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19‐1 稼ぎに行こう(前編)

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 砂浜に民が集って一週間が過ぎた。

 なんというか、人の凄さというものをまざまざと見せつけられた気がする。
 この短期間で砂浜の側に村が出来るとは夢にも思わなかった。

 そのきっかけが葬送だったってのがまた因果を感じるよな。亡くなった人たちからも応援されているように思えてくるから不思議なもんだ。

 事の起こりは初日の葬儀後にあった。遺体をどうするか皆に訊ねたら『これまで通りにしてほしい』と言われた。つまり野晒しの提案が村作りの始まりになったって訳だ。

 俺は疫病対策の為に荼毘に付すのが良いと思っていたが、民からすると畏れ多いとのこと。火葬は上流階級でしか行われないそうで遠慮したようだ。

 民たちが言うには、薪が勿体ないそうだ。薪は生きている者が命を繋ぐ為に使うべきで、死んだ者は自然に任せてその一部にすればいいという。

 合理的思考だが、死者を蔑ろにしていないというのが凄いところ。墓を作らない理由も自然に感謝することがそのまま死者への感謝になるからだとか。

 そういった説明に感銘を受けつつどこに遺体を置くのが良いかと考えた結果、無人島なら疫病が蔓延することもなく自然に還るだろうと思いついた。

 それで葬送の希望者を募ったのだが、それがそのまま無人島での採取や狩猟ツアーに早変わりし、木材、野草、木の実、果実、鳥獣肉がどっさり得られた。

 これが好評を博し連日開催されるようになったところ、いつの間にか村へと発展していたと。俺はほとんどの時間を無人島で過ごしてるから戻る度に驚かされたよ。

 木材は大工仕事のできる民たちが加工し、平屋を建てながら門と柵も作っている。食材は女たちが下処理して料理に使い、保存食なんかも作っている。

 保存食は魚の干物。干し肉の作り方を知っている女が試行錯誤しながら作っていた。俺は知識が乏しく力になれなかったが既にそれなりのものが出来ていたりする。

 経験則ってのは侮れない。大体こんな感じって出来ちゃうんだもの。
 一体全体どうなっているんだか。

 他にもリャンキが馬車で宿場町まで塩を売りに行き、得た金で麦や米を買って帰ってきたり、土魔法使いが貯水池を作ってバッカンの真水を移したりしている。

 そんでもって、リュウエンは村民たちのアイドルと化している。あちこちでお手伝いをしては喜ばれ、皆で歌ったり踊ったりと楽しそうにしている。

 なんか知らないうちに木の皮を撚り合わせた紐と石でボーラのような狩猟道具が作られてたり、見覚えのない網籠とか笊なんかも増えてたりする。

 訊けば『拵えました』と笑顔で答える。『材料を与えて下さってありがとうございます』と続くが別に感謝されたい訳じゃないんだ。驚いただけなんだよ。

 俺はもう民たちの知識と技術に脱帽させられっぱなし。
 リュウエンも奴隷になった経験を活かし、イルマたちを反面教師にしたとのことで民からは慕われっぱなし。人気取りに協力する必要が全くない。

 怖いわ本当に。なんなのこの人たち。

 という訳で、この一週間はまるで神目線の村作りシミュレーションゲームをしている感覚だった。あとは自立できるような仕組みが出来上がれば完璧なんだが……。

 現状、俺ありきというのが問題なんだよな。

 ストレージ、船、濾過装置がなくなれば途端に村の生活は破綻してしまう。

 民の技術があれば船や網は作れるし、沖まで出なければ漁業も可能だろう。塩も今より手間はかかるが海水を煮詰めていけば作れる。

 やはり真水がないのが一番の問題になる。

 水魔法使いが多ければよかったのだが、農村から来た二十人の他にはいない。

 南の村は農村と違い存続しているのだから当然だ。
 残してこなければ村の生活が破綻してしまうからな。

 なので結局は雨が降りさえすれば解決するというところに行き着くのだが、相変わらず降る気配は全くない。雲の欠片もできやしない。

 そりゃそうだ。ちょっとやそっとの水を蒸発させたくらいじゃ雨雲なんてできないわな。そもそも、皇都から東風が吹いてりゃ意味もないし。

 風なんてほとんど感じないのに不思議なもんだ。
 多分、地表には風が届かないようにして上空で吹かせてるんだろう。

「という感じの推測をしてんだわ」
「なーるほーどねー」

 メリッサが帰還したので、俺は現在コンテナハウスの居間で近況の報告をしている。ロジンは護衛の兵士と共に購入した糧秣を積んだ馬車で向かっているそうだ。

 往復の道中は言葉が通じないこと以外は何一つ問題が起きなかったらしい。遭遇した魔物もゴブリンや小型の魔獣ばかりな上に、ほとんどロジンが討伐したのだとか。

「持ち帰れなかったのが残念だったなー。あんなのでも金になったと思うし。セイジがいればストレージが使えたのにねー。それでー? セイジは何を狩ったんだー?」

 そうメリッサに訊かれて俺は頭を搔く。

「それがな、まだ何も狩ってないんだよ。一応、リュウエンが討伐したシーサーペントはストレージに保管してあるが、これを買い取る形にしてもいいのか悩んでてな」

「別にいいんじゃないのー? 何が問題なのさー」

「リュウエンが初めて討伐した魔物だからな。訊くのも気が引けるんだよ」

「そういうことなら、鱗の一枚でも剥がして記念に渡せばいいんさー。残りは小粒金の返済の代わりに貰う形にすればリュウエンもロジンも喜ぶと思うけどねー」

 メリッサは言い終えるなりソファから立ち上がり「訊くのが早いね」と言ってコンテナハウスの扉を開けて、大声でリュウエンを呼んだ。

 躊躇いなく皇帝を呼びつけるなよ……。

 メリッサの突飛な行動が、この一週間で俺が一番驚いたことになった。
 
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