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それぞれの成長 パーティー編
閑話 城塞の街モーゼス(2)
しおりを挟む発端は、ヴァンダインの王位継承権放棄を知ったジャミの乱心だった。
『王になるから嫁いでやったのに! 私の地位を返せ!』
ジャミはヴァンダインをナイフで襲い、重傷を負わせた。
意識があれば、或いは外聞を考えての対処も行えたのだが、ヴァンダインは昏睡状態に陥り、それを行うことができなかった。権謀に長けた長男アーヴェインが、母の生家に滞在しており、不在であったこともまた折が悪かったと言えよう。
ナッシュは貴族でありながら、そういった配慮に欠けており、ドニーとトロアは外聞に頭が回るほどに歳を経ていなかった。故に、ジャミの乱心という醜聞は瞬く間に世間に広がり、法に則った裁きを受けさせる必要が出てきてしまった。
『クリス王国は亜人と渡り人の国。ただの人や半亜人などの劣等種は、労働奴隷として泥に塗れているのが当然でしょう。虐げて何が悪いのです』
衛兵に捕らえられたジャミは尋問の際に、そう供述した。捨て鉢になっていたジャミは、心の内を嘘偽りなく晒した訳だが、これに黙っていられない者がいた。ジャミの兄であり、モーゼス東部を治める虎人の領主、ゼル・アドライン公爵である。
『妹は日頃からヴァンダインにないがしろにされていたと、アーヴェインから聞いている。憐れなジャミは心を病んでおるのだ。元凶は夫のヴァンダインだ』
ゼルは滞在中の甥、アーヴェインの虚言に踊らされていた。アーヴェインは母の乱心騒ぎを機と見て、権謀術数を弄していたのである。
適当な娼婦に金を掴ませ、ヴァンダインの愛人であると、ゼルの前で偽証させた後に殺す。これを数回行っただけだが、効果は覿面に表れた。
ジャミが牢に繋がれると同時に、ゼルはヴァンダインとの関係断絶を宣言。ヴァンダインとゼルは共に実直で善政を敷いていた。その上、国防を担う将軍でもある。故に、いずれも領民から愛されていた。これが東西分断を加速させることとなる。
アーヴェインはジャミの解放を望む東部領民の前で、必ず母を救い出してみせると演説を行い民心掌握に成功する。その後、面会を装い母のジャミを殺害。母の亡骸を抱え、牢から出たアーヴェインは悲痛な面持ちで出迎えに訪れていた民衆に訴えた。
『母は嘆きのあまり獄中で自殺したと言われた。だが見よ、この毒瓶を。何故、母がこのような物を持っている。何故、このような物を獄中に持ち込める。ヴァンダインの謀略がなければこのようなことは叶わん。憎むべきはヴァンダイン。最早、父とは思わん。皆、力を貸してくれ。共に奴を討ち果たそうではないか』
アーヴェインがそう声高に叫んでいた頃、三日ぶりに目覚めたヴァンダインは、寝室でナッシュと諜報員から状況を聞かされ愕然としていた。
『アーヴェイン、なんということを……!』
ヴァンダインは内紛が起こることを危惧し、父王に仲裁を願う為、王都に使いを出した。そして、ナッシュ、ドニー、トロアの三人の息子たちに書状を持たせ、アルネスの街のエドワード・マクレーン公爵を頼るよう命じた。
三人は父の命に従い、モーゼスを後にした。
王都から派遣された軍の働きにより、内紛は未然に防がれた。だが、東西間の悪感情が消えることはなく、事態を重く見た王が、モーゼス中央を分断する防壁を建造し、東西間の交流を禁ずる王命を出した。それが六年前の話である。
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