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13‐3 馬鹿な真似(後編)
しおりを挟むぐんっと体の速度が急激に上がり世界が若干緩やかになる。俺の攻撃意思を相手が覚り戦闘状態に移行した合図だ。能力値が反映されさえすれば俺にもう負けはない。
最も近くにいた山賊の側頭部を殴って地面に叩きつけ、ダンビラを振り上げている山賊の懐に入ると同時にトレンチナイフを逆袈裟に斬り上げ首を裂く。
狼狽えて目を見開いた山賊に飛びかかって胸を殴り飛ばし、吹っ飛んだ先に立つ山賊二人を巻き込んで転倒させる。すると兵士二人がすかさず動いて剣で刺す。
汚い悲鳴が続けて上がる中、兵士の一人が俺に顔を向けた。
「助太刀感謝する!」
「おうよ! エレス撃て!」
返事をしながら軽く身を屈めエレスに指示。ポチの銃身を山賊に向ける。
【はい、捉えました】
ポシュッと軽い音がして小さな光弾が発射され山賊の頭を吹き飛ばす。直後、青年三人が雄叫びを上げて一人の山賊に襲いかかった。兵士二人も山賊一人を相手取る。
もう血だらけの惨劇だよ。
うわ、返り血でツナギ汚しちゃったわ。失敗した。落ちるかなこれ。
形勢不利と見たのか、山賊の一人が悲鳴を上げて逃げ出した。俺はすぐさまその背中にポチの銃身を向け、エレスに指示を出し光弾を浴びせる。
「ぎゃあっ!」
背中の真ん中が爆ぜ、悲鳴を上げて山賊が倒れ伏す。が、そっと腰の袋に手を入れたので、素早く駆け寄り一思いに首を踏み折る。
「バ、バケモンが!」
「風刃!」
俺に失礼な言葉を吐いた山賊の首が飛ぶ。薄い緑色の刃が通り過ぎていったのが見えた。その出どころへ目を遣ると、鋭い目つきの細面が微笑んでいた。
「どなたか存じませんが、ご助力に感謝します」
さっと周囲に視線を巡らせると、もう山賊は全て倒れていた。青年たちと兵士二人がトドメを刺している。それを確認後、俺はロジンに向き直る。
「間に合ってよかったよ。俺はセイジだ。何があったか訊かせてくれ」
「見ての通り、賊に襲われました。身ぐるみ置いていけと」
「そうか。馬鹿な真似をしたもんだ。宰相を襲うなんてな」
俺が肩を竦めて言うと、ロジンの微笑みが消え、兵士たちが俺に剣を向けた。
「貴様、何者だ!」
何故か兵士の一人に怒鳴られ、俺は慌てて手の平を向ける。
「お、おいおい、それはさっき言った──」
ああ、そうか。うっかりしてたわ。事情を知ってんの俺だけだな。確認も何もなく名前しか言ってない奴なんて警戒されて当然だわ。とりあえず武装は解こう。
「エレス、トレンチナイフをストレージに入れてくれ」
【かしこまりました】
鞘に戻すと手入れが大変だからな。抜き身のままで収納する。
そのまま敵意がないことを示す為に、俺は軽く両手を上げる。
「心配しなくても追っ手じゃないぞ。あんたは宰相殿で間違いないか?」
「相違ありませんが、貴殿は一体?」
村の青年たちは知らなかったようで驚いたような声を上げて跪いた。ロジンが困ったように手振りを加えて「そのようなことはしなくていいですよ」と声をかける。
「立ってください。私は敬われるほど立派な者ではないですよ。あなた方の助力がなければこうして命を拾うこともできない、ただの一人の男にすぎませんので」
「ロジン様、またそのようなことを!」
「示しがつきませんぞ!」
「そんなもの飯の足しにもならんでしょうが。二人とも私のことは構わないでいいから、亡くなった三人を馬車へ運んで下さい。汚れようが構いませんよ」
兵士に叱られてもどこ吹く風で、顔に似合わず飄々としている。もっと冷厳な人物像を思い描いていた俺は想像との落差に思わず呆気にとられてしまった。
「それで、セイジ殿。私は確かにこのレイジェン皇国の宰相ロジンですが、何故それを知っておられるのか、お訊かせ願っても構いませんかな?」
気づけば村の青年たちも死体の片付けに手を貸している。
俺だけぼうっと立ち尽くしちゃってたよ。
「あー、その前にちょいと俺にも手伝わせてくれ」
俺はエレスに言って、ポチと一緒に全ての死体をストレージに回収してもらった。空飛ぶ機械と突然消える死体に皆愕然としていたが、魔法ということで済ませた。
便利な言葉だな。魔法。
「なんと面妖な。死体はどこへ消えたのですか?」
「別の場所に収めてあるだけだ。弔いの場でまた出せる。それより、ここは血の匂いがきつい。魔物が来る前に移動した方がいいと思うぞ」
「それもそうですな。では、馬車へどうぞ」
ロジンが勧めるのを断ろうとしたとき、村の青年が「あ、あの!」と声を上げ、俺とロジンの前に出て平伏した。他の二人も慌てて同じようにする。
「宰相様! セイジ様! お願いがございます! この先の集落に、村の女たちが囚われているんです! どうか、どうか手をお貸しくださいませんか!」
「俺の女房もいるんです! お願いします! 助けてやりてぇんです!」
「俺は姉貴と妹が連れてかれました! 山賊共と刺し違えてでも逃がす気でいましたが、戦ってわかりました! 俺たちじゃ助けられねぇ! 犬死にして終わりだ!」
またしても厄介事。
途中で殺人事件に遭遇したからなんかあるとは思っていたが、これはまた酷い話の予感がするな。なんかこの国に来てから胸糞悪い思いばっかりしてるわ。
「セイジ殿、私からもお願いします。この先の集落に用があるのです」
「我々からも、お願いします」
ロジンと兵士たちにまで頭を下げられちゃったよ。その用はもう俺が終わらせてるからロジンたちが集落に行く必要はないんだが、それを今言えと?
言えるか馬鹿野郎。すごい空気になるわ。
去りにくいにも程があろうが。
俺は頭を掻きながら溜め息を吐いた。
「はぁ、わかったよ。ただし、お前らは絶対に俺の言う事を聞けよ」
余計なことは、さっさと終わらせたいからな。
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