上 下
369 / 409
それぞれの成長 元戦乙女隊編

閑話 レインの過去(3)

しおりを挟む
 
 
「何なの、この気持ち悪い連中⁉ あんたの祠、こんな連中のとこにあんの⁉」

「知るかよ! こいつらが勝手に俺の祠があるとこに家建てたんだろうがよ!」

「じゃあ、これを機に変えちゃえば?」

「そのつもりだよ。おい、待たせたな。残念な話だけどよ、エルフが俺と繋がると、もう拒否権は与えられねぇんだ。で、大抵は死ぬ」

 レインはその言葉に怯えた。エルフの里でもそのように聞いていたので、愕然とはしなかったが、悄然とできるほど落ち着いてもいられなかった。

(私、死にたくありません!)

「だろうな。皆そう言う」

「私のとこに来る連中もそうね。でもね、お嬢ちゃん、それは私たちがそうなるようにしてるからなのよ。内緒だけどね」

「殺す力を欲して、他は何もいらねぇって奴が結構いるんでな。そういう危ねぇのは害悪にしかならねぇから、こっちで殺してるってだけだ」

「種族適性崩壊って、何だかよく分からない言葉が付けられてるけど、本当は違うのよ。エルフは火と闇との親和性が高すぎて、肉体に変化まで及ぼしちゃうってだけ。深く結びついちゃうから、二度と外せなくなるのよ」

「火を得た時点で、闇も得る。闇を得た時点で、火も得る。ここが肝心なとこだが、俺たち以外の属性は追い出されて消えてなくなる。生涯二つだけだ。まずは――」

 生きるか、死ぬか、選べ。火の精霊は、レインにそう言った。

 死ぬなら、苦しみを与えずに命を奪う。だがもし生きるなら、火と闇の多大な力は得るが、常に偏見の目が付き纏う、孤独で悲しい人生を過ごすこととなる。

「ダークエルフ。お前はそう呼ばれる存在になる。禁忌を犯したとされて、エルフの里には入れず、寿命は四倍に跳ね上がる。最低でも千二百年は生きることになるな」

「辛いのはね、歳の重ね方がエルフと変わらないことなのよ。人生の四分の三は、人族で言うと八十歳ほどの老婆として過ごさなきゃならないわ。それでも生きる?」
 
 レインは生きることを選んだ。火と闇の精霊はそれを祝福し、「頑張れよ。側にいるからな」「いつも見守ってるわ」という言葉を最後に、レインとの繋がりを断った。

(ありがとうございます。精霊様)

 レインが目を開くと、火の祠が崩れ去った。

「なっ⁉ 小娘! 貴様! 何を⁉」

 ドノヴァンが驚愕に目を見開いたとき、レインは心臓が大きく脈打つのを感じていた。全身がひび割れていくような痛みに叫び声を上げ、その場にうずくまる。

 レインの体が黒い炎に包まれる。

 その様を見て、大広間は騒然となり、ドノヴァンと使用人が後退あとずさる。

「禁忌を犯した報いだ」

 エルフの夫がおののき呟いた。妻は夫に寄り添い震えている。

 ドノヴァンの表情が怯えに歪む。

 客たちの中に立ち上がる者が出始めた頃、大広間の扉が勢いよく開かれた。

「何をしている!」

 軍服に身を包んだウェッジが叫んだ。【影転移】の習得が済み、試しに遠征先から自宅へと戻ってみたところ、この騒ぎ。その目に映る光景に目を剥き、歯噛みした。

「ドノヴァン! 貴様! 何をした!」

「ウェ、ウェッジ兄さん、これは、その」

 客たちが我先にと席を立ち逃げるように出て行く。ウェッジはその人の群れを尻目に、つかつかと舞台に歩み寄り、震えるドノヴァンを殴り飛ばした。

「火の祠はどうした⁉ この子は何故こんなことになっている⁉」

「種族適性崩壊を、無理矢理」

「何だと⁉」

 エルフの夫から知らされ、おおよその状況を把握したウェッジは、床に倒れ込んだドノヴァンの胸倉を掴んで持ち上げる。

「殺しても殺し足りんような男だな、貴様は! 我がローライズ家の恥だ!」

「い、いえ、これは、学術的見地から」

「ふざけたことを抜かすな! このエルフの男女は何だ!」

「こ、これもですね。尊厳と命を秤に掛け、亜人は人か獣かを」

「貴様の戯言ざれごとなど聞く耳持たん!」

 ウェッジは剛腕を振るい、一回転してドノヴァンを放り投げた。遠心力の勢いがつけられた投げで吹き飛んだドノヴァンは、使用人を巻き込んで壁に激突し、そのまま意識を失った。

「あ、あの、助けてくださるんですか?」

「心配しなくて良い。すまんな。愚弟が酷いことを。すぐに治療を行うからな」

「いえ、それよりも、あの子を」

「ああ、そうだな。だが……いや、やれるだけやってみよう」

 エルフの夫婦に目で示され、ウェッジは頷く。そして、着ていた軍服のコートを脱いでレインに覆い被せ、そのまま抱きしめた。

(これで消えてくれれば良いが……)

 黒い炎は、ウェッジの両腕を焼いた。それは回復術を用いても消えることのない痕を残した。
 
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界で俺はチーター

田中 歩
ファンタジー
とある高校に通う普通の高校生だが、クラスメイトからはバイトなどもせずゲームやアニメばかり見て学校以外ではあまり家から出ないため「ヒキニート」呼ばわりされている。 そんな彼が子供のころ入ったことがあるはずなのに思い出せない祖父の家の蔵に友達に話したのを機にもう一度入ってみることを決意する。 蔵に入って気がつくとそこは異世界だった?! しかも、おじさんや爺ちゃんも異世界に行ったことがあるらしい?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

主人公を助ける実力者を目指して、

漆黒 光(ダークネス ライト)
ファンタジー
主人公でもなく、ラスボスでもなく、影に潜み実力を見せつけるものでもない、表に出でて、主人公を助ける実力者を目指すものの物語の異世界転生です。舞台は中世の世界観で主人公がブランド王国の第三王子に転生する、転生した世界では魔力があり理不尽で殺されることがなくなる、自分自身の考えで自分自身のエゴで正義を語る、僕は主人公を助ける実力者を目指してーー!

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

処理中です...