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25‐2 夕食(後編)
しおりを挟むなんの為にそこまで?
思わずそんな失礼な質問を投げた俺に、風間さんは笑って言った。
『約束です。開拓して戻るって言っちゃったもんでね。通信機を失くしてなかったら途中で諦めて戻ったかもしれませんが、それができなくなった以上、俺が世話になった貴族の所に戻るには惑星の文明レベルを上げるしかないでしょう? もっとも、もう俺の知ってる貴族は亡くなってるでしょうし、代替わりして俺のことなんて忘れ去られてるでしょうが。それでも初志貫徹というか、約束は果たしたいんですよ』
尊敬の念を抱かずにはいられない。本当に凄い人だ。
思い出して感慨に浸っているとメリッサに軽く胸を叩かれた。
「セイジは独りにしないよー。アタシもそろそろ不老処置すっからね」
「そうか、ありがとな。でも無理すんなよ?」
「へっ、アタシだけ年食う方が無理だってのー。で? どうなったの?」
「あー……どこまで話したっけか?」
「コピーを皇帝にした理由」
「お、そうだったそうだった。んじゃ次は興国までの経緯だな」
野心とは程遠い人だと思っていたが、当時の風間さんはどうすれば原住民を繁栄させることができるのかと思い悩んでいたらしい。
それで思いついたのが国のトップになることだった。権力を得て民を率いる位置に立てば、文明の発達を促すことができると考えた訳だ。
風間さんは、国になくてはならない存在と認めさせれば権力者も放っておけないだろうと考え、そうなれるように自作自演を行うことを決めた。
自分は〈ダンジョンマスター〉でダンジョンを成長させていき、定期的に魔物を氾濫させる。そしてある程度被害が出たところでコピーに魔物を討伐させる。
「なーんか急にやってることがラオと変わらないんだけどもー?」
「それだけならな。実際は少し違って、王国は滅亡の危機にあったんだ。当時も群雄割拠なのは変わらなかったらしくてな、北方の魔物や隣国に攻め込まれてたんだよ。そこに魔物を容易く討伐する水の精霊の力を宿したコピーが現れたってのが本筋だ」
「おお、今度はセイジみたいになった。救世主だ」
「ああ、こっからまた驚きの展開だ」
当時、王国に戦争を仕掛けてきていたのは隣国のベイロン帝国だった。王から助力を請われた風間さんのコピーは将軍となって防衛戦を繰り返していた。
その最中『この戦争はベイロン帝国の本意ではなく、皇帝を乗っ取った魔族の陰謀である。ご助力願いたい』とベイロン帝国宰相が直訴しに訪れたという。
「今と逆!」
「そうなんだよ。作戦もほぼ同じでな、コピーが軍を抑えている間に風間さんが宰相の手引きでベイロン帝国に潜入して魔族を討伐したんだと。しかも……」
「しかも?」
「魔族を討伐した直後に精霊が風間さんに取り憑いたらしい。だがコピーに器があるってことはオリジナルにもある訳で、風間さんは土の精霊を宿してたんだなこれが」
「なぁにそれぇ!?」
「本当、なにそれだよな。でもこれでリュウエンの問題は解決だ。風間さんが師匠になって精霊の制御を教えてくれるらしいからな。どうだ? 良いこと尽くめだろ?」
得意げに言ってみると、メリッサが体を震わせて目を輝かせた。
「にゃあー、やっぱセイジ凄いー! 惚れ直したよー!」
「うはっ、おいおい。単なる偶然だぞ」
キスとハグでじゃれつくメリッサを落ち着かせて話を進める。
風間さんが魔族を討伐した結果、ベイロン帝国との戦争は終結。
北方の魔物への対処を理由に恒久的な和平同盟を結ぶことになり、風間さんから手柄を譲られたコピーは救国の英雄として名を轟かせた。
勿論、轟いたのは仮名だ。
初代皇帝の名前はフウケン。風間を音読みにしたものだ。
「あれ? でもまだ国は興ってないね?」
「そっからはお決まりのパターンだよ。コピーの人気が凄いもんだから焦った王子たちが暗殺を企てて大失敗。民にまで露見しちゃって王族追放って流れ」
「そゆことねー。いつの時代もやること変わらないね人ってのはー」
「だな。まぁ、そこからもなんだかんだすったもんだと色々あるんだが、なにはともあれコピーが始祖となるレイジェン皇国が興ったって訳だ」
ちなみにレイジェン皇国の名付け親は風間さん。労働『奴隷』の自作『自演』からきてるとのこと。なので最初はドレイジェン皇国だったらしい。ただそのままだと『奴隷自演』としか聞こえないので頭の『ド』を外したのだとか。
日本語を知っているだけに陥る空耳地獄。
民に発表する前に気づいて良かったと風間さんは笑っていた。
そんな余談をメリッサに話していると不意にピピピという電子音が鳴った。
「おあああタイマー鳴ったぞー!」
メリッサが飛び起きて厨房へと駆けていく。ちょっと興奮しすぎな気もするが、俺が作った料理にあんな反応を見せてくれるのは正直嬉しい。
「セイジー、普通に器に盛っていいのこれー?」
「待った今行く。鍋ごと持ってきちゃおう」
「うひゃー、美味そー!」
「どんな感じだー? うわすげぇなこれ脂やべぇ」
「早く早く!」
「うはは、急かすなよ。鍋敷きと器よろしくー」
「わかった! あ、バゲットバゲットー!」
この日の晩飯は懐かしい味がした。というか記憶を遥かに上回る美味さにびっくりした。それもこれもオーク肉がやたらと美味いのが原因だ。
メリッサも一口食べたらしばらく背景に宇宙が見えるほど呆然としていた。流石高級食材と言われるだけのことはある。恍惚を超えてくる味わいだ。
そしてどうやら美味いだけでなく元気も出るようで……。
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