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15‐3 国の秘密(後編)

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 ロジンいわく、セグウェイはラオにとって単なる皇帝代理でしかないらしい。ラオの企みは、リュウエンを水の精霊の依り代として覚醒させることにあるのだという。

 リュウエンが記憶を失っていたのは、ロジンが水の精霊の戻る器を塞ぐ為に施した封印術の副作用。ラオにリュウエンと水の精霊を奪われた際の保険だったそうだ。

 メリッサがぽっかり抜けているって言ってたのは器のことだった訳だ。生まれながらに精霊を宿す皇族第一子特有の巣穴ってところか。そこを塞いで戻れなくしたと。

「リュウエンが依り代として覚醒するとどうなるんだ?」

「前例がないのではっきりとしたことは言えませんが、精霊移しの儀が不首尾となったときのようになるかと。儀式については聞いておられますか?」

「ああ、第一子が皇帝に相応しくないと判断された場合、弟妹へと移されるってやつな。失敗した場合は死ぬからすぐに戻すとしか聞いてないが、どうなるんだ?」

「水の精霊に意識を奪われ体を乗っ取られます。ただし、収めるだけの器がない体は水の精霊の力に耐えきれず破裂するそうです。ゆえに兆候が表れ次第戻すのです」

 宿した者の体が大きく損壊すれば、器も破壊され水の精霊は解放されるらしい。逃げる暴れる取り憑くと好き放題するので大惨事となるのは明らかだそうだ。

 リュウエンが『戻すのが早くても気が触れる』と言っていたが、それは水の精霊が精神を食うからだとロジンは言う。器がないと食われるのも早いのだとか。

「つまり、器のあるリュウエンは体を壊されることなく水の精霊に乗っ取られるんだな。たまに依り代になってるってことはもう精神を食われてるってことか」

「はい。陛下は年の割に小柄で、三つ下のセグウェイ殿下と変わりません。体にも悪影響が出ているのではと。ゆえに私の独断で水の精霊を抜き壺に封印したのです」

 一旦水の精霊を抜き、リュウエンの体と精神を回復させる。干ばつの起こる夏季の数ヶ月の間だけリュウエンの体に水の精霊を宿せば問題なく行える。

 ロジンはその案を議場で通す為にあれこれと手回しをしていたらしいが、ことごとくラオの邪魔が入り、多くの官吏から反対されたとのこと。

 それで夏季にもかかわらず止むなく強行したと。

 実際、危険を伴うのは確かだそうで、封印した壺は二ヶ月ほどしか保たない上に、リュウエンの体に戻す際の封印術も失敗するおそれがあるのだとか。

 ただリスクがあってもリュウエンが水の精霊に乗っ取られちゃったら意味ないでしょうって話だ。ロジンはそう訴えたそうだが賛成したのはごく少数だったんだとさ。

 うん、多数決の失敗例だわこれ。

 とはいったものの、そうなっても全く不思議じゃないわな。どう考えても干ばつを盾にできる方が有利になるよこの国は。何も知らなきゃ俺もラオ側になるだろうし。

 しかし、ラオは上手いことやったよなー。

 リュウエンの側近って立ち位置も利用すりゃ『陛下にそのような兆しはありません』って嘘吐けば済むし。評価も高いからリュウエン含め周囲の信用を得るのも容易い。

 あまつさえロジンは評判を落とされてる。まさに八方塞がりって感じだっただろう。というか実際そうだったからこうなってる訳だし。腹立ったろうな。

 悪い奴ってなんでもありだから強いよな。
 ロジンもなんでもありにしないと対抗できないわそりゃ。

「水の精霊を抜いた理由はわかった。干ばつで差し迫った状況にあるってのもな。それで、もしリュウエンが水の精霊に乗っ取られた場合はどうなるんだ?」

「これは隣国のベイロン帝国に士官した知己より得た情報なのですが、彼が言うには『人を依り代とした精霊は強大な力を持つ魔族となる』そうです」

「魔族?」

「人に仇なす者だそうです。水の精霊もまた建国から数えて三百と余年、人の身に繋がれ利用されてきた恨みを抱いておりますので破壊の限りを尽くすだろうと」

 干ばつから一転、豪雨と河川の氾濫による水害、大洪水て。
 何この国。水の精霊いてもいなくてもまずいじゃないかよ。

「ラオはなんだってそんなもんを。制御できねぇだろ」

「制御ではないのやもしれません。目的は協力、あるいは共存共栄かと」

「なんだか急に平和的な言葉が出てきたな。可能なのか?」

「可能なのでしょう。彼奴の正体は水の精霊と同格の魔族と思われますから」

 思わず鼻で笑ってしまった。なんだよそれ。

「おいおい、いい加減にしろよ。皇帝の側近が魔族ってどうなってんだよ?」

「恥ずかしながら、誰一人として気づいておりませんでした。わかったのは継承の儀のことです。私が水の精霊を封じたときに本性を現したのです」

 リュウエンの話だと取り押さえられたところで記憶が途絶えているが、その後のラオは尋常ではない力で自分を押さえつけている兵士を跳ね除け大暴れしたらしい。

 肌の色が失せて青くなり、顔には入墨のような模様が表れ目は緑に輝いていたとのこと。兵士たちが手の一振りで切り裂かれ、壁や天井に叩きつけられたという。

 ロジンは十人の兵士と共にリュウエンを連れて逃げるのがやっとだったとか。その兵士たちも追っ手に一人また一人と殺されていったそうだ。

「彼奴は北方の森の奥深くに入った者だと私は考えています。初代皇帝であるフウケン陛下もそうだったという記録が残されておりますから」

「冒険者が依り代として覚醒して精霊に体を乗っ取られちまったってことか」

「はい。あるいは精霊がこの国の中枢へと入り込み、依り代にできる体を選び奪ったかのいずれかでしょう。それが偶々ラオであったというだけやもしれません」

 継承の儀で放たれた力は風だったらしい。
 つまりラオは風の精霊が受肉した魔族なのではないかということだった。
 
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