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17‐2 宴の準備(後編)

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 それはそうとして、一足先に海に到着したリュウエンと俺はすぐさま船で沖に出た。魚釣り開始だ。本当は網を使った方がいいんだろうがないからな。

 それにリュウエンに気晴らしをさせてやりたいという思いもあったし、釣れなかったら釣れなかったで俺が素潜りでもしてやる気でいたのだが、なんかマグロみたいのを釣り上げちゃってびっくりした。おそるべしビギナーズラック。

 これは絶対にリュウエンの運だな。
 俺とメリッサだとサバだったもん。アニサキスだらけの。

 そのリュウエンはというと船に乗ったばかりのときはぐちぐちと子供らしくないことを延々と話し続けていてどうしたもんかと思っていたが、俺が屁をこいただけで腹を抱えて笑ったり、どでかい魚を釣り上げたら大興奮したりと気晴らしになったようだ。

 作戦が成功したようで何よりだ。良かった良かった。

 しかし、愚痴るリュウエンは子供らしくなかった。かつての同僚並に饒舌だったから本気で困惑したぞ。俺といる間に思い出で暗い記憶を塗り潰してやらんといかんよな。

 なんでもいいから人と関わって笑う。それが一番だ。

 俺は子供時代、昼休みに友達とドッジボールをしてたな。キャッチし損ねて股の間からボールがスポーンと出たときは『セイジが卵を産んだぞー!』と大騒ぎになった。

 くだらねぇことで大爆笑だった。あの頃は楽しかった。友だちの家で一緒に対戦格闘ゲームやって『お前汚ぇんだよ!』って肩殴られて喧嘩になったり。懐かしいわ。

 大人になるとやれることは増えるが、どんどん楽しみが少なくなるんだよな。

 いや、楽しみはいっぱいあるんだろうが億劫になってしまうんだ。ゲームも面倒だし、ドッジボールなんてやろうとも思わない。疲れて筋肉痛になるだけだってな。

 友だちも少なくなっていく。それぞれが家庭を持つから仕方ない。俺は独身だったから、周囲に気を遣っているうちにかつての友人たちとは疎遠になってしまった。

 それを別になんとも思わなくなって、むしろ楽でいいとか思っちまう。実際、煩わしいことがなければ有意義な時間を過ごせる。今は孤独を楽しむコンテンツが多いから。

 意見の食い違いで不快な思いをせずに済むとか、人が二人いりゃ争いの元になるだとか考えて面倒事を避けようとしちまう。楽な方を選んじまう。

 元の世界にいた頃の俺はそうだった。あとは孤独死に向けてダラダラ時間を潰して過ごすだけだって。波風立てず、ひっそり生きることを望んでいた。

 いや、望まざるを得なかったと言った方が正しいな。
 本当はどうしたかったのか自分でもわからなかった。

 なんだよ。俺の方がリュウエンより酷かったじゃねぇか。

 どこかで諦観ってもんが気持ちを安らげてしまった気がするんだよな。何を言われようが気にならなくなって、来世に期待とか、そんなことすら思わなくなった。

 なんなら二度と生まれたくないとか、そんな寂しいことまで考えてたわ。そのくらい面倒臭くなってた。もう面倒臭いの極致だよ。到達しちゃってたよ。

 生き甲斐ってのがなかったからなぁ。それがあっても自由を阻害されるようなもんだから、別に必要ともしてなかったように思う。目的とかも同じく。

 だから、やっぱり良い人付き合いってのは大事なんだよ。
 生き甲斐というより、生きる楽しみになる。

 自分の人生に必要だと思える人と共に歩む。それが如何に大切で素晴らしいことなのかを俺はこの世界に来て実感した。愚痴ってる暇があったらそれを探して育めと。

 そうリュウエンに教えてやらないとな。俺の実体験だから説得力あるだろ。

 そんな説教臭いことを考えてるうちに、また釣り竿にアタリがあった。

 少し待ってから合わせると、とんでもない引きの強さに襲われた。縁に足を当ててこらえると船が引っ張られる。おいおいリュウエン、顔が真っ赤じゃねぇか。

「リュウエン、無理すんな! 青筋破けて血が噴き出すぞ!」
「わ、私も、お手伝いします! うぎぎぎぎ!」

 尋常じゃない力だ。これは魚じゃないんじゃないか。
 そう思った途端に釣り竿が一気に軽くなり、俺とリュウエンは「うわー」と叫んでどてーんと後ろに倒れた。それと同時に、ざばーんと水飛沫が上がった。

 出てきたのはどでかい海蛇だった。口に釣り針が引っ掛かっていて、こちらを黄色い目で睨みつけている。痛ぇじゃねぇかこの野郎、と言っているように見える。

 メリッサの用意した釣り餌ってどうなってんだよ。硬めのブロックグミっぽかったけども。あんな小さいのに、こんなでかい魔物まで釣れるなんて聞いてねぇぞ。

「は、はわわわわ!」
「リュウエン落ち着け! エレス、あれはなんだ⁉」
【おそらくシーサーペントだと思われます】
「こうなった以上は討伐しないと駄目だよな! エレスは援護を頼む!」
【はい、かしこまりました】

 俺はすぐさま舵を取りに向かった。釣り竿を手にしたまま、方向転換してエンジン全開。向かう先は砂浜だ。シーサーペントが凄まじい勢いで追ってくる。

「セイジ殿っ! お、追いつかれますう!」
「大丈夫だ! かっ飛ばすからしっかり掴まってろ!」

 確かに速度は相手が上。だがそれはこっちが何もしなければって話だ。

【捉えました。撃ちます】

 後ろを見ると、目の前に迫るシーサーペントの頭があった。
 そこに俺の背から降りたポチが銃撃する。ポシュポシュと二発続けて放たれた光弾がシーサーペントの頭に直撃し、その身を仰け反らせる。

「キュアアアアアアア!」

 シーサーペントは叫ぶように鳴き、体をうねらせ海に潜った。
 だがそうは問屋が卸さない。釣り竿を持ってるんだよ俺は。

 ラインが張るなり、ざばぁっとシーサーペントの頭が海面に出てくる。

 一度怯んだからか、抵抗しようにも上手くできないようだ。
 まぁ、水棲生物だしな。光弾の熱は相当痛かろうて。

「ナイスだエレス!」
【うふふ、ありがとうございます。足止めはお任せ下さい】
「リュウエンも撃ちたけりゃ撃っていいぞ!」
「わ、私があれの討伐を!?」
「ああ、俺の代わりにな! エレス頼む!」
【かしこまりました。リュウエン、これを使って下さい】

 エレスから光弾突撃銃を受け取ったリュウエンは、不安げに使い方の説明を聞いていたが、やると決めてからは早かった。すぐに銃を構えてシーサーペントを狙う。

「来い! 化け物!」

 猛烈な波飛沫の立つ音とエンジンの唸る音の中でも、リュウエンの声ははっきりと聞こえた。やってやるという気概を感じる力強くて勇ましい声が頼もしかった。

    
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