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静かな森の出会い編

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 分かったわ。取り敢えず、そこへ行けばいいのね。

 崖の上からギリアムと黒ずくめの男が去った後、私はルシウスの方を見た。
 裏切られたことを知ってショックを受けているようで、悲しそうな顔をしていた。
 気持ちは分かる。私もロディとアリーシャに騙されていたから。
 
 だけど、嘆いてばかりもいられない。
 時間は待ってなんてくれないんだから。

 私は洞から出て立ち上がり、ルシウスの前に立った。

「ルチウちゅ。立っちぇ」

 ルシウスは、のそのそと洞から出て立ち上がり肩を落とした。
 目に見えて落胆していて、私まで辛くなる。でも――。

「元気だちて!」

 私はルシウスの手を握った。かわいそうだけど、今はもたもたしてられない。
 どうにか刺客を撒くことができたってだけで、危険はまだある。
 この森には何がいるか分からない。とにかく、生き残る為に動かなきゃ。

 そういう気持ちで、私はルシウスが立ち直るまで励ますつもりでいた。
 だけど、私はルシウスを見誤っていた。温室育ちで、なよなよしてると思っていたら大間違い。手を握ってすぐ、はっとしたように私を見て頷いた。

「ノイン、ありがとう。僕は大丈夫」

 はうぁっ⁉ 眩しいっ!

 ルシウスは、胸がキューンとしちゃうようなキラキラした眼差しで私を見つめる。
 たぶん、自分よりも小さい私を守らなきゃって思ったのね。
 まさに皇子様。思わず、うるっとしちゃったじゃないの。

 ルシウス、おそろしい子っ。

 いえ、感動に打ち震えている場合じゃないわ。
 ハァハァしてたら共倒れしちゃう。急がなきゃ。

「ルチウちゅ、こっち」

 私はルシウスの手を引っ張って、エルモアが示したところに向かう。
 歩幅が違うから、すぐに横並びになる。
 そうなるともう、ルシウスと顔を見合わせるしかないわよね。

 あれ? これって皇子様と手つなぎデートじゃない⁉

 ちょっとドキドキし始めたところで、ルシウスが話しかけてきた。

「ねぇ、ノイン、君はこの辺りで暮らしてるの?」

「ちょ、ちょんなわけないでちょ。レディに、しちゅれいよ」

「あ、そうか、ごめんよ。いろいろ知ってるみたいだから。悪気はないんだ」

「ううん、いいにょ。わちゃし、まだ上手く話しぇないから、あちょでね」

 蔓に覆われた壁の前に着いた。短いデートだったわ。
 確か、エルモアはここを指差してたはずだけど……。
 ルシウスと手を離し、壁すれすれに立って、両手を伸ばしてみる。
 
「はえっ⁉」

 そこは蔓が密集して、膜のようになっていただけだった。
 支えになるはずの壁がなく、私はどてーんと前のめりに倒れた。
 
 
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