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それぞれの成長 パーティー編
閑話 クロエの里帰り(1)
しおりを挟むクロエ、ミリー、オライアスの三人は、モーゼスに向かうビンゴの幌馬車を降り、樹王の森を二時間ばかり歩いて、クロエの故郷である兎人の隠れ里を訪れた。
樹王とは、読んで字の如く、樹の王である。その苔生した幹の周囲に土属性術で生まれた土壁の家が建ち並び、その家もまた苔と緑に覆われ、樹木と一体化している。
自然との融和。それが果たされた里の姿、そして見上げても先が見えない程に巨大な樹王を目にして、ミリーとオライアスは言葉を失った。
生い茂る枝葉から小鳥が囀りながら飛び立ち、外に設けられたテーブル席で、歓談のひとときを過ごす兎人の少女たちの元に降り立つ。少女たちは、寄ってきた小鳥を当たり前のように撫で、小鳥もまるで警戒した様子を見せない。
その光景もまた、アルネスの街で生まれ育った二人には信じられないものだった。
「驚いたろ? けどね、こんなもんじゃないよ。樹王様のお恵みはね」
クロエが誇らしげに笑い、歩き出す。ミリーとオライアスは慌ててその後を追う。物珍しさにあちこち眺めて歩いているうちに、目的の場所に着いていた。
そこはクロエの家だった。扉を開けたクロエに中へ入るよう促され、ミリーとオライアスは黙って従う。中では年老いた兎人の女性が、揺り椅子に腰掛け居眠りしていた。
「ノビ婆、帰ったよ」
クロエが声を掛けると、ノビ婆がヒエッと声を上げて目を開けた。驚きで両手を上げ、ふくよかな体を震わす。装いはワンピースに毛糸のカーディガン。掛けていた眼鏡がずり落ちるのを慌てて両手で受け止める。
「脅かすんじゃないよ! 物音たてて入れっていつも言ってるだろう!」
「この間は、物音に驚いて『静かに声掛けろー!』って怒ったじゃないか」
「また、怒ったなんて大袈裟なこと言う。そんな強く言ってないだろうよ」
「はいはい。ぼやいてるとこ悪いんだけどさ、ちょっと怪我した子がいてね、診てやってほしいんだよ。街じゃ治せなくてさ」
「なんだい、まったくこの馬鹿孫は、久し振りに帰ってきたかと思えば藪から棒に。ただいまくらい言うように教えてやったはずだけどね」
ノビ婆が眼鏡を掛け直し、ミリーとオライアスを凝視する。
「あらー、おやおや、可愛い子たちだね。怪我したって? どれ、ババが見てあげようね。ははぁ、大きい子の方だね。左腕と背中が途切れてるねぇ」
「難しいのかい?」
「そうさねぇ、ほれ、こっちにおいで」
ノビ婆が立ち上がり、手招きしながら部屋の奥へと進む。カーテンで間仕切りされた隣室には、敷布が載せられた診察台がある。ノビ婆は、オライアスにその台の上で俯せに寝るように言って、自分は薬壺の並ぶ棚を物色し始めた。
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