【完結】エルモアの使者~突然死したアラフォー女子が異世界転生したらハーフエルフの王女になってました~

月城 亜希人

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挿話【夏の紅い月夜の下、紅い瞳の孤独な彼と】

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※一人称ですが視点はノインのものではありません。

【夏の紅い月夜の下、紅い瞳の孤独な彼と】

 ――――――――――
 

 十九歳の夏。
 雨粒に気づいた会社の帰り道だった。
 突然、バンに横付けされて中に連れ込まれた。
 そこで私は、男たちに乱暴された。

 抵抗しても無駄だった。口を塞がれて叫べなかった。
 怖かった。痛かった。苦しかった。
 土砂降りの雨音の中、何度も意識を失った。
 失う度に起こされた。
 
 長い時間、連れ回された。
 雨はもうんでいた。

 朝がきて、日が高くなって、また夜になった。
 体も心も、壊れていた。
 まともに生きていくことは叶わないと思った。

 ずっと笑いながらいたぶられた。
 それが繰り返されているうちにプツリとなにかが切れた。

「また飛んだ。こいつ、起きろ、おい」
「待て、殴んな。なんか変だ。息してるか?」
「え、締めすぎた? 嘘だろ」
「は⁉ ふざけんな! 俺の車だぞ!」
「ど、どうすんだよこれ」

 男たちは慌てていた。
 楽しそうな声はもうどこにもなかった。
 私は死んだようだった。

「ど、どうするって、捨てるしかないだろ」

 一人が言った。
 反対の声は上がらなかった。

 それからまた長い時間バンに揺られた。
 男たちはずっと言い合っていた。
 捨てる場所で揉めていた。
 そして私を処理する方法を決めていた。

 そのうち心が戻ってくるような感覚があった。
 私は怖ろしくなった。
 お母さんのことが頭に浮かんだ。
 胸が張り裂けそうになった。

「なぁ、やっぱそのままだと駄目じゃね?」
「じゃあ、お前ん行くか? 風呂場使うぞ」
「なんで俺んなんだよ⁉ ノコギリなんてねーぞ!」
「ドラム缶で焼くか。畑のパクって」

 やめてよ! 家に帰して!

 声は届かなかった。
 これ以上、体を傷つけられたくなかった。
 けど、私には何もできなかった。
 ただそうならないように祈るしかなかった。

 祈る? 誰に?

「気持ちわりぃ! こっち見んじゃねーよ!」
「おい、横、でかいトラック来る。それ隠せ。足元に置け」

 私は男たちの足元に転がされた。
 裸のままだった。

 右目の視界が狭くて不快だった。
 たまに蹴られたり踏まれたりしながら、ただ揺れを感じていた。

 悔しかった。けど、それ以上に怖かった。

 どうしてこんな奴らが生きてるんだろう。
 生きていくんだろう。
 私に酷いことをしたのに。
 殺したのに。

 理不尽だと思った。
 だけどまだ終わっていなかった。


 
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