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25‐1 夕食(前編)

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「ぬはー、謎は全て解けたー。ところでさー、めっちゃ良い匂いしてるんだけどまだオーク肉のカクニってのは完成しないのかね旦那様ー?」
「む、タイマー確認。あと二十分くらいだ」
「おいおいアタシの涎がちょちょぎれちゃうぜー?」
「その表現は涙に使え。それとな、まだ話は終わってないんだよ」
「え? まだあんの?」
「長いって言ったろ? これで半分くらいだぞ?」

 きょとんとした顔を向けるメリッサに、風間さんのコピーがレイジェン皇国の初代皇帝であることを伝えると目を剥いて起き上がった。わかる。俺もびっくりしたし。

「なにそれ詳しく」
「あいよ。まずは国を興そうと思った経緯からな」

 きっかけは最初のダンジョンを作ったことだったらしい。DPが全く足りなかったので一階しかない上に狭く、魔物もまともに配置できなかったという。
 原住民を繁栄させることができると胸を高鳴らせて作ったダンジョンが単なる洞窟と変わらない。その事実に愕然とした風間さんはDPを稼ぐことにした。

 風間さんが考えたのは魔物を狩ってダンジョンに呑み込ませることだった。
 これならLVも上がるし一石二鳥。ただ一人で向かうのは危険だし、騙されたり襲われたりした経験から原住民とパーティーを組む気にもなれなかった。

 それで〈複製〉で自分を作り、共に行動することにした。

「自分のコピーっていっぱい作ったりできないの?」
「一人しか作れないみたいだ。なんか色々と制限があるんだよ」
「たとえば?」

 訊かれて戸惑う。なんだっけか?
 俺はこめかみに指を当てて思い出しながら話す。

「確か、作ったコピーの記憶は召喚時のもので、LVは1な上にボーナスSPはなし。取得可能スキルは通常のみで、人体改造は適用されないだったかな? エレス?」

【はい。合っています。他に、コピーはオリジナルのLVを超えることができない。オリジナルに反抗できない。自分のコピーが死んだ場合は三十日のインターバルを置かないと新たに作れない、というところまで風間さんは情報を開示してくださいました】

「流石。ありがとなエレス」

 声をかけたら即対応。エレス様々だがそれはそうとして──。

 風間さんはコピーと共に魔物を狩りに北方の大森林に入った。迷ってもダンジョンを作れば〈転移〉で抜け出せる為、臆することなく北へ向かった。
 それから数日が過ぎ、周囲の木々におどろおどろしい変化が表れてしばらく経ったある日の黄昏時、風間さんたちは水の精霊と遭遇した。

 水の精霊は鉢合わせるなり飛びかかってきたそうだ。狙いは風間さんだったがコピーが庇った。その際、コピーが水の精霊に取り憑かれてしまったという。

「体当たりだと思ったら防いだコピーの体に入っていくから驚いたってさ。で、器があって二度びっくり。あとはお察し。水の精霊を宿したコピーが水を操る力を得たと」

「なるほどねー。それからコピーは日照りに苦しむ民の前で雨を降らせて、レイジェン皇国の皇帝になりましたー。めでたしめでたしーって訳ねー」

「それが違ったんだわ。カイエンも言ってたろ? ラオが現れるまで酷い干ばつが起こるような土地じゃなかったって。雨は降ってたんだよ元々は」

「えー? そしたら皇帝に祭り上げられた訳ではないってこと?」

「ああ、これが結構意外でな。風間さんはコピーが皇帝になるように仕向けたらしいんだよ。元々あった王国を乗っ取って、中から作り変えたそうだ」

「なんか急に野心的だなー。けどさー、どうして自分じゃなくてコピーを皇帝にした訳? 恵みの雨が必要ないんなら、もう水の精霊は関係ないっしょ?」

「コピーは人体改造が施されてないからだな。つまり、結婚して子供ができて年老いて死ぬっていう自然な流れができる。未開惑星で不老ってのは目立つだろ?」

 風間さんは言っていた。

『最初は神だなんだと有難がられても、老いない皇帝なんてすぐに気味悪がられますよ。ずっと目の上のたんこぶがいるなんて下の者からしたら業腹でしょうし、不老の秘密を探ろうとする輩も出てくるに違いない。俺が生きているってだけで争いの火種にしかならないのが簡単に想像できたんで。それに家族や友人を作っても、誰もが自分を置いて先に亡くなってしまいますからね。そんなの寂しいじゃないですか』

 寂しげな笑顔を思い出しただけで胸が詰まる。
 風間さんは三百五十年、あえて独り身で生きることを選んだ。

 エリーゼの性格を人に近づけたのは、おそらく人間性を保つ為だ。そして日々を忙しくしたのは、考える時間を減らして自棄にならないようにする為だったのだと思う。
 
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