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4‐1 酒場にて(前編)
しおりを挟むイルマの酒場は宿場町に入ってすぐの木造の大衆酒場だった。主にダンジョン探索に訪れる冒険者相手の商売をしているらしい。荒くれ者っぽいのが結構いた。
案内された席に着いた俺は、この国の通貨を持ち合わせていないことを伝えた。別の国の通貨でも構わないと言われたが小粒金しかないのだとまた嘘を吐いた。
するとイルマは物が見てみたいと言ったので、小声の日本語でエレスに伝え、ストレージからツナギのポケットの中に小粒金の入った袋を出してもらった。
「これなんですがね」
「こ、これはまた……!」
「できれば換金していただけると助かるんですが」
「もちろんですとも! 相場通りで交換させていただきます!」
鼻息荒く目を剥いて言うイルマに、俺は苦笑して両手の平を向ける。
「ああ、いえいえ、そちらに有利な条件で構いませんよ。いや換金できて本当に助かりました。最初に声をかけてくださったのがイルマさんでよかったですよ」
「セイジさんは話がわかるお人のようですな。ところでこの小粒金はどちらで?」
え、うわうわうわっ! 嘘だろマジかよ!
顔を寄せて訊くイルマの口臭に眩暈がした。臭すぎてびっくりしたわ。
何食ったらこんな臭いになるんだよ。ウンコ食べたんかこいつ。
なんか刺繍入りのチャンパオっぽい赤い服着てるし、髪もしっかり結い上げてるから商家の大旦那みたいな雰囲気醸し出してるのに口臭一つで台無しじゃねぇか。
飲食店だぞ。注文取っただけで客の気分悪くさせるってどんだけ美味いもの出す自信あんだよ。あそこの店主の口臭は凄まじくやばいけど料理は絶品だってか。
そうか、なら一回嗅ぎに行ってみるかって馬鹿野郎。
目的は飯だろうが。臭いを嗅ぎにいく方が主目的になってんじゃねぇか。
そんな口コミで繁盛させる前にまず歯を磨けってんだよ。鼻曲がるわ。
「すみませんが──」
離れてもらえますかと続けようとしたら、イルマが手揉みしながら顔を離した。
「いや申し訳ありませんな。踏み込んだことをお聞きしました」
なんか勘違いしてくれたようで助かった。離れてくれと言ったあとに理由を訊かれたらもう嘘を吐ける自信がなかったからな。ストレス耐性低いんだよ俺は。
流石に『朝食はウンコでしたか?』とは訊かんが。『口が臭うんで』とかは言ってしまいそうだったからな。今の精神構造は言うことに躊躇いが出ないのも問題だよな。
それはそうとして、とりあえず小粒金の入った小袋一つをこの国の通貨に両替してもらうことで話はついた。換金相場は知らんが、そうアコギな真似はされないだろう。
商売人に限らず、人ってのは自分の利になる相手とは繋がりを持っておきたいもんだからな。俺を殺して奪うって考えもあるだろうが、今のところ大丈夫そうだし。
第六感が働かないってことはそういうことだろう。
命の危機には敏感に反応してくれるからな。
というか金ってそこまで価値ないらしいんだよな。もっと上の希少金属が多くあるらしくて『ただでやる』ってジョニーに結構もらっちゃったんだわ。
ウシャスを救った礼とかで。
世話になったよな。ストレージに入ってるものも全部報酬だし。
無料ほど怖いものはないっていうけど、ストレージに預かってるケルベロスワームを討伐譲渡したのは俺だから無料って訳でもないし、そこは気楽だな。
そういやヨハンも『預かるだけでも報酬が発生しておかしくない』って言ってたな。俺は金のかからない男らしいし、もうちょっと欲を出してもいいのかもしれんな。
そんな風に思案しながらイルマの世間話に対応しつつ情報収集。とはいえ話の内容はほとんど店自慢。うん、近くにダンジョンがあるってのはさっき聞いた。
へぇ、依頼の斡旋も引き受けてるのか。手広くやってるようだ。でも俺には関係ないな。おっと今度は宿を勧めだしたぞ。自慢はもうお腹いっぱい。切り上げ時だな。
「すみませんが、そろそろ」
「ああ、これは申し訳ありません。セイジさんが聞き上手なものですから、すっかりと話し込んでしまいましたな。これは大変失礼しました」
俺の所為にすんなよと心で思いつつ笑顔を作る。
「いえ、有意義な時間を過ごさせていただきました」
イルマは換金に向かうついでに食事も勧めてきた。
まぁ、当然だよな。酒場なんだから。
でも食いたくないな。食事に来たのに断るのは不自然なのはわかってるが、腹を壊すのは嫌なんだよ。そもそも食事は口実でしかないし。飽くまでそういう体だから。
俺は人体改造されてるけど普通に病気に罹患しちゃうのがな。食中毒とかアレルギーは命に関わるし。その辺りが大丈夫だったらなんでも食うんだが。
とりあえず衛生状態が怪しい気がするので酒と水は断った。
とはいえ肉もちょっとな。何の肉かわからんし。
ここはしっかり火を通したスープ一択だな。変な味だったら飲んだふりしてストレージに収納すればいい。これも何を煮込んであるかわかったもんじゃないからな。
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