上 下
11 / 117
ガーランディアの王女編

11

しおりを挟む
 ピシリ――と氷がヒビ割れたような音がした。
 そして、目に映るすべてが灰色に変わった。

 私だけに色がついている。

 これは――。

(お久しぶりです。緊急事態なので訪れました)

 金髪巻き毛のクピドが、ふわふわと視界に入ってくる。

 エルモア! やっぱり!

 私に危機が差し迫ったとき、エルモアが助言してくれる。
 というのは、そういうことだ。

 ロディとアリーシャは動きを止めている。私も体は動かない。
 時間が止まった訳じゃなく、感覚が高速化して、周囲が止まったように見えているだけだとエルモアが教えてくれた。脳に負担が掛かるので、長時間は無理らしい。

 それで、何が起きた訳⁉

 エルモアは悲しい表情を浮かべる。

(大変、言いづらいのですが、目の前の二人は暗殺者です)

 え……? ロディとアリーシャが……?

(はい。残念ですが、あなたはとても難しい選択を迫られます。今すぐ決めてください。ここに留まるか、それとも僕の力で脱出するか)

 私が言葉を失っているうちに、エルモアが話してくれた。

 ロディとアリーシャは、私の監視役として側に置かれていたそうだ。
 さっき話していた内容の一部は嘘で、今もまだルリアナの側仕えのままだという。

 ロディとアリーシャが、私を殺すの? どうして?

(ルリアナから、そう命じられているからです)

 ルリアナは保守的な考え方に固執していて、肉体と魔法の力以外は認めないという意見を公にしているそうだ。ギフトも不自然だとして受け入れていないらしい。
 それで、魔力を持たない私が、不思議な力を使ったり、おかしな行動をとったりしたら、すぐに殺すようにと二人に言いつけていったのだとか。

(これは僕のミスです。エルフの魔力感知力と、ルリアナの性格を考慮していませんでした。二つが合わさることで、こんな危機を招くことになってしまいました)

 ごめんなさい。とエルモアが宙で項垂れる。

 そんな……。それじゃあ、さっきのは演技だったってこと……?

 エルモアが落胆した様子のままかぶりを振る。

(分かりません。僕には、あなた以外の心の内を知ることができないんです。なので、判断はあなたにお任せしなくてはいけなくて……)

 ロディとアリーシャを信じるかどうかは、私次第ってことか……。
 でも、もう遅いわよね……。

 私はロディにギフトの力を見せてしまった。
 すぐにアリーシャにも伝わるだろう。

 そんな状況で信じるって、言葉通り命懸けだもの。
 今日にでも殺されてしまうかもしれない。

 寂しいな……。

 二人との思い出が蘇ってくる。

 私が寝返りを打ったとき、手を叩いて喜んでくれた。
 ハイハイしたときも、掴まり立ちをしたときも、歩いたときも。
 喋ったときなんて、自分のことのように喜んでくれていたのに。 

 それも全部、嘘だったなんて、信じたくはないけど……。

 だけど、行かなきゃ。もう一緒にはいられない。
 
 私は目の前で微笑むロディとアリーシャを見つめる。

 今まで、ありがとう。ロディ、アリーシャ。大好きだったよ。

(心は決まりましたか?)

 えぇ、ありがとう、エルモア。私は旅立つわ。
 そのお手伝いもしてくれるのよね?

(勿論です。今回は僕のミスですので、お詫びをさせていただきます)

 エルモアはそう言って、私の体を光で包んだ。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】  普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。 (しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます) 【キャラクター】 マヤ ・主人公(元は如月真也という名前の男) ・銀髪翠眼の少女 ・魔物使い マッシュ ・しゃべるうさぎ ・もふもふ ・高位の魔物らしい オリガ ・ダークエルフ ・黒髪金眼で褐色肌 ・魔力と魔法がすごい 【作者から】 毎日投稿を目指してがんばります。 わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも? それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

悪役令嬢に転生したと思ったら悪役令嬢の母親でした~娘は私が責任もって育てて見せます~

平山和人
恋愛
平凡なOLの私は乙女ゲーム『聖と魔と乙女のレガリア』の世界に転生してしまう。 しかも、私が悪役令嬢の母となってしまい、ゲームをめちゃくちゃにする悪役令嬢「エレローラ」が生まれてしまった。 このままでは我が家は破滅だ。私はエレローラをまともに教育することを決心する。 教育方針を巡って夫と対立したり、他の貴族から嫌われたりと辛い日々が続くが、それでも私は母として、頑張ることを諦めない。必ず娘を真っ当な令嬢にしてみせる。これは娘が悪役令嬢になってしまうと知り、奮闘する母親を描いたお話である。

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

【完結】道真様は異世界に飛んでも満喫〜ご祭神の転生スローライフはワックワクドッキドキ!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
学問の神、天神こと菅原道真公。 元は人間で、様々な逸話を持ち……京都や九州に祀られている社がある存在だが。 ひょんなことから、神であるのに異世界へ転生してしまった!? しかも、人間ではなく……世界樹の精霊に!? さらに、転生は自分だけでなく社の一角にあった梅の木も! 転生を仕掛けたのは、やはり異世界の神。世界樹の存続に必要な『石』の回収をして欲しいとの願いだった。それ以外は好きに過ごしていいとのこと。 であれば……と、道真と梅は名を変えて、異世界でのスローライフを目指すことにした!! 使命は忘れずに。けど、ドッキドキわくわくの異世界スローライフを目指す天神様だった道真公の生活がスタートとなる!!

[完]異世界銭湯

三園 七詩
ファンタジー
下町で昔ながらの薪で沸かす銭湯を経営する一家が住んでいた。 しかし近くにスーパー銭湯が出来てから客足が激減…このままでは店を畳むしかない、そう思っていた。 暗い気持ちで目覚め、いつもの習慣のように準備をしようと外に出ると…そこは見慣れた下町ではなく見たことも無い場所に銭湯は建っていた…

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

どうやら私(オタク)は乙女ゲームの主人公の親友令嬢に転生したらしい

海亜
恋愛
大交通事故が起きその犠牲者の1人となった私(オタク)。 その後、私は赤ちゃんー璃杏ーに転生する。 赤ちゃんライフを満喫する私だが生まれた場所は公爵家。 だから、礼儀作法・音楽レッスン・ダンスレッスン・勉強・魔法講座!?と様々な習い事がもっさりある。 私のHPは限界です!! なのになのに!!5歳の誕生日パーティの日あることがきっかけで、大人気乙女ゲーム『恋は泡のように』通称『恋泡』の主人公の親友令嬢に転生したことが判明する。 しかも、親友令嬢には小さい頃からいろんな悲劇にあっているなんとも言えないキャラなのだ! でも、そんな未来私(オタクでかなりの人見知りと口下手)が変えてみせる!! そして、あわよくば最後までできなかった乙女ゲームを鑑賞したい!!・・・・うへへ だけど・・・・・・主人公・悪役令嬢・攻略対象の性格が少し違うような? ♔♕♖♗♘♙♚♛♜♝♞♟ 皆さんに楽しんでいただけるように頑張りたいと思います! この作品をよろしくお願いします!m(_ _)m

処理中です...