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第九話
フェリルアトスの話(2)
しおりを挟むで、君の家族の話に戻るけど──。
そもそもアーケイディア王国が異世界召喚の儀式を行った理由は労働奴隷が欲しかったからなんだ。こう言うとすぐに伝わると思うんだけど、その扱いは酷いものだよ。
僕にはそれがわかってたし、馬鹿なことをされて頭にもきてたから、転移者を横取りして神域で保護したんだ。だから転移者百人はアーケイディアには召喚されなかった。
けどそれは一度目の話。二度目は君と君の妻にかかりっきりだったからラフィに任せたよ。どうなったかは自分で確かめてね。僕からは言わないよ。
まぁ、とにかく、結果的に僕は百人の転移者を抱えることになったんだけど、なんというか横柄な態度の者がいてね。それはもう好き勝手に言うんだよ。
僕は自分の世界の者が馬鹿をしたことを謝罪してるのにさ、その一部の連中は、まったく話も聞かなかったんだ。洗脳教育っていうのかな。その犠牲者だね。
かなり多くの国籍の地球人がいたから、会話ができるように異世界共通語を与えたんだけど、地球人同士でも話にならないんだよ。しまいには他の転移者に暴力まで振るったものだから、その連中には早々に退場してもらったんだけどね。
なんでこういう余談を話すかって言うと、僕が忙しくて余裕がなかったってことを知ってほしいからなんだ。言い訳になってしまうけど、そのとき僕は怒ってしまってね、残りの転移者にも八つ当たりしてしまったんだ。
具体的には、ろくに説明もせずに二つの世界が融合したこの新世界──レクタスの最初級ダンジョンに放り込んじゃったんだよ。『この世界にあるダンジョンを全て攻略したら、なんでも一つ願いを叶える』って腹立ち紛れに約束してね。
正直に言えば、転移者たちはそこでほとんど死ぬと思ってた。だけど逆だった。僕が色々と他の対処を終えて様子を確認したら、ほぼ全員が生き残って力を得ていたんだ。
驚いたよ。何もない状態だったにも拘らず、試行錯誤して魔物を倒し、ドロップアイテムを得て有効活用していた。話し合い、連携して、次々と魔物を倒していく。
それはもう、呆気に取られたね。感動したと言っても過言じゃない。
まして突発的に組まされた──。
あー……そういえば、ダンジョンについて説明していなかったね。
ダンジョンに放り込んだと言ったけども、全員が一つところにいた訳ではないんだ。人数制限があるからね。簡単に言うとチャンネルが違う。平行空間と言うべきかな。
僕は八十八人の転移者を、十五組のパーティーに分けたんだ。ランダムでね。情報端末はここにもあるから、神の権限を行使して十三組は六人、残り二組は五人のパーティーを編成してダンジョンに送り込んだんだ。それぞれ別のチャンネルにね。
補足説明になるけど、ダンジョンは罪を犯した人の魂の地下牢獄なんだ。探索者に殺されても復活するように設定してあって、すべて上層の弱い魔物に転生させてある。延々と殺される苦しみを味わうことで生前被害者に与えた苦しみを受けさせるって訳。
中層は情状酌量の余地がある人の魂、低層と最深部はこちらで用意した看守と看守長。各階層の節目にはボスがいるんだけど、それも看守。探索者が入らない場合は、看守が罪人の魂に責め苦を与えているんだよ。
で、そのダンジョンの一つを転移者の即席パーティーは紆余曲折を経て攻略し各々自由に動き始めた訳だ。好きなように異世界を生き始めたんだ。
最初は皆、願いを叶える為にダンジョン攻略に躍起になってたんだけど、そう簡単なものでもないから、最後には命を大事にすることを選んでた。
ただ、君の家族だけは違った。最初級ダンジョンを攻略した後で家族三人は合流し、願いを叶える為に転移者から三人の仲間を募り、全てのダンジョン攻略に挑み始めた。
その願いの一つ、君の妻が望んだのが君をこの世界に転生させることだった。
新世界レクタスには、元の世界の輪廻と地球の輪廻が統合された輪廻が存在してるから、その願いを叶えることはそう難しいことではなかった。
君の妻の年齢と合わせた肉体を用意し、そこに君の魂を加えるだけだからね。
記憶にしたところで、疑似的にはなるけれどアーカイブのデータを一人称に変換して刷り込めば済む話だったんだ。でも、結局それが果たされることはなかった。
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