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完結後おまけ編

閑話 戦いの狼煙

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 ユーゴとコーキ、そしてイノリノミヤが旅立った日。

 ラグナス帝国帝都上空に、ルードの影があった。その背にはリンドウとスズランの姿がある。

「スズラン、死ぬなや!」

「お前の子を産むまでは死なん!」

 二人はこの戦争で最も危険な任務を行うことになっていた。
 それは帝都にあると思しき、桃花仙トウカセンとの繋がりを断つこと。

 それを断たねば、トウゲンが延々と儀来ニーラに渡ってきてしまう。
 イノリノミヤが二大仙ニタイセンに帰った今、トウゲン除けの結界も既に消失している。これが果たされなければ、クリス王国、果ては儀来全土がトウゲンに征服されてしまう危惧がある。ゆえに失敗の許されない重大任務だった。

 では何故、二人がこの任務に選ばれたのかと言うと——。

「もう神職やないからな! 気張って攻め込んだろうや!」

「うむ! 容赦は一切せん!」

「よっしゃ! ほんならわしから! 【鬼火竜巻】!」

 帝都ラグナスに、紫色の炎を纏った竜巻が発生する。
 それはありとあらゆるものを巻き込み、燃やしていく。

「リンドウ、手を貸せ!」

「おうよ!」

 スズランがリンドウと指を絡めるように手を握り合わせ、二人でルードの背から飛び降りる。そして空いた方の手を【鬼火竜巻】に蹂躙されている帝都へと向けた。

「【地獄ノ釜】!」

 それは、闇、火、水、土の四属性複合術。
 この世界の理である、術の壁をリンドウとスズランは打ち破ったのである。
 帝都で二人に抵抗しようとする者は大勢いた。こちらに渡っているトウゲンも、異変に気づいて動き始めていた。だが、そのすべてが地面に足を取られて動けなくなり、じわじわと足先から熱で融解していく。

「な、なんだこれは⁉」

「う、動けん、ぎゃああ!」

「足を捨てろ! 切り離して逃げろ!」

 城内にいたトウゲンの一人が地面に沈み込んでいく足を切り落とすが、ポタポタと天井から熱いものが降ってきていることに気づく。【地獄ノ釜】は地面や床だけでなく、建造物全体を融解させていた。【鬼火竜巻】があることで、その融解速度は更に上がる。
 どろりと溶けて粘土状になった建物が帝都ラグナスに溢れかえり、押しつぶされる者たちの阿鼻叫喚に包まれる。

「これで、穴は潰したやろ」

「おそらくな」

 この作戦は、イノリノミヤが発案したものだった。桃花仙と繋がっている異界の穴を探して潰すより、すべてを攻め滅ぼしてしまう方が成功率が高いだろうとの判断だった。
 大勢の人の命を奪う広範囲殲滅術を、躊躇いなく使える者でなければこの任務は果たせない。
 誰しも、それだけの気概はあったのだが、リンドウとスズランが自ら名乗りを上げた。

 その理由は、最も目立つ形で先陣を切れるから。
 そして、二人の狙いは間もなく果たされることとなった。
 
 
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