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14‐1 怨嗟の村(前編)
しおりを挟む村の青年たちから話を聞いた。といっても彼らも真相を知ったのは最近らしい。ずっと耐え忍び、ジウルイの息子のサモに従うふりをして探っていたとのことだ。
話は一年ほど前、村が魔物の群れに襲われたことから始まった。
「大した魔物ではなかったんですが……」
「数が多くて、追い払っても戻って来て……」
「その度に作物を食い荒らされちまって……」
罠を仕掛けてもかからず、村民では対処できなかったらしい。
それで地主のジウルイがサモに金を持たせて冒険者を雇いに向かわせたのだが、数日経ってサモは一人で戻ってきた。『雇うには金が足りなかった』のだという。
高々数人雇う程度でそんなに金がかかるかとジウルイは怒ったそうだが、何故かその日のうちに三十人もの武器を持った荒くれ者たちが村にやって来た。
これはどういうことなのかとジウルイが問い詰めたところ、サモは持っていた金を好き放題に使い込み、賭けで負けた挙句に借金まで作っていたことがわかった。
荒くれ者たちの頭は金貸しだった。サモに貸した金の返済期限はまだ先だが、突然町から姿を消したサモを怪しみ村まで追ってきたのだとか。
『俺は南にある村の地主の息子だから金はあるんだ』
そうサモが言い触らしていたので村を突き止めることができたらしい。荒くれ者の頭はサモに『返せないなら奴隷になって体で払ってもらう』と言ったそうだ。
「本来であれば話はここで終わるはずだったんだ……!」
「ああ、サモを荒くれ者たちに引き渡してりゃ……!」
「それなのに……! ジウルイの野郎が……!」
ジウルイはサモを引き渡すことを拒んだ。『聞こえが悪い』という理由で。
とはいえ借金はジウルイにも完済できない額だった。ただでさえ魔物の群れに襲われて参っているところにと頭を抱えたジウルイは怖ろしいことを口にした。
『この村は魔物の群れに襲われて大変な状況だ。討伐してくれたならその分の金も払おう。山の集落をあんたたちにやる。そこにおるのはわしの奴隷だ。全部やる』
ジウルイは集落とそこに住む民を売った。まるで自分に所有権のあるような口ぶりだがそんなものはない。ただ借金から逃れたいが為の嘘だった。
荒くれ者たちはそれを嘘だとわかっていた。だが呑んだ。ジウルイも嘘でも呑むとわかっていた。その集落は国への報告をしていない場所だったからだ。
集落の長は国への報告や納税を麓の村の地主であるジウルイに代行してくれと頼んでいた。だがジウルイは引き受けたふりをして行っていなかった。
集落から渡された納税の品々も懐に入れて私腹を肥やしていたらしい。ジウルイはそういった事情を荒くれ者たちに話した。無法地帯だ。好き放題できるぞと。
『調査に来る者はこれまで通りわしが追い返す。どうだ、悪くないだろう?』
六七十人が暮らしていた集落は荒くれ者たちに乗っ取られてしまった。男と老人は殺され、子供は売られるか女と共に慰み者にされるかしたのだろうと青年は言う。
「俺たちの地獄はそこからだったんです……!」
「ジウルイの野郎が、無茶苦茶やりだしやがって……!」
「サモの野郎もだ……! 一回殺したくらいじゃ許せねぇ……!」
ジウルイは荒くれ者たちと結託した。事情を知った村民たちが反発すると、荒くれ者たちに酷い目に遭わされた。味を占めたジウルイは畑の賃料を上げた。
金が払えなくなると女が連れて行かれた。
こんな村にはいられないと出て行けば連れ戻された。
地獄を作った張本人のサモは荒くれ者たちの連絡役になった。そればかりか、どうせ連れて行かれるのだからと、村の女に手を出すようになった。
『逆らえば家族を酷い目に遭わせるぞ』と脅して。
青年たちから聞いた話はここまでだ。
話を聞き終えた俺は血が冷めるような感覚を味わっていた。歯噛みして悔し泣きしながら話す青年たちを見て義憤に駆られているというのに寒気立つほど心が暗い。
ジウルイと賊共に絶望を与えなくてはならない。
そういう暗い使命感が俺の中に生じている。
青年たちは『サモを三人で打ちのめし、口を割らせてから殺しました』と自白したが、それを咎める者は誰もいなかった。むしろロジンは肯定した。
『宰相である私が見落としたことで起きた悲劇です。既に見落としたことですから最後まで見落とします。ゆえにこれからのことも罪に問うことはありません』
ロジンは話がわかる男のようだ。
好きに恨みを晴らせ、か。
それを果たす為、俺たちは現在集落の側にいる。
作戦は単純明快だ。ポチに上空から偵察してもらい〈踏破マップ〉を完成させてもらう。あとは光弾突撃銃を手にした俺がポチと一緒に賊の手足を吹き飛ばす。
馬車は兵士の一人である精悍な顔つきの青年リャンキに任せてある。もう一人の兵士である角ばった厳しい顔をした中年のカイエンにはロジンの護衛を任せた。
ロジンとカイエンは集落の出入口で見張り、逃げ出そうとする者がいたら討伐してもらう。そして青年たちには女の救出の為に俺の少し後ろをついてきてもらう。
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