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18‐2 雨乞いの宴(中編)

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「セイジ殿、バッカンに真水がいっぱいに溜まりましたよ!」
「おうよ。交換しよう」

 魚を焼くのと並行して、海水を濾過装置に入れている。組み上げ用のホースをバッカンに汲んだ海水にぶち込んで、空のバッカンには排出ホースを入れる。

 すると真水が満たされたバッカンが出来上がる。
 それをストレージに入れて、海の中で空になったバッカンを出して沈め、すぐにストレージに収めれば海水で満たされたバッカンが出来上がる。

 あとは空のバッカンと共に濾過装置にセット。この繰り返し。

 濾過で除かれた不純物混じりの高濃度塩水は別のバッカンに溜めている。リャンキとカイエンが合流した後それを布で濾し、別のバッカンに移し替えて加熱する予定。

 燃料は無人島でストレージに入れた倒木を使う。

 生木のままだと良くないと聞いたことがあるので、釣りに向かう前に荒れ地に並べておいた。砂浜に置いて波に触れたり攫われたりしたら目も当てられないからな。
 
 木は夜通し乾燥させて、明日の早朝に薪にするつもりでいる。
 遂に山賊が使ってた斧が活躍するときがきた訳だ。

 ジウルイたちを成敗したときに武器を回収しておいて良かった。
 俺はストレージがあるからネコババせんと損だからな。というか山に置きっ放しの方が問題あるだろ。アルピニストやナチュラリストに叱られるわ。

「うい、バッカンの交換終了。でも、今日はここまでにしとくか。大分暗くなってきたしな。よしリュウエン、そろそろ飯食って風呂入ろう」

 元気よく「はい!」と返事をするリュウエンの頭を撫でて俺は片づけを始める。といってもストレージに放り込むだけで楽なもんだ。

 おそらく明日の昼頃にはリャンキたちも到着するだろう。本番はそれからだ。

 エレスに言われるまで思いつかなかったよ。
 塩作りが、雨乞いの儀式に利用できるなんてな。


 ***


 翌日の昼過ぎ、リャンキとカイエンの馬車が砂浜に到着した。約束通り目印に高濃度塩水入りのバッカンを用意しておいたので目敏い二人はすぐに気づいてくれた。

 まぁ、こんな均一な金属の箱が三つも並んでたら嫌でも目に付くよな。
 俺でも思う。時代に合わない明らかなオーパーツ。

 違和感がすごいが、それはさておき民たちはまだ来ていない。

 二人は目的地を特定する為に先行したらしい。とはいえ知らせに戻る必要はないそうだ。一本道なので追いかけて来るだろうとのこと。そろそろ到着する見込みだとか。
 
 ちなみに高濃度塩水の濾過には未使用の清潔なベッドシーツを使った。どうしようかと思っていたが探せばあるもんだよ。俺の考えじゃなく、エレスの提案だけどな。

「雨乞いの儀式ですか?」

 これから行おうとすることをリャンキに説明すると、怪訝な顔で訊き返された。これもまたエレスの提案だが、知識がないと理解できないかもしれない。

「あのな、このバッカンの下には穴が掘ってあるだろ? ここに薪が入ってる。これに火を点けると、バッカンが温められて塩水が沸騰するよな?」

「はい。それはわかります。ですが、雨乞いというのは?」

「塩水を沸騰させると、塩が作れる。じゃあ、水はどこに行く?」

 リャンキとカイエンが顔を見合わせ、二人して難問に挑むような顔をする。やはり考えたこともなかったようだ。別に不正解でも馬鹿にはしないんだが、恥になるから答えたくないということだろうか。だんまりを決め込まれてしまった。

 そんな二人を見兼ねたのかリュウエンが手を挙げた。

「ほい、リュウエン」

「昔ラオに聞きました。水を火にかけ続けると減っていきますが、それはただ見えなくなっただけだと。熱の力で煙となって空気の中に溶け込んでしまったとか」

「正解! すごいぞリュウエン!」

 照れるリュウエンの頭を撫でまわす。最近いっぱいご飯を食べてるからかちょっとふっくらしてきたな。日焼けもして健康的だ。おじさん嬉しいぞ。

 俺は嬉しそうに笑うリュウエンから消極的なおじさん二人に目を移す。

「今リュウエンが言ったことの補足になるが、熱ってのは上に向かうんだ。つまりは空だな。ところが、空に向かうにつれて温度が低くなっていく。そうするとだな、空気に溶け込んだ水が今度は細かい氷の粒に変わって雲になるんだよ」

「な、なんと。消えた水が雲に変わっていたのですか⁉」

「ああ、この炎天下だ。本当なら海面が熱せられて出来た雲がこっちに流れてきてもおかしくないんだが、何故か西にある無人島側に行っちまうようなんだ。だからここで海水を煮て水を蒸発させてやりゃこの場所に雲を作る助けになるんじゃねぇかと」

 微々たるものだろうが、塩作りが産業として成り立てばもしかすると本当に雨雲が出来るかもしれない。そうならなくとも、祭にでもなれば儲けものだ。

 そういう意図を話すと、珍しくカイエンが口を開いた。

「実に素晴らしいお話です。塩作りの燃料に関してはちと問題がありますが、それも火魔法の使い手と炎天下を利用すれば叶うでしょうし、祭は民に活気を与えますからな。それで、失礼ながら少しばかり話を変えることになるのですが──」
 
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