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15‐2 国の秘密(中編)

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「身につまされますな。一物を失う苦しみは私も知っておりますから」
「やめろ、俺は失ってない。宰相殿と違ってまだある」
「え? どういうことです?」

 リュウエンが俺とロジンを交互に見て言った。
 俺は前のめりになった体をソファの背もたれに預けて溜め息を吐く。

「ロジンは宦官だ。リュウエンは知らなかったようだが、正室との不義なんてどうあっても不可能なんだよ。セグウェイはれっきとしたお前の弟だ」

 これはコンテナハウスに来る前に確認したことだ。もし不義があったとすればリュウエンにどう説明するかを考える必要があったからな。ロジンは明らかに味方だし。

 リャンキとカイエンにも確認済み。ロジンは宰相になることが決まったときに去勢したそうだ。いわく『一国の政務を預かるのだから疑念の元を断つのは当然』だとか。

 いくら疑いを招かないようにする為でも俺には到底真似できんよ。ロジンは本気でレイジェン皇国に身を捧げてるよな。皇帝への忠の尽くし方が半端じゃないわ。
 
「では、では何故、正室の部屋に……」
「皇后陛下からは、陛下のことで相談を受けていたのです」
「私のこと?」
「はい」

 ロジンは神妙な顔をしてリュウエンを見つめる。

「陛下は幼き頃より、水の精霊との親和性が高く依り代となることがあったのです。その間は酷く凶暴になり、皇后陛下や側仕えを襲うこともしばしば」

「な、なんだと……」

「そしてラオは、陛下がまだ幼き頃、先帝陛下を襲うように仕向けたのです」

「わ、私が父上を、襲った?」

 ロジンは静かにかぶりを振る。

「陛下ではございません。ラオの陰謀で水の精霊が行ったことです。むしろ陛下はその力を押し止め、先帝陛下をお守りしたと目撃した者たちから聞いております」

 当時は事故扱いで、ラオは先帝陛下とリュウエンを守る為に動いた優秀な側近として称えられたそうだが、事ここに至ってはそれが陰謀であったとしか思えないとか。

 まぁ、自作自演だよな。

 上手くいきゃ皇帝を殺してリュウエンの即位を早められるし、駄目でも評価は上がるからな。リュウエンが抵抗してなかったらラオの思う壺になってた訳だ。

 俺は震えて頭を抱えるリュウエンを抱き上げて膝にのせる。リュウエンは顔色が失せて涙ぐんでいた。辛いことばっかりあって大変だなお前は。

 立て続けに苦難に襲われるリュウエンの頭を撫でながら思う。こういうときこそ俺が笑ってやるべきだと。子供は大人の笑顔に救われるってエレスが言ってたからな。

「なぁ、リュウエン。お前の不幸は誰がひっくり返してきたよ?」

 リュウエンが俺を見てへの字口になる。かと思えば抱きついてきた。

「安心しろ。おじちゃんがついてる。ラオと水の精霊のことは任せとけ。お前はどうすりゃ国を良くしていけるかだけを考えろ。ロジンが力になってくれる。だよな?」

「勿論です。私は陛下とこの国の為にのみ生きておりますから」

 微笑んでいたロジンが、すぐに表情を引き締め俺を見つめる。

「セイジ殿、今更ながら感謝申し上げます。私の不手際で陛下を見失い、あわやこの国の破滅を招くというところでした。本当に、よくお救いして下さいました」

「ああ、頭は下げなくていい。俺がしたくてしたことだ。それより、国の破滅ってのはどういうことだ? やっぱりリュウエンじゃないと駄目なのか?」

「その通りです。セグウェイ殿下に水の精霊を受け入れる器がないことは既に調べてあります。水の精霊を宿す陛下がおらねば、この国は立ち行かなくなりますから」

「じゃあどうしてリュウエンから水の精霊を抜いたんだ?」

「陛下の身を案じての一時的な措置だったのですが、今はラオの陰謀への対策と変わりました。ラオは飽くまで陛下と水の精霊を取り戻すつもりなのです」
 
 
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