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19‐2 稼ぎに行こう(後編)

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 それから間もなくして──。

 呼ばれてやって来たリュウエンに、エレスの通訳を介してメリッサがシーサーペントの買い取りを交渉したところ、新たな事実が発覚した。

 なんとリュウエンはシーサーペントが自分の物だと思っていなかったのだ。そういうこともあって、話を理解するにつれだんだんと申し訳なさそうになっていった。

「そんなに好条件の取り引きをしてもらってよろしいのですか?」

 そう訊かれて、俺は参ったなと思いまた頭を掻いた。
 小粒金は貰い物で、しかもさほど価値がない。返済は同じ物でしてもらった方が気が楽だ。こんなに純朴な少年を相手に何をしようとしているのかと思ってしまう。

 これじゃあ詐欺みたいじゃないかと気が乗らなかったが、メリッサは笑顔で「全然いいよー」と取り引きを成立させてしまった。おいおいそれでいいのかよ。

「メリッサ、なんか罪悪感があるんだが。いや、実際には精神構造を変化させてるから全くないんだけども、それでもなんだか悪い気がするようなしないような」

「ややこしいなー。どういうことだい?」

「なんというか、取り引きがこっちに有利すぎて納得いかんのよ」

「ああー、そゆことね。でも有利すぎるってのはおかしいと思うよ? セイジはリュウエンにどれだけのことをしてあげてる? まだまだ報酬としては足りないよー」

 なるほど一理ある。報酬として考えろと。
 でもなぁ、リュウエンが初めて討伐した魔物だしなぁ。

 やっぱり鱗を一枚渡すだけってのはちょっと寂しいよなぁ。

 そんなことを考えながら俺が腕組みして唸っているとメリッサが苦笑した。

「セイジはホント優しいね。しょうがない。愛しい旦那様がお悩みだし、アタシがリュウエンに討伐記念の首飾りでも作ってやるかね。それでいいっしょ?」

 心を見透かされてしまった。しかも愛しい旦那様ときた。
 まったく敵わないなと思いつつ、俺はメリッサを抱き締める。

「ありがとうメリッサ」
「う、うん」

 良い雰囲気になったが、リュウエンが顔を覆った両手の隙間から見ているので軽いハグ程度で済ませておく。そういうことに興味が出始めるお年頃だよな。わかるよ。

 でも堂々と覗き見したら怒られることもあるって覚えておこうな。

「こらリュウエン! 見せもんじゃねぇぞ!」
「ひぃっ!? すみません!」

 リュウエンが肩を跳ね上げて姿勢よく直立する。
 悪いことをしてたって認識はあるようだな。よしよし。

「びっくりしたー。何だよセイジー。急に怖いのやめなー」
「悪い。ちょっとふざけただけだ」

 膨れっ面をするメリッサに謝った後で、俺はリュウエンの頭を撫でながら「冗談だぞ」と言って笑う。が、なんだか嫌な予感がした。久々に『第六感』が働いている。

 皇帝って自叙伝とか残したりするよな? まさかとは思うが……。

 後の世に『セイジが人目を憚らず伴侶のメリッサと愛を交わしていた』なんて伝わったら事なので、念の為「今のを自叙伝に書いたりするなよ」と釘を刺しておく。

 するとリュウエンは「駄目ですか」と言ってあからさまに肩を落とした。

 あっぶねぇ! やっぱり書くつもりだったよこいつ!

「はぁ、救国の英雄セイジ殿の行動を全て残しておきたかったので残念です」
「リュウエンお前、さては俺が屁をこいたことも書き残す気だな?」
「ブフォッ!」
「やっぱりか! 吹き出して肩震わせてんじゃねぇよこの悪ガキ!」
「あはははははは!」

 リュウエンを捕まえてじゃれ合っていると、開きっぱなしの玄関からカイエンがひょっこり顔を覗かせた。ただでさえ日焼けしてるのに、煤で更に黒くなっている。

「こりゃまた随分汚れてるな。どうしたカイエン?」

「いやこれは失礼。陛下の楽しげな笑い声が聞こえましたのでな」

「おう、リュウエンが自叙伝に俺の屁について書く気でいたからお仕置きしてたんだよ。いつどこでどんな音と臭いを放ったかまで詳細に書くつもりなんだよ」

「あははは、そ、そこまでは書きませんよお!」

「ほほう、陛下の自叙伝に屁の話ですか。実は我輩も先程、火の近くで一発かましたらこのざまです。まさか尻から火を噴いて薪が爆ぜるとは思いませんでしたよ」

 何を言い出すんだこいつは。

 カイエンが頭を掻きつつ恥ずかしそうにカミングアウトした直後、リュウエンが膝から崩れ落ち、笑いすぎて息も絶え絶えといった様子になる。

 エレスとメリッサまで爆笑してるよ。俺は他人事じゃないから笑えんぞ。

 煤だらけなのはガス爆発が原因だったか。

 ぱっと見たところどこにも怪我はなさそうだ。
 冗談抜きで危ないよな。俺も気をつけよう。

「そんなこともあるんだな。笑いごとで済んでよかった」
「まったくです。ダンジョンであれば命を落としていたやもしれませんな」

 苦笑するカイエンの一言で俺はハッとした。

 すっかり忘れていた。ギエンにも声掛けしてこないといけないんだった。近々エルバレン商会との取り引きもあるからダンジョンで魔物狩りもしとかんと。

「カイエン助かった。今ので忘れてたことを思い出せた。そんじゃメリッサ、ちょっくらダンジョン行ってくるわ。それとも一緒に行くか?」

「行かないよー。リュウエンの首飾り作らなきゃだしー」

「ああ、そうだったな。そんじゃ外に出てくれ。シーサーペント出すわ」

 全員でコンテナハウスから出て、素材を剥ぎ取る為に砂浜でシーサーペントを出すと、ずずんという音に反応したのか民たちが集まってきた。

 丁度良いので仕留めたのがリュウエンだと喧伝しておいた。

 そしたら何故かまた歌と踊りが始まっちゃったから、俺は早々にシーサーペントの素材を剥ぎ取って回収し、さっさとバギーでダンジョンへと向かった。
 
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