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星の守護者編
最終決戦(5)
しおりを挟む「アリーシャ! 避けろおおっ!」
異変に気づいたロディが叫んだ。アリーシャが振り返る。その目に、つい今しがた首を落とし、頭を蹴飛ばしたはずのルリアナの姿が映る。
(まさか二体目⁉)
アリーシャは即座に察したが、既にその二体目は攻撃を仕掛けていた。
関節を無視した動きでロディを振り払って蹴り飛ばし、刃のように鋭く変形させた右手をアリーシャに向けて突いていた。
(しまった! 躱せない!)
アリーシャが死を覚悟したその刹那――。
ノルギスがアリーシャを突き飛ばし、ルリアナの手刀を胸に受けた。
「へ、陛下ああああ!」
ノルギスが致命傷を負ったことは、誰の目に見ても明らかだった。事実、心臓を貫かれていた。即死していたとしても何ら不思議はなかった。
だが生きていた。遠のく意識を気合で繋ぎ止め、二体目のルリアナを抱き締める。ノルギスはもう助からないことを覚り、最期の役目を果たそうとしていた。
(こいつ、何の真似だ?)
二体目のルリアナを操作している外界の徒は、ノルギスの意図が読めず、僅かに困惑した。死に損ないの拘束など、容易く振り解けると考えていた。
しかし、いざ振り解こうとすると微動だにできなかった。
人間とは思えない膂力に、外界の徒は困惑を深め、恐怖まで覚えた。
(ま、魔力波を――)
放とうとした直後、背後から抱き着かれた。ゼルビアだった。
ゼルビアはノルギスの意図を理解し、付き合うことにしたのである。
「ノルギス王よ。こやつの魔法は、わしが。存分に、やってくれ」
「かたじけない」
「陛下⁉ 何を⁉」
近づこうとするロディとアリーシャに、ノルギスは「離れよ!」と一喝する。
「すまんが、ノインとルシウスに、わしが謝っていたと伝えてくれ……」
ノルギスは微笑んでそう言うと、魔法を使い自らの周囲を石の壁で覆った。そしてあらん限りの魔力を放出してルリアナの体に食わせ始めた。
(やれやれ。孫の顔は見れなんだか。おお、いかんいかん。わしは顔に出る。こんなことを考えておったらノインに叱られ……ふ、そうだった。もういいんだったな)
ノルギスは一瞬、ノインの白昼夢を見ていた。
戦い、興国、政務、第一王妃と王子ルインの追放、そしてルリアナの謀略。
辛く悲しいことばかりが積み重なった人生の中で、ノインは多くの幸せを与えてくれたとノルギスは思う。その思い出が蘇るだけで胸が温まり、自然と笑みが溢れた。
(皆、幸せにな……)
「離せえええ! やめろおおお!」
外界の徒は魔力を放出しようとするが、ゼルビアが押し止める。そればかりか、ゼルビアも魔力を放出して食わせ始めた。
許容できない程の魔力を食わせられ、徐々にルリアナの体が膨れ上がる。
「ノルギス王よ! 共に逝けること、光栄に思うぞ!」
「こちらこそ! デルフィナ王! 星の中で酒でも酌み交わしましょうぞ!」
ノルギスとゼルビアの哄笑がベランダに響き渡った直後、ルリアナの体が魔力の許容限界を迎え爆発した。周囲を覆っていた石壁ごと爆散し、後には何も残らなかった。
「そんな……陛下が……」
ロディとアリーシャが崩れ落ち、座り込む。
突然の喪失に、理解がついていかず、ただ呆然としていた。
(よくやってくれたわ! 今のうちに……!)
爆発に目が向けられている間、新たな体を構築中のルリアナは含み笑いしていた。
あと少しでまともに動ける。外界の徒の分身は失ったが、逃げるだけなら十分に果たせる力が残っている。ドルモアと合流すれば再起が叶うと思っていた。
しかし、それは希望的観測でしかなかった。
仮に逃げおおせたとしても、ドルモアは力を分け与えはしなかっただろう。
いや、それ以前に――。
ルリアナは歩み寄る気配に気づき、顔を強張らせた。
(あと少し、あと少しなのに……!)
まだ前腕と足が完成していない。這うのがやっとだった。焦燥感に襲われ、呼吸を荒くするルリアナ。その目の前に、アルトの治癒を終えたシクレアが立つ。
「あんたって、最低よね。魔物の私でも、こんなに悲しいのに……」
悔しげにポロポロと涙を溢しながら、シクレアが大鎌を振りかざす。
「ま、待って! 殺す前に聞いて! わ、私、言い遺したいことがあるのよ!」
「そんなの、まったく興味ないわよ……! 二人を返せ! バカぁああ!」
泣きながら振り下ろされた大鎌がルリアナの首を刈り取る。シクレアの怒りと悲しみを含んだ猛毒は、ルリアナが溶けて蒸発するまで地獄の苦しみを与え続けた。
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