上 下
67 / 81

23‐2 驚天動地(中編)

しおりを挟む
 
 召喚者ではなくサポートAI?
 しかも風間柊一って、カザマ君のことだよな?

 どうにか頭を働かせようと額に手を当て、眉間に力を込めて思い起こす。

 カザマ君は──。

 背後からエイゲンに長剣で刺されたのを見たとリュウエンが言っていた。俺も同じ目に遭ったから言えるが致命傷だ。あの状況で助かるとは思えない。

 実際、俺は死んだしな。

 それで使い勝手の悪い回復スキルか再生促進液と回復薬を使わないと生存が無理な上に、一命を取り留めたとしても三人に襲われたら厳しいって結論に至ったんだよ。

 でもって、リンシャオはカザマ君の死体がダンジョンに呑み込まれたと言っていたし、それについてエイゲンとオットーも否定していなかった。

 リュウエンはともかく、あの三人はしっかりとカザマ君の最期を見届けている。
 当然だ。殺した張本人なんだから確認しないと落ち着かんだろ。

 なのに何故サポートAIが……。
 いや、もう結論は出てる。召喚者とサポートAIは一蓮托生。ウェアラブルデバイスの所持者が死ねば、サポートAIもまた存在できないのだから。

「あー、つまりその、カザマ君は生きてるってことだな?」

 混乱しながら訊くと、柔らかな笑みを浮かべたエリーゼが頷いた。

【はい。現在所用で出ておりますが、もし正木様がダンジョンを攻略されたら家へ案内するようにと言われております。どうぞこちらへ。ご案内します】

 エリーゼが淑やかに手で促し歩き始める。

 家って……ここじゃないのかよ?

 腑に落ちないまま後に続くと、扉も何もない場所でエリーゼが足を止めて振り返り、相変わらずの微笑みをたたえた顔で【こちらです】と壁を手で示して言った。

 なんの冗談だ?

 そう怪訝に思ったのも束の間、エリーゼが壁をすり抜けていった。

「いや、本当になんの冗談だよ」

 向かった先が階段の横だったので、裏側に地下室の階段でもあるのだろうと考えていたがまさか壁とは。予想の斜め上もいいところ。そもそも俺は実体があるんだが。

【マスター、行きましょう】
「無茶言うな。サポートAI限定の通り道じゃねぇか」
【うふふ、今日のマスターは早とちりを続けますね。私たちはそんな場所に案内するほど無能ではありませんよ? 少し考えればわかるはずです。お先に失礼しますね】

 エレスがにこやかに言って壁をすり抜ける。

 わかりやすく含みのある言い方をしていったな。

 そう思いつつ壁に触れてみると感触もなく手が通過した。確認してみれば付近の壁はしっかりと存在している。一部だけがホログラムだ。

「なるほど。そういうことか」

 こんな芸当、五千分の一を引き当てないと無理だよな。

 カザマ君が限定シークレットスキル所持者だと想定した途端一気に腑に落ちた。たったそれだけで納得できてしまうのが通常スキルと一線を画している所以。

 なんたって俺も所持者だからな。そのチートぶりは理解しているつもりだ。

 カザマ君は少なくとも、俺の〈セーブ〉のような死んでも生き返るスキルと、ホログラムを利用した隠蔽スキルを所持しているってことだな。

 と、推測しつつ壁をすり抜ける。

 すると空気が一変した。

 壁を抜けた先にあったのは懐かしい和風の玄関だった。焦げ茶色を基調とした空間。板張りの廊下の左側に磨りガラスの窓が入った引き戸があり、奥に和室が見える。

 右側は縁側になっていて引き戸が開け放たれている。その先にあるのは苔庭で、石畳と松、丸みのある小さな石灯籠と鹿威しが目に入る。

「風情あんなぁ」

 思わず呟く。侘び寂びの世界ってやつだ。
 よく手入れされた田舎の古民家のようで落ち着く。

【どうぞお履物を脱いで──あら、主人が帰ってきたようです】

 廊下で正座していたエリーゼが背後に顔を向けて言った。

 主人て……。

 色んな呼ばせ方があるなぁと思って間もなく、庭から男が顔を出した。短く刈り上げた黒髪と小麦色の肌、目に力のある顔つきも含め快活な印象だ。

 そして黒い耳掛け型イヤホン。間違いなく召喚者だ。

「お、間に合ったみたいだな。ちょうどよかった感じか?」

 言いながら縁側に座り靴を脱ぐ。装いは半袖の白いシャツにジーンズで首にタオルを巻いている。年は二十代後半から三十半ばくらいに見える。

 おかしいな。青年って聞いてたんだが。

【旦那様、お客様の前で失礼ですよ】
「固いこと言うなよ。正木さんだって気にしないでしょこんなこと。ねぇ?」
「え? ええまぁ、そうですね。ははは」

 唐突に話を振られて驚いた。それ以上に、しっかりと人生を生きた人が持つ特有の貫禄を感じたことに戸惑う。落ち着いた雰囲気も含めて違和感がすごい。

 エリーゼとの遣り取りも長く連れ添った夫婦のような感じがする。【もう、困ったお人ですね】なんて言いながら眉を下げて笑うって時代劇でしか見たことねぇよ。

 でも外見がゴスロリ吸血鬼風なんだよな。
 他人の趣味をとやかく言うつもりはないが着物なら完璧だったのに。

「おっと、申し訳ない。お見苦しいところを。どうぞ上がって下さい」
「はい、お邪魔します」

 ブーツを脱いで上がり框を踏んで廊下へ。
 それから両膝を着いてブーツを揃える。

【まぁ素敵。旦那様、ご覧になりましたか? 正木様を見倣って下さいませ】
「だー、わかったわかった。全く口煩いったらありゃしねぇ」
【そんなことを仰るんですね。なら設定を変えれば宜しいじゃありませんか】
「お、おいおい、怒るなよ。悪かったよ。気をつけるから機嫌直してくれよ」

 マジかよ。痴話喧嘩まですんのかよ。

「な、なんかすげぇな」
【そ、そうですね】

 それからしばらく、そっぽを向いてツーンとしてしまったエリーゼを必死になって宥めるカザマ君、いや風間さんをエレスと共に若干引きながら傍観した。

 こんな設定、不便だろうに。

 世の中、色んな人がいるもんだと驚きを禁じ得なかった。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

処理中です...