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14‐3 怨嗟の村(後編)

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「あら?」

 俺はいつの間にか麓の村へと着いていた。

 振り返ると誰もいない。
 どうも皆を置いてきてしまった模様。

「考えごとしてると周りが見えなくなることってあるよな」
【随分と苦悩されていましたね。何度か声をかけたのですが】
「悪い。聞こえてなかった。護衛に行ってくれるか?」
【かしこまりました】

 ポチが俺の背から離れ、シャカシャカ歩いて山道へと戻って行く。

 飛ばないのかよ。

 疑問に思いつつ見送った後で、俺は手で庇を作り村を眺める。

「えーっと、ジウルイの家は……あそこか」

 俺は最も大きな家の前に荷車を引いて向かう。お届け物の配達だ。

 足早に進んでいると村民たちがざわつき始めた。ガタガタゴトゴトうるせぇんだわこの荷車。地面がよくないってのもあるが、目立ってしょうがないんだよ。

 村民の何人かがついてきたが知らん顔して足を進める。そりゃこんなもん積んでたら目を疑って見に来るわな。今の俺は西陽に照らされた残酷な旅商ってとこかね。

 ついてくる村民の数は増えていき、やがてジウルイの家に着いた頃には人だかりができていた。物凄い怨嗟が荷車に向けられているのを感じる。こりゃいかん。

 俺は村民たちに向き直って声を張り上げる。

「こいつらに危害を加えるのは待ってくれ。まだ役者が揃ってないからな」

「あ、あんたは一体……」

「俺? 俺は──」

 名乗ろうとして、ふと思いつく。
 これは、ちょっとした助けになるかもしれんな。

「俺はセイジ。レイジェン皇国の皇帝リュウエン陛下の懐刀といったところだ。密命を受け、宰相のロジン殿と共にこの村を救いに来たんだよ」

「こ、皇帝陛下が……!?」

「宰相様まで……!?」

 ざわめき立つ村民を俺は手で制して言葉を続ける。

「陛下はこの村の民に辛い思いをさせたことを嘆いておられた。それもこれも、ここの地主のジウルイが国を欺いていた為だ。それは皆も知っているだろう?」

「ああ、汚い野郎だって知っているとも……!」

「伝えたくてもできなかったのよ! 連れ戻されて!」

「俺たちは、どうすりゃいいかわからなかったんだ!」

「そうだろうとも! だが、その地獄も今日で終わりだ! 即位して間もないにもかかわらず、リュウエン陛下が異常に気づかれ対処してくださったからな!」

 村民たちがわっと歓声を上げて泣きながらリュウエンを称えだす。

 なんか、ちょろいな……。

 教育水準の低さが浮き彫りになった感じがする。
 ここまで簡単に騙されるとは。

 まぁ、だからこそジウルイにもやり込められたんだろうが……。

 少し心配になったからロジンに対策を講じるように言っとこう。

 お節介だけどな。

 さて、そろそろ主役を呼ぶとするかね。

 俺は振り返り、扉を壊さないように叩いて叫んだ。

「地主さーん! 頼まれてた肉のお届けに参りましたよー!」

 窓から怯えた顔でこちらを覗くジウルイに笑顔を向けてやる。真っ赤な夕陽を背にした民衆と変わり果てた姿の賊、暗く陰った俺の笑顔はさぞ怖ろしかろうて。

 様子がおかしいって気づいて隠れてんだよな。知ってる。ずっと窓から様子を窺ってたのが見えてたからな。必死になって頭を働かせてんだろう。

 だが、無駄だ。今更どうしようもない。
 手練手管でどうこうできる時期は過ぎてんだ。

「居留守を使っても無駄ですよー! もしかして本当に肉を持って帰ってくるとは思ってなかったんですかねー? 身ぐるみ剥がれて殺されてるとでもー?」

 ロジンや俺のことを賊に始末させる気でいたってこともわかってんだ。じゃなきゃ集落の道なんか教えねぇもんな。気づいた奴はわざと向かわせて殺してきたんだろ。

 生憎と隣の農村まで噂は広がってたよ。
 手前ぇはやりすぎたんだ。

 怨嗟が晴れるまで村民を慰めるんだな。それが村のまとめ役である手間ぇの仕事だ。簡単には恨みが晴れないだろうが、その辺りはしっかり協力してやるよ。

 簡単には死なないように薬を置いてくからな。
 
 こっからは手前ぇらが地獄を見る番だ。ざまぁみやがれ。
 
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