上 下
71 / 117
戦いの幕開け編

ギリアムとの戦い(2)

しおりを挟む
 
 
「さて、行くとするかね」

 ギリアムはマーマンジェネラルとマーマンの群れを引き連れ南の村へと向かった。物見櫓ものみやぐらから見られていることにも気づいていた為、既に迎撃態勢が整えられていることも知っていた。にも拘らず、悠々と散歩をするように正面から侵攻した。

 というのも、事前に兵がいないことを確認していたからだ。村人の中にもマーマンと戦える手練れはいるが、それは極僅か。応援を呼びに向かわれても、兵の到着は早くても翌日。それまでに村人を殺して、遺体を回収することなど容易いと考えていた。

「た、助けて」

 喧騒の中、ギリアムは腰を抜かした少女に命乞いされた。少女は十八歳になったばかりの村長の一人娘で、数日後に恋人との結婚を控えていた。

「あー、どうすっかな」

 ギリアムは情欲に駆られた。舌舐めずりして少女を見下ろす。

(顔立ちは平凡だが、まぁ、どうせ殺すしな)

 その前に好きに甚振ってやろうという思いが脳裏を過ぎっていた。

 そこに一人の青年が駆けてきた。
 それは少女の幼馴染の恋人だった。少女は涙を浮かべて「ヨアヒム!」と名を呼んだ。だが、救いに来てくれたという喜びの表情は、すぐに凍りついた。
 ヨアヒムは剣を振りかぶり、雄叫びを上げてギリアムに斬りかかったが、横から伸びたマーマンジェネラルの手に頭を掴まれ、首を捻り落とされた。

 血飛沫を浴びた少女の眼前に、ヨアヒムの首が転がり落ちる。

「いやああああ!」

「うるせえ。殺すぞ」

 ヨアヒムの死に悲痛な叫びを上げる少女の髪を掴んで引きずり、ギリアムは手近にあった村長の住居に押し入った。そして少女を殴って服を引き裂いた。
 少女の悲鳴を聞き、まだ四十と若い村長が外から駆けつけたが、娘の有様に言葉を失っている間に、ギリアムが長剣で首を刎ねてしまった。

 少女は目の前で恋人と父を殺され、また悲鳴を上げた。恐怖に慄き、床も濡らした。
 だがギリアムは情欲を枯らすことなく、素知らぬ顔で出入口へと向かった。

「おい、やることは分かってんな? 邪魔が入らないようにしとけ」

「分かりました」

 ギリアムは外に立つマーマンジェネラルに命じ、返事を聞くなり扉を閉めた。

「さ、死ぬ前にいいことしてやるよ」

 少女を見下ろすギリアムの顔には、下卑た笑みが浮かんでいた。


 *


 ルシウスはマーマンジェネラルに向かい、魔法で氷柱を飛ばしながら、手にした長剣を横薙ぎに振るった。だがマーマンジェネラルは槍を回転させてすべての攻撃を弾いた。高い金属の響きが走り、剣戟打ち合いの衝撃でルシウスが吹き飛ぶ。
 
 ノインはアルトに指示し、回転する槍の前で急上昇した。直後にアルトから飛び降り、軽く息を吐きながら二本の小太刀を鞘から抜き放った。その高飛び込みの選手のような姿勢の斬撃は、しっかりとマーマンジェネラルの首を捉えた。だが、死角である背後から左右同時に斬りつけたにも拘らず、両断することは叶わなかった。

 ガツッ――という鈍く硬い音が鳴り、数枚の櫛鱗しつりんが剥がれ飛ぶ。

 ノインは着地するなりマーマンジェネラルから距離を取った。手が石を叩いたように痺れていた。その割に、マーマンジェネラルの傷は浅い。薄く血が流れた程度。

「なんて堅いの!」

 マーマンジェネラルは首に手を遣り、血を確認した後で口角を引き上げた。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅

散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー 2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。 人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。 主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星
ファンタジー
世界を救った勇者、彼はその力を危険視され、仲間に殺されてしまう。無念のうちに命を散らした男ロア、彼が目を覚ますと、なんと過去に戻っていた! もうあんなヘマはしない、そう誓ったロアは、二度目の人生を穏やかに過ごすことを決意する! とはいえ世界を救う使命からは逃れられないので、世界を救った後にひっそりと暮らすことにします。勇者としてとんでもない力を手に入れた男が、死の原因を回避するために苦心する! ロアが死に戻りしたのは、いったいなぜなのか……一度目の人生との分岐点、その先でロアは果たして、穏やかに過ごすことが出来るのだろうか? 過去へ戻った勇者の、ひっそり冒険談 小説家になろうでも連載しています!

【完結】元ドラゴンは竜騎士をめざす ~無能と呼ばれた男が国で唯一無二になるまでの話

樹結理(きゆり)
ファンタジー
ドラゴンが治める国「ドラヴァルア」はドラゴンも人間も強さが全てだった。 日本人とドラゴンが前世という、ちょっと変わった記憶を持ち生まれたリュシュ。 しかしそんな前世がありながら、何の力も持たずに生まれたリュシュは周りの人々から馬鹿にされていた。 リュシュは必死に強くなろうと努力したが、しかし努力も虚しく何の力にも恵まれなかったリュシュに十八歳のとき転機が訪れる。 許嫁から弱さを理由に婚約破棄を言い渡されたリュシュは、一念発起し王都を目指す。 家族に心配されながらも、周囲には馬鹿にされながらも、子供のころから憧れた竜騎士になるためにリュシュは旅立つのだった! 王都で竜騎士になるための試験を受けるリュシュ。しかし配属された先はなんと!? 竜騎士を目指していたはずなのに思ってもいなかった部署への配属。さらには国の争いに巻き込まれたり、精霊に気に入られたり!? 挫折を経験したリュシュに待ち受ける己が無能である理由。その理由を知ったときリュシュは……!? 無能と馬鹿にされてきたリュシュが努力し、挫折し、恋や友情を経験しながら成長し、必死に竜騎士を目指す物語。 リュシュは竜騎士になれるのか!?国で唯一無二の存在となれるのか!? ※この作品は小説家になろうにも掲載中です。 ※この作品は作者の世界観から成り立っております。 ※努力しながら成長していく物語です。

転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】  普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。 (しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます) 【キャラクター】 マヤ ・主人公(元は如月真也という名前の男) ・銀髪翠眼の少女 ・魔物使い マッシュ ・しゃべるうさぎ ・もふもふ ・高位の魔物らしい オリガ ・ダークエルフ ・黒髪金眼で褐色肌 ・魔力と魔法がすごい 【作者から】 毎日投稿を目指してがんばります。 わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも? それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

転生魔法伝記〜魔法を極めたいと思いますが、それを邪魔する者は排除しておきます〜

凛 伊緒
ファンタジー
不運な事故により、23歳で亡くなってしまった会社員の八笠 美明。 目覚めると見知らぬ人達が美明を取り囲んでいて… (まさか……転生…?!) 魔法や剣が存在する異世界へと転生してしまっていた美明。 魔法が使える事にわくわくしながらも、王女としての義務もあり── 王女として生まれ変わった美明―リアラ・フィールアが、前世の知識を活かして活躍する『転生ファンタジー』──

骨から始まる異世界転生~裸の勇者はスケルトンから成り上がる。

飼猫タマ
ファンタジー
トラックに轢かれて異世界転生したのに、骨になるまで前世の記憶を思い出せなかった男が、最弱スケルトンから成り上がってハーレム勇者?魔王?を目指す。 『小説家になろう』のR18ミッドナイトノベルズで、日間1位、週間1位、月間1位、四半期1位、年間3位。 完了済では日間、週間、月間、四半期、年間1位をとった作品のR15版です。

死神の使徒はあんまり殺さない~転生直後に森に捨てられ少年が、最強の魔狼に育てられ死神の使徒になる話~

えぞぎんぎつね
ファンタジー
 前世の記憶をおぼろげながらもって転生した少年は、銀色の髪と赤い目のせいで、生まれた直後に魔狼の森に捨てられた。  だが少年は、最強の魔狼王にして、先代の死神の使徒の従者でもあったフレキに拾われる。  魔狼王フレキによって、フィルと名付けられた少年は、子魔狼たちと兄妹のように一緒にすくすく育った。  フレキによって、人族社会は弱肉強食の恐ろしいと教えられ、徹底的に鍛えられたフィルは、本人も気付かないうちに、人族の枠を越えた強さを身につけてしまう。    そして、フィルは成人年齢である十五歳になると、死神によって使徒に任じられ、魔狼の森から巣立つのだった。  死神は、生命に寿命を迎えさせ、死した魂が迷わぬよう天に還す善なる神なのだが、人々には恐れられ、忌み嫌われている。  そのためフィルは死神の使徒であることを隠し、下級冒険者となり、迷える魂を天に還すため、人が健やかに寿命を迎えられるように暗躍するのだった。 ※なろうとカクヨムにも投稿しています。

処理中です...