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26‐2 封印の壺(中編)

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「いや素晴らしい。なんとも活気のある村でしたなぁ」
「元気過ぎてついていけねぇよ。リュウエンが大人気だから助かってる」
「そ、そんなことないですよぉ」 

 助手席に座るロジンの膝の上で、リュウエンが照れた笑顔を赤くする。会ったばかりの頃の痩せぎすで悲しげな印象はもうどこにもない。随分と元気になったよな。

 気づけばハンドルから片手が離れてリュウエンの頭を撫でていた。ちらりと目を遣ると、「えへへ」と笑い本当に嬉しそうな顔をしている。
 それを見て不意に寂しくなる。もう頭を撫でる機会はそうないだろう。

 別れは近い。

 俺の表情から察したのか、それとも最初からそういう予定だったのかはわからないが、不意にロジンが「セイジ殿、宿場町へ向かってもらえますかな?」と言った。
 目的は水の精霊を宿した壺だろう。馬車の中には見当たらなかったし、どこかに隠したか、あるいは預けたかしていると思っていたが取りに向かう気になったらしい。

「先に言っておくが生きているものはストレージには入らんぞ」
「構いません。陛下に持っていただきますので」

 かまをかけてみたら通じたので間違いないようだ。お互いの察しの良さに軽く笑い合う。この宰相殿がいればリュウエンの帝位は安泰だな。
 そのリュウエンはというと、まったくわかっていないようできょろきょろと俺とロジンの顔を交互に見ている。それが可笑しくて俺とロジンはまた笑う。

「なんの話です?」
「リュウエンに水の精霊を戻す話をしてたんだよ」
「えっ……」
「怯えずとも大丈夫ですよ陛下。セイジ殿にお任せしましょう」
「なんだか偉く信頼されてるな」
「それはもう。僭越ながら陛下も同じ思いを抱いておられるかと」
「も、勿論です! 私はセイジ殿を心から信頼しております!」
「ははっ、そりゃ嬉しいねぇ。まぁ、悪いようにはしねぇよ。任せとけ」

 任せるのは風間さんだがな、と心で呟き苦笑する。俺はただ二人を送り届けるだけだ。そして多分、今後二人と顔を合わせることは数えるほどしかなくなるだろう。

 まぁ、それは俺の行動次第だが。
 そろそろ俺もリュウエンのいない生活に慣れておかないとな。

 そんなことを考えながら、俺はロジンの案内に従いバギーを走らせた。
 

 ***


 ロジンに言われ、宿場町へ向かう途中にある丘陵の頂上でバギーを止めた。
 道中の会話で色々と懸念事項について話していたので、ちょいちょいとホログラムカードを手動操作してから皆でバギーを降りる。備えあれば憂いなしってね。

「また見晴らしの良い場所に隠したもんだな」
「見晴らしが良いから隠せたのですよ」

 どういう意味だ? と少し考えてハッとした。
 ロジンの返答は面白い。言われてみればその通りでしかない。見晴らしが良ければ隠しているところを覗き見る奴の姿を見落とさないわな。安全に隠せる。

「いやー、宰相殿との会話は勉強になるな」
「ふふふ、お互い様ですな。失礼ながら、少々お時間をいただきます」
「手伝おうか?」
「いえ、誤って割ると事ですので、私が一人で行います」
「わかった。そんじゃリュウエンと遊んでるわ」

 そう言ってリュウエンの方へと顔を向けると、手で庇を作って上を見ていた。
 歩み寄りながら「なにしてんだリュウエン?」と声をかける。するとリュウエンは空を凝視したまま顔を顰めて「鳥です。鳥がいるんです」と答えた。

「鳥?」
「そうです。珍しくて」

 鳥は無人島でしか見ていない。大陸からは離れたものとばかり思っていたが、空を見上げると確かに三つの黒い影が飛んでいた。かなり高いところにいる。

「ふーん、あれのことか」
「はい、背中にコブがあるように見えます。それが不思議で」

 影は太陽付近を旋回しているので見辛くてしょうがない。目が悪くなるのでリュウエンに止めるように言い、ホログラムカードを引き伸ばしストレージを確認する。

 えーっと、軟質ウレタン製の棒ってどこだっけか?

 探しているとすっと影が差してすぐ明るくなる。
 何かが真上を通り過ぎたと気づいた瞬間──。

「うわぁっ!」というリュウエンの悲鳴が聞こえた。

 反射的に振り返ると、凄まじい速さで滑空してきた三体の翼竜が目に映った。
 一体の足にはリュウエンが掴まれていて、背には赤い革の鎧兜を身に着けた兵士が騎乗している。まるで鳥が狩りをするようにリュウエンを奪い去っていく。

 リュウエンの叫びが遠ざかる。もう百メートルは離れている。
 
 一瞬だった。不覚にも呆気に取られて身動きが取れなかった。追いかけるように吹く風が乾いた大地を攫い砂煙が立つ中で、俺は飛んでいく翼竜を見つめていた。
 
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