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18‐1 雨乞いの宴(前編)

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 夕暮れ時になった。二つの月が姿を色濃くし、薄っすらと星が瞬き始めている。
 雲一つない上に街明かりもないので、夜は満点の星空が楽しめるだろう。
 
 シーサーペントとの戦いはリュウエンとエレスの圧勝だった。リュウエンは銃撃時の反動に負けて後ろに転がったり海に落ちかけたりしたが、全て自力で対処していた。

 イルマに向かって放った権力者の威勢なのか、はたまた皇帝の覇気なのか、あるいはただの負けん気なのか。とにかく船に乗る前とは別人だった。

 顔つきもそうだが目の輝きが違った。シーサーペントが出てきたときは怯えた顔であわあわ言ってたのに、あっという間に豹変するからびっくりした。

 腹を決めたら一瞬で頭を切り替えるんだよな。
 皇族の矜持っていうのが垣間見えた気がするよ。

 ちなみに、シーサーペントにトドメを刺したのはリュウエンだ。俺の目から見ればエレスが譲ったってのが丸分かりだったが良い判断だったと思う。

 リュウエンは喜び過ぎて踊りだしたからな。なんか阿波踊りっぽいやつ。

 反応に困って一緒に踊るしかなかったが、あれは一体どうするのが正解だったのか未だにわからない。これだから子供は難しいんだ。おじさん悩んじゃったよ。

 それはそうとして良い仕事をしたエレスは撫でておいた。

 もちろん、リュウエンがいないところでだ。艶めかしい声を聞かせて良い年齢ではないからな。もっとも、聞いていい年齢になっていたとしても聞かせないが。

 エレスの喘ぎ声は俺だけのものだという思いはどうでもいいとして、リュウエンはまだ興奮冷めやらぬといった様子だ。よほど嬉しかったのだろう。また踊ってるわ。

 まぁ、初めて討伐した魔物が大型のシーサーペントなんだから無理もないか。全長二十メートルくらいあったもんな。赤い鶏冠と空色の櫛鱗も綺麗で気分が上がるよな。

 ただ、エレスが言うには骨が多くて食肉には向いていないとのこと。これだけ大きければかなりの人数の飢えを満たせると思っていたが考えが甘かった。

 そういう訳で、シーサーペントの討伐後はまた釣りに戻った。
 結果は大漁。ストレージが魚の山になった。

 多分、釣り始めの食いつきが悪かったのはシーサーペントがいたからだと思う。討伐後は入れ食い状態になったから、あながち間違いとも言えないだろう。

 最も多く釣れたのはカツオっぽい魚だ。
 上手いこと魚群に直撃したようだ。

 だからこそ、というか……。

 残念だったのは処理が必要で釣りに専念できなかったこと。
 それがなければもっと釣れたんだけどな。

 魚はそのままだと生臭くなるので血抜きしたり内臓を取り出したりと結構な手間が必要。怠ると臭いが気になって喉を通らなかったりするんだわ。

 大型魚の処理方法はエレスが知っていたので問題なかった。大抵のことは訊けばエレスがどうにかしてくれるので本当に助かっている。

 処理方法の他にも熟成しないと美味しくならないとか色々と言われたが、そこまでやるのは流石に無理なので、魚は全て切り身にしてストレージに放り込んである。

 で、今はそれを調理しているところだ。

 砂浜にバーベキューコンロを出して網の上で焼いている。本当は一刻も早く風呂に入りたいのだが、作業を終えてからの方が良いだろうということで頑張っている。

 俺もリュウエンも魚臭い。二人ともツナギに血とか染みついちゃってるし、メリッサに叱られないか少し心配している。洗濯はメリッサがしてくれているから。

 でも、まだ一回も文句を言われたことがないんだよな。山賊の返り血を浴びて『汚したごめん』って謝ったときもメリッサは全く不機嫌にならなかった。

『汚したのも臭いのも、いっぱい働いたからだろー? 頑張ってそうなったのに、文句を言ったりなんてしないさー。そりゃお門違いってもんだからねー』

 なんて言っていた。でも限度はあると思うんだよ。

 というか、そう言っていたから大丈夫だろうって気にせず汚し続けるのも違うと思うんだ。親しき中にも礼儀あり。あまり苦労をかけないようにしたいよな。

 なんせ、俺にとっては今や世界で一番大事な人だし。

 考えてたら会いたくなってきたな。
 早く帰って来ねぇかな。

 メリッサの笑顔を思い浮かべてちょっとぼんやりしてしまったところで、少し離れた場所で見張り番をしながら楽しげに踊り狂っていたリュウエンが駆け寄ってきた。
 
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