【完結】エルモアの使者~突然死したアラフォー女子が異世界転生したらハーフエルフの王女になってました~

月城 亜希人

文字の大きさ
上 下
98 / 117
眠り姫の目覚め編

ガーランディア防衛戦(3)

しおりを挟む
 
 
 *


 ノインが部屋で装備を身に着けていたとき、扉が三度素早くノックされた。
 誰何の声を上げる間もなく「アリーシャです」との声が続く。

「入って」

「失礼します」

「失礼しまーす」

 扉が開き、シャンティを抱えたアリーシャが部屋に入ってくる。アリーシャはノインが装備を身に着けているのを見ると、すぐにシャンティを下ろし手伝いに移った。

「ありがとう。ロディは?」

「陛下のお側に」

「それはそっか。なにか新しい情報はある?」

「竜騎兵の数が目算にして百……という程度ですね。申し訳ありません」

「いえ、数が分かっただけで十分よ」

 ノインが装備を身に着け終える。薄い金属製の胸当て、篭手、脛当て。そして腰の左右には鞘。身長に合わせ、新たに打ち直した小太刀が収められている。

「これから、どのように?」

「私には決定権はないの。ルシウス待ちね」

 ピシリ――と、例の感覚が訪れ、ノインは顔を強張らせた。
 時が止まったようにすべてが硬直し、ノイン以外が色を失う。間もなく部屋にクピドのエルモアが現れ、慌てた様子でノインの目の前に飛んでいく。

(ノインさん、大変です! 邪悪な力が二つ向かっています!)

(エルモアの敵ね。そんな気はしてたわ)

(それだけじゃありません! ゴーレム兵が前線を突破しています!)

(なんですって⁉ 被害は⁉)

(壊滅的です! 確認できないところが多すぎて、これ以上の情報はありません! ただ、ドルモアが動いたことは間違いありません! すみませんが、僕は急ぎやることができましたので、しばらく姿を消します! では!)

 エルモアはそう言い終えるなり姿を消した。世界に色が戻り、時が動き出すと同時にノインは部屋を飛び出し廊下に出た。

《みんな、出てきて》

 呼び掛けに応じ、ノインの体から仲間たちが姿を現す。

「あれ、ノイン、結婚式じゃなかったの?」

「非常事態よ」

 ノインの返答に、呑気に訊ねたシクレアの表情が神妙なものに変わる。

「最低最悪なタイミングじゃない。興味深い嫌がらせね」

「本当にそう。でも、だからって参考にしないでね」

「どのような状況ですか?」と、アスラが訊ねる。

「竜騎兵の空襲。数は百。エルモアの敵が二人いるわ」

「承知しました。アルト、頼めるか?」

「当然だろ。空ならおいらの出番だからな」

 少年の姿をとっているアルトが胸を張って答える。
 その体を、ディーバが背後から優しく抱え上げる。

「ノイン様、警護に誰か残しますか? アリーシャはシャンティがおりますし」

「そうね。ラーマは残って。あと、アデル先生がもう出立してるだろうから、その応援をお願い。ギリアムみたいなのを相手に、一人じゃ太刀打ちできないだろうから」

「分かったわ! 任せといて!」

「お願いね。みんな、気をつけて」

 ラーマ以外の仲間たちが、廊下を駆けていく。
 ノインはラーマと共にその背を見送る。

「ノイン様、僕は警護役ですか?」

「いいえ、あなたは私たちと前線に向かうのよ」

「前線? 戦況はどうなっているんです?」

「それは後で話すわ。さ、体に戻って。一緒にルシウスを待ちましょう」

 ノインはラーマを体に入れると、仲間たちが向かった方を見た。

(頼んだわよ、みんな……!)

 そう心で呟き、無事を祈りながら部屋へと戻った。
 
 


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅

散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー 2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。 人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。 主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

処理中です...