上 下
37 / 117
はじめてのおでかけ編

7

しおりを挟む
 
 *


 私たちは必要なものを揃えて静寂の森の洞窟へと帰った。
 今度は、アスラにロディとルシウス、ディーヴァに私とアリーシャが乗った。
 
 着いた頃には深夜になっていて、私は眠ってしまっていた。
 別に油断したわけではない。
 そうしても構わない理由に気づいたからそうしたってだけだ。

 その理由とは、エルモアが出現しなかったこと。
 もし二人との遭遇が危機なのであれば、エルモアが現れていなくてはおかしい。
 それに、エルモアは私をこの森に送る前にこう言っていた。

(分かりません。僕には、あなた以外の心の内を知ることができないんです。なので、判断はあなたにお任せしなくてはいけなくて……)
 
 あのときは、ロディとアリーシャの気持ちを知ることができなかった。
 だから、私が判断ミスしちゃってたっておかしくはないな、と思ったわけだ。

 とかなんとか、いろいろ理由はつけてるけど……。

 幼児って、我慢できないのよ。
 眠いと寝ちゃう。本当に抗えない。
 二人は信じるに足る優しさを見せてくれたし、もういいかなっていうのが正直なところ。あの場で死んでたって不思議はなかったし、他にどうしようもなかったからね。

 それで、朝を迎えたわけだけども……。

 私が目を覚まして部屋を出ると、既に朝食の準備が済ませられていた。
 しかも焚き火を囲む形じゃなくて、四人掛けのテーブルと椅子が用意してある。
 たぶん、ロディが収納魔法から出したものだと思う。
 真っ白なテーブルクロスが敷かれた上に、スープとパンと焼いたお肉。
 流石というかなんというか、元世話係の二人は洞窟でもテキパキしていた。

「おはようございます、ノイン様」

「おはよう、みんにゃ」

「おはようノイン」

「おはようございます。あら、涙の痕が。失礼します」

 アリーシャがタオルで顔を拭ってくれる。嬉しくて抱き着いてしまう。

「ノイン様……!」

 アリーシャも感極まったように抱きしめ返してくれる。
 そんな幸せな遣り取りをした後で、朝食の席に着いた。

 ああ、ちゃんとした食事だわ……!

 久しぶりだったので、がっついてしまった。

「そんなに急がなくても、料理は逃げないよ?」

「わかってりゅけど、おいちいんだもん」

 私とルシウスとの遣り取りを、ロディとアリーシャは微笑んで見ていた。
 そういえば、二人はルシウスの素性を知っているのだろうか?

 訊きづらい。と、思っていたら、ルシウスの方から話してくれた。
 昨晩のうちにルシウスがこれまで起きたことを、すべて話してくれていたらしい。
 情報の擦り合わせが済んでいるようで、私は何の説明もする必要がなかった。

 幼児の口で説明するのって、大変だからものすごく助かる。

 本当に十二歳なのかと疑っちゃうくらい、ルシウスはしっかりしている。
 もう、好きすぎて思わずぎゅっとしがみついていしまう。

「ノイン? どうしたの?」

「ルチウちゅ、ありがちょ。だいちゅき」

「えへへー。ありがとう。嬉しいな」

 ルシウスが頭を撫でてくれる。もう朝から天国です。
 幸せ気分でほわほわしていると、ロディが咳払いした。

「ルシウス殿下、昨夜話した通りですが、お決めになっていただけたでしょうか?」

「決めりゅ? なんのこちょ?」

「ノイン様、私たちはガーランディア王国へ帰還するのですよ。それで、ルシウス殿下にどうするかをお訊ねしているのです」

 アリーシャの言葉に、私はぽかんとしてしまった。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅

散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー 2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。 人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。 主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

スライムの恩返しで、劣等生が最強になりました

福澤賢二郎
ファンタジー
「スライムの恩返しで劣等生は最強になりました」は、劣等生の魔術師エリオットがスライムとの出会いをきっかけに最強の力を手に入れ、王女アリアを守るため数々の試練に立ち向かう壮大な冒険ファンタジー。友情や禁断の恋、そして大陸の未来を賭けた戦いが描かれ、成長と希望の物語が展開します。

【完結】元ドラゴンは竜騎士をめざす ~無能と呼ばれた男が国で唯一無二になるまでの話

樹結理(きゆり)
ファンタジー
ドラゴンが治める国「ドラヴァルア」はドラゴンも人間も強さが全てだった。 日本人とドラゴンが前世という、ちょっと変わった記憶を持ち生まれたリュシュ。 しかしそんな前世がありながら、何の力も持たずに生まれたリュシュは周りの人々から馬鹿にされていた。 リュシュは必死に強くなろうと努力したが、しかし努力も虚しく何の力にも恵まれなかったリュシュに十八歳のとき転機が訪れる。 許嫁から弱さを理由に婚約破棄を言い渡されたリュシュは、一念発起し王都を目指す。 家族に心配されながらも、周囲には馬鹿にされながらも、子供のころから憧れた竜騎士になるためにリュシュは旅立つのだった! 王都で竜騎士になるための試験を受けるリュシュ。しかし配属された先はなんと!? 竜騎士を目指していたはずなのに思ってもいなかった部署への配属。さらには国の争いに巻き込まれたり、精霊に気に入られたり!? 挫折を経験したリュシュに待ち受ける己が無能である理由。その理由を知ったときリュシュは……!? 無能と馬鹿にされてきたリュシュが努力し、挫折し、恋や友情を経験しながら成長し、必死に竜騎士を目指す物語。 リュシュは竜騎士になれるのか!?国で唯一無二の存在となれるのか!? ※この作品は小説家になろうにも掲載中です。 ※この作品は作者の世界観から成り立っております。 ※努力しながら成長していく物語です。

転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】  普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。 (しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます) 【キャラクター】 マヤ ・主人公(元は如月真也という名前の男) ・銀髪翠眼の少女 ・魔物使い マッシュ ・しゃべるうさぎ ・もふもふ ・高位の魔物らしい オリガ ・ダークエルフ ・黒髪金眼で褐色肌 ・魔力と魔法がすごい 【作者から】 毎日投稿を目指してがんばります。 わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも? それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~

アトハ
ファンタジー
【短いあらすじ】 普通を勘違いした魔界育ちの少女が、王都に旅立ちうっかり無双してしまう話(前世は病院少女なので、本人は「超健康な身体すごい!!」と無邪気に喜んでます) 【まじめなあらすじ】  主人公のフィアナは、前世では一生を病院で過ごした病弱少女であったが……、 「健康な身体って凄い! 神さま、ありがとう!(ドラゴンをワンパンしながら)」  転生して、超健康な身体(最強!)を手に入れてしまう。  魔界で育ったフィアナには、この世界の普通が分からない。  友達を作るため、王都の学園へと旅立つことになるのだが……、 「なるほど! 王都では、ドラゴンを狩るには許可が必要なんですね!」 「「「違う、そうじゃない!!」」」  これは魔界で育った超健康な少女が、うっかり無双してしまうお話である。 ※他サイトにも投稿中 ※旧タイトル 病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

転生魔法伝記〜魔法を極めたいと思いますが、それを邪魔する者は排除しておきます〜

凛 伊緒
ファンタジー
不運な事故により、23歳で亡くなってしまった会社員の八笠 美明。 目覚めると見知らぬ人達が美明を取り囲んでいて… (まさか……転生…?!) 魔法や剣が存在する異世界へと転生してしまっていた美明。 魔法が使える事にわくわくしながらも、王女としての義務もあり── 王女として生まれ変わった美明―リアラ・フィールアが、前世の知識を活かして活躍する『転生ファンタジー』──

処理中です...