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3‐1 宿場町到着(前編)
しおりを挟む海釣りの結果は引き分けだった。釣果はサバのような魚が五匹ずつ。
昼飯にすると言われたので、釣った側から包丁で捌いて切り身をストレージに収めていったところ、糸くずのような白い群れがぽとぽと落ちてウネウネ動いた。
でかいアニサキスっぽかった。火を通さずに食べたら事だ。
ストレージは生き物を収めることができない為、寄生虫が排除された訳だ。俺は食の安全性が高まることに満足したが、メリッサは顔を青くして引いていた。
ちなみにこれは『伊勢夏美のゲロ』を撒く前の話だ。
メリッサは魚の生臭さと大量の寄生虫が踊り狂う様を見て「食欲が失せたー」と嘆いていたので、先に撒こうが結果は同じだったような気もするけどな。
なんてこともありつつ、魔物に襲われることなく無事に大陸上陸。
結局ブロッククッキーとマグボトルに入った水で昼飯を済ませた俺たちは、事前に得ていた情報に従って宿場町のある東へとバギーで移動中だ。
「しかし、全く景色が変わらんな」
「干ばつでもあったのかねー?」
上陸後からずっと荒れ地しか目にしていない。無人島と比べると遥かに植物が少なく、土が乾燥してひび割れている。メリッサの言う通り雨が降らなかった印象だ。
これでは農作物は育たないだろう。なんだか既に嫌な予感がしてきた。
「飢えてる連中とかいそうだな」
「そういうのあんまり見たくないかなー。昔を思い出しちまうからねー」
「孤児だった頃か?」
「まぁね。食うもんないからガムばっか噛んでたよ。味もないのにさ」
今でも噛んでるのは、その名残か。
苦笑するメリッサがなんだか愛おしくなった。俺の方が年上だし、別にいいだろうというつもりで頭を撫でたら、くすぐったそうに首を竦めた。
「へへっ、セイジはおかしなことするよなー」
「すまん、嫌だったか?」
「嫌じゃないけどさー。なんか変な感じだ。父ちゃんいたらこんな感じなのかなって思っちまった。二十五にもなって何言ってんだって感じだけどさー」
「そうか」
メリッサは父性を求めてるのかもしれない。俺は父親になったことなんて一度もないが、そういうことじゃないんだろう。多分、俺の甲斐性を見てるんだ。
この男なら自分が甘えてもいいって思ったのかもな。
積極的なのも早い者勝ちって思ってるからかもしれない。誰かに取られる前に自分のものにってのも、孤児時代の教訓からきてそうだ。競争だったんだろうな。
そんな慕われるほど大層なもんじゃないんだけどな俺は。たまたま手に入れた力を使わせてもらってるだけのふざけたおっさんでしかないんだが。
なんだか申し訳なくなるな
気づけばまた頭を掻いていた。この分だといつか後ろからハゲそうだ。
髪の心配をし始めたとき、木で作られた柵というか壁が遠くに見えた。
メリッサがバギーを止めてゴーグルを額に上げる。
「ここまでかなー。セイジも見えたろー?」
「ああ。情報収集できる状況ならいいけどな」
「んじゃ、こっからは別行動だね」
俺は頷いてバギーを降りる。
メリッサはこちらの言葉を話すことができないし、美人だから変な気を起こす奴も出てくるかもしれない。拠点で待機してもらうのが最も安全だと判断した。
拠点のコンテナハウスは無人島で仕上げたものをストレージに入れてある。だからあとは出すだけなのだが、この辺りは荒れ地が広がるばかりで隠しようがない。
「これは目立つな」
「問題ないよー。魔導光学シートおっ被せてあるから。あとは背景映像連動させるだけで透明化。むしろこんな感じで何もない場所の方が簡単なんだよねー」
「うん、わからん。とにかく大丈夫ってことだな?」
「出してくれりゃいいよー。一目瞭然だからー」
言われるままにコンテナハウスを出すと、メリッサが「見てなー」と言い残し扉を開けて中に入る。そして扉が閉まって間もなくコンテナハウスは消えてしまった。
「出たな謎技術」
「消えたっしょ?」
「消えた。扉が開くとマジックショー見てるみたいな気分になる」
「実際そうだよねー。タネも仕掛けもあるしー」
想像以上に意味不明なステルス性能を発揮していたので、これなら余程のことがない限りは大丈夫だろうと判断し俺は宿場町へと足を進めたのだが……。
「まーたやっちまったよ。遠すぎ」
【こればかりは仕方ありません】
「こんな場所で荷物もなく徒歩ってのも不自然だろうけどなー」
【言い訳を用意しておかれた方がよさそうですね】
「だなー。魔物もおらんしー」
能力値が反映されていればAGIに物を言わせた移動ができるのだが、戦闘状態でなければST以外は反映されないので、俺はただのスタミナがある人でしかない。
炎天下で暑いし結構遠くて暇だったので、気を紛らわせる為にケルベロスワーム戦後から開いていなかった能力値の確認をすることにした。
────────
セイジ・マサキ AGE 42
LV 50
HP 70/70
MP 0/0
ST 175/175
STR 35 VIT 35
DEX 5 AGI 40
MAG 0
SP 12
LIMITED SECRET SKILL
機能拡張(ウェアラブルデバイスの機能を拡張し、設定で変更できる内容を追加する)
機能拡張Ⅱ(ウェアラブルデバイスに新機能を追加する)
機能拡張Ⅲ(ウェアラブルデバイスに新機能を追加する)
機能拡張Ⅳ(ウェアラブルデバイスに新機能を追加する)
────────
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