【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜

月城 亜希人

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それぞれの成長 元戦乙女隊編

閑話 レインとウェッジ(2)

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 店主が、レインの前にマグカップを置いた。ハーブティーが微かに揺らめく。そこに映るレインの顔が、二十四年前の、あどけないものに変わる。

(あの日も、ハーブティーを飲ませてくれたのよね……)

 痛みに叫んでいる間ずっと、ウェッジが抱き締めてくれていた。それをレインは覚えている。次に気がついたときは、ベッドの上。側にいたウェッジが、慌てた様子で冷たいハーブティーの入ったマグカップを手渡してくれた。

『叫び疲れたろう。さあ、喉を潤しなさい。辛かっただろう。悪かったね』

 レインは、不意に蘇った過去に苦笑する。

(今でも、まだ子供扱いされてるってことか)

 あのときの優しさ。微笑み。抱きしめられているときの安心感。それを忘れたことはない。いい加減、女として見てくれても良いのではないかとレインは思う。

「ねぇ、命の恩人さん」

 レインがそう呼ぶと、ウェッジは深い溜め息を溢してグラスを置いた。

「わしは誰も救ってなどいない。愚弟の人とは思えん非道を詫びたに過ぎん。ただ詫びただけだ。許されるとも思っておらん」

「頑固ね。あなたに救われた亜人は何人もいるでしょうに」

「愚弟が非道を行った人数の方が遥かに多い。あれがしたことで、どれだけの者が人生を狂わせたか。レイン、お前を預けたあのエルフの夫婦、覚えているか?」

 レインは「ええ」と頷く。二十四年前のあの日、ウェッジが呼んだ治癒士の手で、四肢を切断されたエルフの夫婦は、数日掛けて欠損の治療を施された。

 その後、ウェッジの【影転移】でクリス王国の国境近辺に送られたレインとその夫婦は、通りがかった商人の幌馬車に乗せてもらい、共にアルネスの街に入った。

「私は、貧民街スラムに置き去りにされたわ。里には連れていけないからでしょうね。サイガ組長に拾ってもらえたから良かったけど」

「いや、違う」

「え?」

「あの二人が、そうなるように取り計らったと見るべきだろう。数日後に、ドノヴァンを殺しに戻ってきたそうだ。俺が見つけたときには、夫の方は鼠の餌にされていたよ」

 レインは視線を落とし、ただ「そう」とだけ答えた。

「驚かない、か」

「考えなかった訳じゃないから。これでも、あなたと歳が同じなのよ」

 レインに見つめられ、ウェッジが気まずげに酒を飲み干して席を立つ。色を消したグラスの横には金貨がある。飲み始める前に置いていた。

「ねぇ、ウェッジ、こっちに寝返ったりしない?」

「わしに賛同する者がいれば、その絵も描けただろうがな。レイン、風邪を引くなよ」

 ウェッジはそう言い残し、酒場を出て行った。
 
 
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