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17‐1 宴の準備(前編)
しおりを挟む昨夜、皇都ガーミンを取り戻すにはリュウエンを旗頭にした軍を起こさないと駄目だとメリッサが言ったので、俺はない頭を絞ってうんうん唸りながら考えた。
とはいえ軍なんて起こしたことはない。要は人を集めれば良いのだが、それをどうしたものかと悩みに悩んだ。まさか兵士になってくれと頼んで回る訳にもいくまいて。
声をかけるなら金で雇える傭兵が楽だ。しかし数が足りない。軍というからには少なくとも千以上は欲しい。となれば、民をついてこさせればいいと思いつく。
だが民が戦いについてくるだろうか?
数合わせで構わないと言っても、そう簡単には決められないだろう。民を連れていくにはそれこそリュウエンの導きが必要だ。ついて行きたいと思わせなければならない。
民はリュウエンをどう思っているか。それを知るには直接訊くのが一番だが面倒だし極力無駄は省きたい。なので、なんとなく相手の立場になって考えてみた。
もし俺が農民の立場だったなら、何故こんなに苦しい思いをせねばならないのかと思うだろう。そして援助を行わない国への恨みを募らせる。
国とは何か。皇帝が治めているものだ。では、どうして雨が降らないのか。それは皇帝に力がないからだ。ならば皇帝がすべて悪い。皇帝討つべし。
あ、駄目だわ。リュウエンこのままだと危ないわ。
事情を知らず考える力も乏しければ、民はきっと過激な思いを抱く。
知恵がない者は短絡的だ。知恵の輪を力づくで外すような真似をする。
順を追って解決に向かうことができない。すぐに暴力に訴える。
死なばもろともという覚悟を持って。
言ってしまえば自棄だ。自分が死んでも一泡吹かせてやるという復讐心に身を委ね思考を放棄する。思い知らせてやりたいという欲求がそうなるように駆り立ててしまう。
だからまずは、誤解を解く必要があると判断した。
皇帝は悪くないよ? とてもいい子だよ?
それを民に示さねば話にならない。そして誰が悪いのかも示さねばならない。
そんなことを考えているとき、ふと何か使えるものがないかと思った。メリッサがあれやこれやと用意していたものだ。色々あって詳しい説明を訊いたことがなかった。
とりあえずストレージを開いて入っているものを一つ一つ確認してみたところ、エレスがメリッサから話を聞いていたらしく名称が付いていた。
濾過装置。これはなんだとエレスに訊くと、どんな水でも清潔な真水に変えるという。なんと海水もだ。塩を含む不純物を分離してくれるらしい。
その説明を受けながら、釣ったは良いものの食べていないサバらしき魚の切り身のことを思い出した。当然まだストレージに入っている。
そういや海あるじゃねぇか。忘れてたわ。
飢えを満たす魚は大量に泳いでいる。それを取っ捕まえてやれば食糧問題は解決する。加えて、リュウエンに施させれば誤解を解くのにも一役買ってくれる。
そこまで考えたところで閃いた。なんなら海水を煮てやればいいじゃないかと。
濾過装置を使っても全ての水が真水になる訳ではない。塩分濃度が非常に濃くなった水が残る。それを布で濾過し不純物を取り除いたものを大鍋で煮れば塩ができる。
なんてことだ。産業にもなるじゃないか。
塩を売った金で他国から食料を買えば良い。
俺は一人で興奮していた。天才なんじゃないかと思い上がった。しかし、野営しているロジンたちを朝食に誘い、説明を終えたあとで気がついた。
移動ってどうすんだよ、と。
バギーはメリッサとロジンが使う。となると、あとは馬車か徒歩しかない。
大鍋を借りるにしてもかなりの量が必要だ。行きは良くとも帰りは偉いことになる。この炎天下で馬もバテバテだろう。速度が出る訳がない。
それでとりあえず外に出た。リャンキとカイエンが出発してしまってはまずいのでとにかく止めることから始めた。全くのノープランだった。
が、すぐに思いついた。そういやバッカンあったな。さっき見たわ。なんだよもう。別に大鍋借りに宿場町くんだりまで向かう必要ないじゃねぇか。
そういう訳で、二人には手隙の民を連れてきてもらうことにして俺はリュウエンを抱っこして海まで全力疾走した。しっかりと能力値が反映されているので速かった。
何故、能力値が反映されているかというと、戦闘状態に移行する方法も編み出したからだ。これも非常に簡単だった。灯台下暗しというやつだ。
手順は簡単。エレスが明確な攻撃意思を俺に向け、それを俺が覚るというだけ。
別に本当に攻撃する必要はない。そういう風に思ってもらうだけで反映された。
ただし、どうもこれはポチがいないとできないようだった。エレスいわく、【映像外部出力状態では攻撃手段がないからでしょう】とのこと。
つまり武装したドールにエレスが入っているからこそできたズルで、俺以外の召喚者は不可能だろうということだった。なるほどねぇ。
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