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24‐1 帰還(前編)

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 風間さんの家をお暇し、砂浜に戻った頃にはすっかりと日が暮れていた。
 エレスの案内でコンテナハウスの扉を開けると、居間のソファでくつろいでいたメリッサがさっとこちらに顔を向け、花が咲くような笑顔を見せて駆け寄ってきた。

「おかえりセイジー」

 出迎えの挨拶からの熱烈なハグとキス。なにこれすごい幸せ。

「ただいま。リュウエンは?」
「村に家を建ててもらったから、そっちで過ごすってさー」

 メリッサいわく、リュウエンはカイエンとリャンキと共に村の家で過ごすとのこと。食事も村でとると言って嬉しそうに出て行ったらしい。

 リュウエンと民との関係はどんどん良くなってるようだ。コンテナハウスの生活水準に慣れたら困ると思ってたが心配事が一つ減ったな。

「シーサーペントの首飾りはできたか?」
「まだー。セイジの方はどうだったんだ?」
「んー、長くなるから先に風呂入ってくるわ」
「お、じゃあ一緒に入っちゃう?」
「メリッサがいいならな」

 そんな流れでメリッサと一緒に風呂に入り、色々あって心も体もリフレッシュしたあと、俺はインナー姿で厨房に立った。たまには俺が料理しないとな。

 というのは建前でオーク肉を試したかった。試食しないと胸を張って提供できないからな。とにかく煮込めば大体美味くなるんだ肉なんてもんは。

 材料を切って鍋に放り込んでいるとメリッサが覗き込んできた。

「へー、セイジって料理もできたのか。これなんて料理?」
「角煮。使ってるのはオーク肉」
「い、オーク肉!? 天然物は結構な高級食材だよ!?」
「そうなのか? でもドロップアイテムだし、どうなんだろうな?」

 俺の話は既に聞こえていないようで、メリッサは「オーク肉」と歌うように繰り返しながら小躍りを始めた。風呂にいたときの大人の魅力が影も形もねぇな。

 なんか俺といるときだけ甘えっ子みたいになるよな。
 思わず笑んでしまう。可愛い奴だ。

 角煮はネギやショウガに似た野菜と各種調味料があるから問題なく仕込めた。俺は料理が下手だが、この程度ならやってやれないことはない。
 ドロップ時にダンジョンの地面に直置きされたが、ほんの僅かな間だし、接地面はトリミングして綺麗に洗い一度茹でこぼしたから問題ないだろう。

「よし、あとは煮込むだけ」
「んじゃ、出来上がるまではソファでゴロゴロしよ」
「ちょっと待った。タイマーセットしとかんと」

 メリッサに手を引かれ、ソファに連れて行かれそうになりながら慌ててタイマーをセットする。一時間でいいか。弱火にしたし、吹きこぼれる心配もないだろう。

「はいセイジ、寝転がってー」
「あいよー」

 ごろりとソファに仰向けになると、メリッサが上に乗ってくる。そしてポジションを調整していそいそと居心地の良い状態を探り始める。

「ふいー。ここがベストだなー」
「発見したかー」
「発見したぞー。セイジの長い話とやらを聞く準備は整ったー」
「よしよし。なら話すとするか。まずダンジョンは完全攻略した」
「ぶふっ、あははは、話終わったじゃん! 短いよ!」
「いや、それがまだ始まってないんだわ。あのな──」

 俺はダンジョン攻略後に風間さんと会い、家にお邪魔したことを話した。

「へー、生きてたんだ。良かったねセイジ」

「ああ、良いこと尽くめだ」

「どゆこと? てかね、なんで生きてたのかとか、どうしてダンジョンに家があるのかとかさー、疑問が山のように湧くんだけどもー?」

「待て待て、順を追って話すから。えぇと、俺がエルバレン商会に拾われたみたいに、風間さんはジルオラを所有してる貴族に拾われたらしいんだけどな──」

 三百五十年前、風間さんは保護してくれた貴族に随分と世話になったとのことで、なにか恩返しができないかと考えた結果ジルオラの開拓を自ら申し出たのだという。

 もっとも、それは若気の至りだったらしい。ただ単に異世界召喚された嬉しさと冒険心に振り回されて、思い上がっていたのだと風間さんは苦笑していた。

「悔やんでたんだ?」

「ああ、冒険を始めてすぐに連絡用の通信端末を失くしたらしくてな」

「うわ、最悪」

「だよな。若い頃のちょっとした不注意で、恩人の貴族とそれっきりになったことが未だに悔やまれるって言ってたよ。名前を思い出せなくなったこともな」

「なんか凄い気の毒。三百五十年だもんね。いくら恩人でも使わない名前なんて覚えてらんないわなー。あ、そうだ。良い機会だからセイジも覚えといてね。通信機と発信機って基本的にセットになってるから、壊れたならまだしも、失くすのはまずいよ」

「お、おう。でも俺は持ってないからな」

「念の為だよ。それでー? その後どうなったの?」

「ああ、一応通信機を失くした時点で降ろされた場所に向かおうとしたらしい。でも無謀だって諦めたんだと。捜索されてたとしてもわからなかったってさ」
 
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