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8‐2 戻る記憶(中編)

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 異質な魔力反応だと?

 驚いてはみたものの、それを今言われても困るというのが正直なところ。

 エレスの声は俺の着けているイヤホンから流れている。つまり俺にしか聞こえない。そしてエレスに俺の意思を伝える為には声を出さないといけない。

 自分を抱えているおっさんが急に独り言を呟き始めたらリュウエンは怯えるのではなかろうか。内容を考慮すれば日本語を使うことになるだろうし。

【マスター?】
「後にしてくれ。リュウエンが怖がるとまずい」
【私を映像外部出力にしてくだされば問題ないと思われますが】
「その手があったか。是非頼む」

 既にダンジョンからは離れ荒地を歩いている。人目はない。妖精型エレスに出てもらえば万事解決だ。エレスも子供を相手にするのは上手いからな。

 リュウエンが俺の顔を見ておっさんが意味不明な独り言を呟き始めたぞ怖い怖いと言いたげな顔をして間もなくエレスが現れ俺の周囲を飛び始めた。

 気づいたリュウエンが「わっ」と声を上げて俺にしがみつく。肉を掴むな痛ぇよ。

「セ、セイジさん! 魔物が!」
「あー、安心してくれ、この妖精はエレスっていう俺の……なんだ?」
【使い魔です】
「そう、それだ。使い魔だ。だから怯えなくていい」
【うふふ、よろしくお願いしますね。リュウエン】

 返事もせずに呆然とした顔で俺とエレスを交互に見るリュウエンは放っておいて、俺は日本語でエレスと遣り取りを始める。

「それで異質な魔力反応ってのはなんだ?」

【リュウエンの魔力とは異なる魔力があるのです。精神攻撃やデバフなどとは違う類のものです。私にはそういったものを感知することはできませんので】

 エレスは特定範囲内の生物の反応を感知できる。〈機能拡張Ⅲ〉を取得した際に得た〈踏破マッピング〉で人や魔物の位置を表示できるのはその為だ。

 対して敵からの攻撃に関しては察知と推測しかできない。

 サイレントバンシーのST減少デバフも最初はドレイン系の攻撃だと推察していた。その辺りは俺の方が得意かもしれない。デバフだと見抜いたのは俺だったしな。

 そんな過去の栄光はいいとして──。

「つまり、別の人の魔力がリュウエンの中にあるってことか」

【その通りですマスター。圧縮された大量の魔力が停滞していますので、なんらかの影響を及ぼしていることは間違いありません】

「それはリュウエンにとって良い影響か?」

【良し悪しについての判断はできません。ただ、力の制御や封印が行われていると推測します。呪術や秘法などと呼ばれるものを受けているのでしょう】

 またややこしいことになってきたな。

 俺がオットーから聞いた話だとリュウエンは一週間前に宿場町の外で行き倒れていたところをイルマに拾われたことになっている。

 よくよく考えてみればその辺りからおかしくないか?

 こんな子供が一人で行き倒れってのは考えにくい。誰かと一緒だったところをはぐれたか、あるいは捨てられて彷徨ったか。干ばつだし、近くの農村の口減らしとか。

 奴隷としてイルマに売られたってことも考えられなくはないな。とすると、イルマが嘘吐いてんのかもな。胡散臭いからなぁ。臭いのは口だけにしとけよなぁ。

 いやでも、これリュウエンに訊いて大丈夫かな?
 嫌なこと思い出したりしないか?

 俺は顔を顰めてまた頭を掻いていた。気づくとこうなってんだよな。

【マスター、どうされました?】

「いや、リュウエンにどう訊いたものかと思ってな。酷い目に遭わされてたみたいだから、あんまり急いで根掘り葉掘り訊くのもよくないんじゃないかと」

【うふふ、マスターは相変わらずですね】

「とりあえず、この辺りのことはメリッサとエレスに任せるわ」

 俺は二人に丸投げしてコンテナハウスへと向かった。


 ***


 コンテナハウスは魔導光学シートなるもので覆われ、周囲の背景をリアルタイムで撮影し映し出している為に目視ではその存在を確認することはできない。

 これは凄まじいステルス性で、本当にどこにあるのかがさっぱりわからなくなってしまう。実際、俺はどこにあるのかがわからなくて参ってしまった。

 目印でも置いておくべきだったと後悔したのだが、そんなときに救ってくれたのがエレスだ。魔導光学シートのステルス性も、完全無欠という訳ではなかったのだ。

「いや踏破マップ見りゃよかっただけかい」
【マスターはそういうところも素敵なんですよ】
「抜けてるとサポートし甲斐もあるってかー?」
【うふふ、黙秘します】

 エレスはメリッサを感知できるので〈踏破マップ〉に人のいる点が表示される。何もない場所にその点があればそこがコンテナハウスだ。

 ついでに密室に入れないエレスの特性を利用して壁を探し当ててもらう。

【ここです、マスター。この先に進めません】
「おう助かる。メリッサー。帰ったぞー」

 数回壁をゴンゴンノックしていると、扉が開く小さな音がした。
 
 
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