」
「うわ、そうだった」
言われて気づく。俺はダンジョンを攻略したことを兵士に伝えていなかった。本命はこっちだったはずなのに忘れているとかそんなことある?
頭を掻きながら攻略が済んだことを報告すると、ギエンは呵々大笑した。
「わはははは! セイジ殿は名誉欲がないのでしょうな! もののついでのように言われるばかりか、冒険者なら真っ先に報告することをまさか忘れていたとは!」
「確かに名誉欲なんて持ってないな。目立ちたくないんでね」
「それは些か難しいでしょう」
「だよなぁ」
既に側で聞き耳を立てている冒険者たちがざわついている。そりゃそうだ。十三の生首をストレージから出して渡すところから見られてるんだから。
「セイジ殿はもう少し思慮深さを持たれたれた方が良いかもしれませんな」
「返す言葉もない。が、実は今それどころじゃなくてな」
「そういえば先ほどから前屈みですな。どこか具合でも悪いのですか?」
「いやもう、恥ずかしい話なんだがオーク肉を食った所為で辛抱たまらんのよ」
「は?」
「そういうことで、あとは任せた!」
俺は目を丸くしたギエンにそう言い残し、人目のない場所まで駆けた。
このムラムラをどうしてくれようか。
まだオーク肉の効果が切れていない。風間さんの家にいる間もむずむずそわそわして仕方がなかった。こんなもんメリッサも大変なことになっているに違いない。
大急ぎでバギーでコンテナハウスに戻りスパーンと扉を開くと、案の定メリッサが一人でお楽しみ中だった。誰も来ないからといって大胆にも居間でだ。
どうやら俺がこんなに早く戻ると思っていなかったようで、メリッサは扉が開くなりビクッと体を跳ね上げ、俺を見て目を見開いた。
「うひゃあっ!? セイジ⁉」
「こらぁ! 一人で何をしてるんだメリッサ! そんなものまで使って!」
「こ、これはマッサージ機だよ! マッサージしてたの!」
「どこのマッサージだよ! けしからん!」
それから大人の時間が始まり──。
結局オーク肉の効果は翌日の昼過ぎまで抜けなかった。
そんなことある? と思って聞いていたカイエンとロジンの『死にかけた』という話は決して大袈裟な表現ではなかったことが証明された。もう息も絶え絶えだ。
そんな馬鹿げた事件の二日後、風間さんからメール連絡が入り、リュウエンが水の精霊の制御を行えるようになったという知らせを受けた。
いや、そんなことある? まだ二日だぞ?
そう思いつつ連絡を確認している時にメリッサが「無人島行くよー」と言ったのでどういうことかと事情を訊いたら「マリーチが到着した」というからまた戸惑う。
「もう着いたのか?」
「急かしたから早めに着いたみたいだよ」
「そんなことある?」
「ヨハンさんだから、そんなこともあるよー」
確かにあいつなら到着予定日に余裕を持たせて伝えそうだ。
それが商人の腕前だとか言ってたもんな。普通に伝えろやもう。
二日前だったら大変なことになってたじゃねぇか馬鹿野郎。
そんな思いを抱えてメリッサと一緒に船で無人島に移動する。
その最中、ソウルメイトのメール連絡が入った。伊勢さんからだ。距離が遠過ぎてこれまで届かなかったと思われる千を超える通知件数に目を疑う。
そ、そんなことある?
これが届くということは、つまり伊勢さんがマリーチに乗っているということ。
ヨハンの野郎、一体全体どういうつもりだ馬鹿野郎! と頭を抱えて憤慨しながら、おそるおそる最後のメールだけ確認して愕然とする。
「ええっ!? なにそれそんなことあるぅ!?」
そこには伊勢さんがヨハンと婚約したことが書かれていた。
「なになにー? どんなことあったんさー?」
「見てみろよ! こんなことがあったんだよ!」
「なぁんだこれかー。慰められてるうちに好きになっちゃったらしいよー」
「えええ!? なんだよそれ知ってたのかよ!?」
「相談に乗ってたからねー」
ソウルメイトの通信機能では届かない距離でも、最先端技術を用いて製造された通信機なら届くことにまず驚く。そこにメリッサが伊勢さんと連絡を取り合っていたなんて情報までぶち込まれたら、そりゃもう青天の霹靂どころじゃない。しかも恋愛相談て。
そんなことある? あんなに嫌ってたんだぞ?
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