27 / 55
第五話
案内人の話(2)
しおりを挟むさて、と。メリットについてはこんなものかな。
キリもいいし、メリットはこの程度にして、デメリットの話に移ろうか。言うまでもなく、これが私の頭を抱えさせた原因。案内人としては甚だ迷惑なことだよ。
魔物である最大のデメリットは、人の初期技能が使えないことにあるんだ。
厳密には技能ではなく機能になるんだけど、その一つがストレージ。転生者である君ならわかると思うけど、ゲームでよくあるアイテム保管庫だよ。
ほら、私のを見せよう。こんな感じで、同じ物を百個までまとめて保管可能なマス目が五十マスあって、物の出し入れを行わずに対面している相手とのトレードも行えるんだ。私は人ではないけれど、案内人の役目を与えられているからね、こうして使えるように設定されているんだよ。
君に渡したその服やズボンもここから出したんだ。安価な分性能も乏しいけど、魔術式によるサイズ調整機能付きの優れものだよ。
あはは、私の替えだって気づいたみたいだね。遺跡やダンジョンに入ると魔物の攻撃や罠でよく破れるから常備してるんだ。お古でごめんね。
ちなみに、鞄から取り出した林檎や石鹸はマス目がいっぱいで入り切らなかったものだよ。五十マスって意外に少ないんだよね。
一マスにつき百個っていうのも少ないよね。けど、フェリルアトス様は改善する気がないみたいなんだ。バランスに問題が生じるとか言ってるけど、それは案内人の私には関係ないとは思わないかい? なにも人とまったく同じ機能のものを使わせる必要はないじゃないか。現場の苦労をわかってないよね。困ったものさ。
おっと、話が逸れたね。戻そう戻そう。
ええっと、ストレージが使えないというのは、実際かなり問題でね、荷物を持ち運べる量が他の人とかけ離れてしまうことはもちろんなんだけど、この世界の金銭の支払いがストレージを利用したトレードメインなのが何よりまずいんだよ。
お金を現物で扱ったり物々交換をしているところもあるにはあるけど、その殆どが生活水準の低いところやろくでなしの巣窟でね、まともなところでは基本数字だけでの取引になってる。というのも、主に使われているのが形のない統一通貨だからなんだ。
ストレージの右上に数字が表示されている欄があるだろう? それが統一通貨だよ。
この世界の共通通貨で単位はリエム。物品として扱われていないから一度でもストレージに入れると取り出すことができない仕様になってる。
もっとも、ストレージに入れなければ実体は保持されるんだけども、重いし嵩張るし盗まれる危険もあるしで苦労するのが目に見えてるから、余程の好事家か変人蒐集家でない限りはストレージに入れないなんて真似はしないだろうね。
それに、コインを統一通貨に変換できないことが知られれば確実に足元を見られることになる。価格より多くコインを取られて『釣り銭が渡せないから仕方ない』って言い訳されるだろうね。あ、コインの説明はしてなかったね。ごめんごめん。
コインは統一通貨の換金アイテムみたいなものだね。入手方法は人によって異なるけど、生産能力のない人はもっぱらダンジョンの魔物狩りで手に入れてるね。
ダンジョンの魔物は討伐後に消滅する仕様上、素材を剥ぎ取れないんだけど、その代わりにアイテムドロップがあるんだ。レアアイテムのトレードで儲ける感じかな。
ちなみにコインは確定でドロップするよ。目を疑うくらいの少額だけどね。
さて、と。こんなものかな。
もうわかったと思うけど、君はすごく不便な思いをしないといけないんだ。一度収めると取り出せなくなるという仕様上、私が代わりにコインをストレージに収める訳にもいかないし、いつまでも一緒にいてサポートをする訳にもいかないからね。どこかで独り立ちしてもらわないといけないんだけど、前例がないから難しいんだなこれが。
せめて君が統一通貨を保管する魔道具を使えればまだ救いはあったんだけど、歯痒いことにこれが二つ目のデメリットに繋がってくるんだよね。
はぁ、それじゃあ二つ目のデメリットの説明に移ろうか。
え? ああ、私は食べないから、遠慮せず全部食べて構わないよ。有り難く気持ちだけ受け取っておく。胸が詰まったら川の水を飲むといい。さっき話した通り、技能が無害化してくれるから大丈夫だよ。暗いから気をつけて。慌てなくていいからね。
あ、もういいの? よし、じゃあ続きを話そうか。
二つ目のデメリットは、ソウルカードを扱えないことだね。
ほら、これだよ。真っ白で少し厚みがある。カードというよりは名刺サイズの薄い板だよね。これは魔力で自分の情報を具現化したもので、人にしか使えないものなんだ。
さっき言ってた統一通貨を保管する魔道具はこれがないと使えないってことだよ。ソウルカードの偽造は不可能だから、セキュリティに使われてるって訳だ。
それが使えればね。それが使えさえすれば、こんなに悩んでないんだけどね。
はぁ、話を戻そうか。
ソウルカードは所謂ステータス表示を行うものなんだけど、そのままではステータスの確認を行うことはできなくてね、専用の情報端末に差し込む必要があるんだ。
それがこれ。見た目はソウルカードよりちょっと大きいただの黒い板だけど、この携帯型はかなり貴重でね、ダンジョン深部のドロップでしか入手できない部品が使われてるし、作れる魔道具技師もそう多くないんだよね。つまりものすごく高価ってこと。
だから僕みたいにベルトホルダーに入れてる人はほぼいないね。殆どの人は持っていてもストレージに入れてるから、多分目にすることはあまりないかな。
まぁ、個人で所有すること自体が珍しいものだと思ってもらえればいいよ。基本は街にある依頼斡旋所や教会に置いてある中型か大型の情報端末を使わせてもらう感じだね。お布施だ使用料だって当然の如く有料でね。世知辛い世の中だよ本当に。
それで、使い方なんだけど、この差込口にソウルカードをこんな感じで差し込むことで、ステータスの確認と、所持技能の設定なんかができるんだ。
魔力が継続的に消費されるから入れっぱなしは駄目だよ。消費量は微々たるものだけど、低レベルの間は一時間ともたず枯渇するからね。
とはいっても、それもカードを差した当人にしか見えないようになってるから……げ、嘘でしょ。ああもう。もっと早く……はぁ、まぁいいや。続けよう。
君には見えていないよね。困ったな。見せられれば良いんだけど、そういう機能がないから想像で補完してもらうしかないかな。
あ、でもパーティー編成すれば閲覧可否設定ができるから……いや、そもそも君はソウルカードを持ってないからできないんだったね。ごめん。
ああ駄目だ、説明が前後してしまったね。パーティーを組むときにもソウルカードと情報端末が必要になるんだ。うっかり言い忘れてたよ。
ちなみに私が君の能力を見るときに使った【分析】という随時発動型の技能は対象の秘匿する名前、年齢、性別、種族、レベルと設定技能を看破できるというものだよ。【隠覆】という常時発動型の技能で対抗されてると何も見えないけどね。
まぁ、こんなところかな。まだ話してないことも多々あるけど、事情が変わったからこの辺りで説明は終わろう。時間の無駄になってもつまらないからね。
実は、フェリルアトス様から連絡が入ってたんだ。ソウルカードの機能でね。『種族を人に変更するから連れて来るように』だってさ。
アラーム機能があれば気づけてたんだけど、フェリルアトス様は仕様変更する気がないんだよね。そんな頻繁にステータスチェックなんてしないのにさ。
やれやれだよ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
113
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる