上 下
9 / 81

3‐1 宿場町到着(前編)

しおりを挟む
  
 海釣りの結果は引き分けだった。釣果はサバのような魚が五匹ずつ。

 昼飯にすると言われたので、釣った側から包丁で捌いて切り身をストレージに収めていったところ、糸くずのような白い群れがぽとぽと落ちてウネウネ動いた。

 でかいアニサキスっぽかった。火を通さずに食べたら事だ。
 ストレージは生き物を収めることができない為、寄生虫が排除された訳だ。俺は食の安全性が高まることに満足したが、メリッサは顔を青くして引いていた。

 ちなみにこれは『伊勢夏美のゲロ』を撒く前の話だ。

 メリッサは魚の生臭さと大量の寄生虫が踊り狂う様を見て「食欲が失せたー」と嘆いていたので、先に撒こうが結果は同じだったような気もするけどな。

 なんてこともありつつ、魔物に襲われることなく無事に大陸上陸。

 結局ブロッククッキーとマグボトルに入った水で昼飯を済ませた俺たちは、事前に得ていた情報に従って宿場町のある東へとバギーで移動中だ。

「しかし、全く景色が変わらんな」
「干ばつでもあったのかねー?」

 上陸後からずっと荒れ地しか目にしていない。無人島と比べると遥かに植物が少なく、土が乾燥してひび割れている。メリッサの言う通り雨が降らなかった印象だ。

 これでは農作物は育たないだろう。なんだか既に嫌な予感がしてきた。

「飢えてる連中とかいそうだな」
「そういうのあんまり見たくないかなー。昔を思い出しちまうからねー」
「孤児だった頃か?」
「まぁね。食うもんないからガムばっか噛んでたよ。味もないのにさ」

 今でも噛んでるのは、その名残か。

 苦笑するメリッサがなんだか愛おしくなった。俺の方が年上だし、別にいいだろうというつもりで頭を撫でたら、くすぐったそうに首を竦めた。

「へへっ、セイジはおかしなことするよなー」

「すまん、嫌だったか?」

「嫌じゃないけどさー。なんか変な感じだ。父ちゃんいたらこんな感じなのかなって思っちまった。二十五にもなって何言ってんだって感じだけどさー」

「そうか」

 メリッサは父性を求めてるのかもしれない。俺は父親になったことなんて一度もないが、そういうことじゃないんだろう。多分、俺の甲斐性を見てるんだ。

 この男なら自分が甘えてもいいって思ったのかもな。

 積極的なのも早い者勝ちって思ってるからかもしれない。誰かに取られる前に自分のものにってのも、孤児時代の教訓からきてそうだ。競争だったんだろうな。

 そんな慕われるほど大層なもんじゃないんだけどな俺は。たまたま手に入れた力を使わせてもらってるだけのふざけたおっさんでしかないんだが。

 なんだか申し訳なくなるな

 気づけばまた頭を掻いていた。この分だといつか後ろからハゲそうだ。

 髪の心配をし始めたとき、木で作られた柵というか壁が遠くに見えた。
 メリッサがバギーを止めてゴーグルを額に上げる。

「ここまでかなー。セイジも見えたろー?」
「ああ。情報収集できる状況ならいいけどな」
「んじゃ、こっからは別行動だね」

 俺は頷いてバギーを降りる。

 メリッサはこちらの言葉を話すことができないし、美人だから変な気を起こす奴も出てくるかもしれない。拠点で待機してもらうのが最も安全だと判断した。

 拠点のコンテナハウスは無人島で仕上げたものをストレージに入れてある。だからあとは出すだけなのだが、この辺りは荒れ地が広がるばかりで隠しようがない。

「これは目立つな」

「問題ないよー。魔導光学シートおっ被せてあるから。あとは背景映像連動させるだけで透明化。むしろこんな感じで何もない場所の方が簡単なんだよねー」

「うん、わからん。とにかく大丈夫ってことだな?」

「出してくれりゃいいよー。一目瞭然だからー」

 言われるままにコンテナハウスを出すと、メリッサが「見てなー」と言い残し扉を開けて中に入る。そして扉が閉まって間もなくコンテナハウスは消えてしまった。

「出たな謎技術」
「消えたっしょ?」
「消えた。扉が開くとマジックショー見てるみたいな気分になる」
「実際そうだよねー。タネも仕掛けもあるしー」

 想像以上に意味不明なステルス性能を発揮していたので、これなら余程のことがない限りは大丈夫だろうと判断し俺は宿場町へと足を進めたのだが……。

「まーたやっちまったよ。遠すぎ」
【こればかりは仕方ありません】
「こんな場所で荷物もなく徒歩ってのも不自然だろうけどなー」
【言い訳を用意しておかれた方がよさそうですね】
「だなー。魔物もおらんしー」

 能力値が反映されていればAGIに物を言わせた移動ができるのだが、戦闘状態でなければST以外は反映されないので、俺はただのスタミナがある人でしかない。
 炎天下で暑いし結構遠くて暇だったので、気を紛らわせる為にケルベロスワーム戦後から開いていなかった能力値の確認をすることにした。


 ────────


 セイジ・マサキ AGE 42
 LV 50

 HP 70/70
 MP 0/0
 ST 175/175
 STR 35  VIT 35
 DEX 5   AGI 40
 MAG 0 

 SP 12

 LIMITED SECRET SKILL
 機能拡張(ウェアラブルデバイスの機能を拡張し、設定で変更できる内容を追加する)
 機能拡張Ⅱ(ウェアラブルデバイスに新機能を追加する)
 機能拡張Ⅲ(ウェアラブルデバイスに新機能を追加する)
 機能拡張Ⅳ(ウェアラブルデバイスに新機能を追加する)
 ────────
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

令嬢キャスリーンの困惑 【完結】

あくの
ファンタジー
「あなたは平民になるの」 そんなことを実の母親に言われながら育ったミドルトン公爵令嬢キャスリーン。 14歳で一年早く貴族の子女が通う『学院』に入学し、従兄のエイドリアンや第二王子ジェリーらとともに貴族社会の大人達の意図を砕くべく行動を開始する羽目になったのだが…。 すこし鈍くて気持ちを表明するのに一拍必要なキャスリーンはちゃんと自分の希望をかなえられるのか?!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

処理中です...