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完結後おまけ編
閑話 シャフトが見たもの
しおりを挟む要塞に辿り着いたシャフトは目を疑った。
そこにいたのは、ラグナス帝国の兵。しかも、モーゼス東部の兵とも楽しげに酒を酌み交わしていたのである。
(ここまで進んでるってのは予想外だな。防壁の外は……)
長城に上り、暗闇の中を目を凝らして見る。野営のテントはなく、軍らしき影も見えない。とすれば、要塞内に導いていると見て間違いないと判断できた。そして、その考えは正しかった。すべてはアーヴェインの手引きによって行われていたことだった。
(アーヴェインとラグナス帝国との繋がりはハッキリしたな。あとは規模だが……)
シャフトは隠密行動を取りつつ、要塞内に侵入した。目ざとい者は何人かいたが、敢えて少しだけ存在を臭わせておびき寄せ、一刀のうちに命を奪った。
板金鎧を着ている相手にはできない芸当だが、アーヴェインの手引きで侵入したことで気が緩んでいることもあり、要塞内にいる者は、誰もがチュニックにズボンという格好だった。
(敵国にいるって感覚がねぇな、こいつら)
東部要塞は広い為、シャフトはすべてを確認することはしなかった。
遺体は人目につきにくい暗がりに置いたが、やがては気付かれる。
厄介なことになる前に退散した。
それでも、おおよその人数は把握した。見た場所だけで千人の侵入は確実。
要塞の数と規模を踏まえれば、万は堅い。
(こりゃ、アーヴェインを殺せばどうのこうのって話じゃねぇな、もう)
むしろ、アーヴェインを生かしておかないと危うい気さえしていた。
殺してしまえば、統制が取れなくなる危惧が出てきた。
それが戦争開始の合図となることも、大いにあり得るとシャフトは思った。
(早まるなよ、レイン)
諜報員の行動と判断は、個人の裁量に任されている。
長年共に行動してきて、シャフトはレインの冷静さをよく知っている。
だが、悪意に対する嫌悪感の強さもまた知っている。
そういう連中に対しての、レインの手の早さと言ったらない。
もしアーヴェインが、レインのお眼鏡に適ってしまうほどの悪意ある者であった場合、既に死んでいてもおかしくはないとシャフトは思う。
(その場合、ナッシュの親父さんに情報を渡してトンズラぶっこくしかねぇか。トロアは、どうすっかな)
いろいろと考えながら、シャフトはレインの潜入している東部城塞へと足を速めた。
*
東部城塞——。
アーヴェインは城塞内部にある自室のソファでくつろいでいた。ソファは一人掛けの革張りのもので、ラグナス帝国から贈られたものだった。部屋にある豪華な調度品や骨董品の数々は、すべてがラグナス帝国との遣り取りで得たものだった。
(あと少しで、西部も俺のものか)
アーヴェインはほくそ笑む。純然たる虎人の誇りを抱いているとは到底思えない。そんな笑み。
すべてを利用し、すべてを奪い、そしてすべてを手に入れる。
巧言令色鮮し仁を地でいくような生き方をしてきた。
目の上のたんこぶが消えて、いや、消して手に入れた現在の地位。
そこに居座ってからは、連日好き放題にやっていた。
そして今日もまた、娼婦の代わりに奴隷を犯していたぶって殺す。
そのはずだった。
「がっ——」
手にしたワイングラスに口を付けた瞬間、酷い苦痛に襲われた。
(毒⁉)
気づいたときに、ノックが鳴った。
喉元を押さえ、必死に声を上げる。
「た、たすけて、くれ!」
扉が開き、入ってきたのは、黒いローブ姿のダークエルフ。
レインは、侵入後すぐにアーヴェインの飲むワインに毒を入れておいた。
即効性のものだが、弱毒で死に至ることはない。
だが、レインは冷ややかな目でアーヴェインを見つめ、ナイフを取り出すと容赦なく切り刻み始めた。
「や、やめ、ろ!」
「あんたが殺してきた奴隷を見たよ。彼女たちにもそう言われたんじゃないのかい?」
レインは死なない程度の苦痛を与え続けた。
アーヴェインが死んだのは、それから二時間後。
シャフトが到着したのと、ほぼ同じときだった。
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