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第四話
初装備
しおりを挟む「あんたはいつまで経っても甘えん坊だねぇ。そろそろダディと運転代わってやろうと思ってたのに、これじゃあ動けないじゃないか」
「駄目。マムの運転は荒いもの」
「安全運転するからさぁ」
「それでも駄目。ダディだと臭くて抱きつけないんだもの」
「──誰が臭いって?」
突然、天井に設置されたスピーカーからノルトエフの声がして、ソニアとイリーナは肩を跳ね上げる。軽いハウリングの後に言葉が続く。
「──イリーナ、探知機に不審な生命反応有りだ。前方十キロ先、十数体」
「魔物かい?」
「──いや、人だ。【自動地図】と照らし合わせたが何もないところにいる。おそらく商隊か軍事基地の兵だろう。野盗にしては大胆すぎるからな」
「なにかあったのかね?」
「──わからん。二キロ程先で一旦止めてライフルスコープで確認しよう。五六分で着くから、それまでに装備を整えておいてくれ。ソニアもな」
「あいよぉ。さ、ソニア行くよ。初陣の準備だ」
イリーナに連れられ、ソニアは格納庫へと移動しロッカールームに入る。
二人はGS社製の戦闘服と軽鎧装甲S壱型、グローブ、ブーツ、可動式強化目庇付き金属製頭部保護具を装備する。ソニアはこれまでイリーナの背面ファスナーを上げるだけだったが今回は違う。イリーナに手伝ってもらい自身も装備を着用する。
戦闘服は頭と手足以外を覆う密着型の全身スーツ。機動性を重視している為に防御性能は低いが、周囲の魔素を吸収し、装着者の魔力回復速度を僅かに上昇させる魔術式とサイズ調整の魔術式が施されている。
軽鎧装甲は胸部と各関節、前腕と脛を保護するもので、鎧よりはプロテクターに近い。こちらも機動性を重視しており、軽量で薄い分、防御性能は低い。
型についてはSGMPと四種存在し、速度、汎用性、魔力、体力で各々調整されている。それぞれ参型まで存在し、二人が着用する物は最も防御性能が低く機動性に優れた組み合わせになる。
ただし、防御性能は飽くまで同シリーズと比較した場合の話で、大半の国で普及している中世西洋風の鋼鉄製重鎧と同程度の硬度は有している。
「マムって、いつ見てもスタイルいいわよね。羨ましい」
装備を終えたソニアが俯いて言う。視界に映る体の前面は平坦でくびれもない。対するイリーナは細身ながら女性らしさがしっかりある。
「あんたはまだ子供なんだから、ツルペタちんちくりんでも気にすることはないよ。これからどんどん膨らんでくんだからさぁ。邪魔になるくらいねぇ」
「ツルペタちんちくりん。そうよね。ツルペタちんちくりんよね」
イジイジと指先をつつき合わせるソニアの頭に、イリーナが苦笑しながら手を載せる。空いた手にはGS社製魔弾狙撃銃が握られていた。
*
イリーナは停止した車の屋根で腹這いになり最大倍率にしたライフルスコープを覗いていた。ドット付きの十字型照準線が邪魔に思えるくらいぼやけている。
「駄目だねぇ。合わせが悪いのかなぁ? しっかり見えやしないよぉ」
「様子の確認も無理か?」
下からノルトエフが訊く。装いは戦闘服と軽鎧装甲M壱型一式。イリーナとソニアの装備と見た目はほぼ変わらないが、装甲の厚みが二倍でやや重い。
機動性が落ちる分、防御性能が上がり魔力の回復量が増える仕様。妻と娘が着用している白銀と黒を基調にしたものとは色が違い、濃緑と黒を基調にしている。
「どうだ、イリーナ?」
返事のないイリーナに、ノルトエフは再び訊ねる。返答を急かした訳ではなく、聞こえていなかった場合の配慮であることをイリーナは知っている。
ノルトエフがそういう気遣いのできる性格であるからこそ、イリーナはより正確な情報を伝え期待に応えたいと思う。幻滅させたくないのだ。愛する旦那を。
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