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それぞれの成長 パーティー編
閑話 ビンゴの幌馬車
しおりを挟む嘆きの森。アルネスの街北部に広がるその森は、あまりに広大な為に、街道を拓く者たちが嘆いたことからそう呼ばれるようになった。
だが、それは飽くまで森を切り拓いたクリス王国側が勝手に付けた名であり、本来は樹王の森と呼ばれていた。街道が通ったことで多くの者に忘れ去られてしまったが、その森に住む者たちには、嘆きの森は今でも樹王の森と呼ばれている。
クロエもまた、そう呼ぶ者の一人。
クロエの出身地である兎人の隠れ里は、樹王の森の結界の中にある。フィルの出身地であるエルフの隠れ里も隣接しており、二つの里は共存共栄関係にある。
さて、ミリーのパーティーがホブゴブリンと戦った翌日のこと――。
嘆きの森の街道を一台の幌馬車が駆けていた。御者を務めるのはビンゴ。とはいえ鞭は振るわない。顔に麦わら帽子を載せて、荷箱を枕に寝そべっているだけである。
荷台にはミリーのパーティー三人とクロエとナッシュ。昨日の一件で、オライアスは神経が断たれて左腕が動かなくなり、馬車の中は暗い雰囲気が漂っていた。
しばらくは、ただ馬車に揺られて過ごす時間が続いた。だが、流石に静かすぎることを不審に思ったビンゴが、顔の上の麦わら帽子をずらして、ざっと乗客の顔を見た。
「なんだか暗いな。葬式みたいだ」
「ああ、ダンジョンで、ちょっとあってな」
「そうか。おい、そこの小さい嬢ちゃんよ」
ビンゴは寝そべったままで、ミリーに声を掛ける。
「お前さんだろ。暗くしてんのは」
「ちょっと、ビンゴさん、やめてあげてくれないかい」
「いいや、やめない。クロエ、ナッシュ、お前らも、お前らだ。もっとよく見てやれ。あの子たちは、皆が皆で気を遣い合ってるだけじゃないか。ほれ、小さい嬢ちゃんよ、何があったか知らんが、友だちに笑って見せてやれ。それで暗いのはおしまいになる。お前さんが笑えばそうなるってのが、俺にはよーく分かってる」
ミリーはオライアスとトロアの方へ顔を向けた。二人もミリーの方を見ていた。
「いいぞ、顔は見たな。ほら、あとは笑うだけだ」
言われるままに笑顔を見せようとして、涙が出てきた。
「ごめんね、オライアス。ごめんね。私の所為で」
「姉さんだけの所為じゃないよ。僕たちも訊けば良かったんだ」
「俺も、声を掛けてから撃つべきだったのに。オライアス、ごめんな」
三人が互いを思い合って、涙しながら言葉を交わしているところに、コロコロと林檎が三つ転がってきた。ビンゴが荷箱から取り出して転がしていた。
「磨いてから食べな。これも良い思い出になる」
ミリー、オライアス、トロアの三人は、素直に林檎を拾い、服で磨いてかじりついた。それは驚くほどに酸っぱくて、三人とも顔をしかめた。
酸っぱーい。そう言い合っただけのことだったが、三人に笑顔が戻った。
「そうだ。笑え。これで空気が軽くなる。ちっとは寝やすくなるってもんだ」
ビンゴが微笑んで寝そべりなおす。顔を隠すように麦わら帽子を載せて。
「クロエ、着いたら言えよ。止めるからな」
「分かった。ありがとね、ビンゴさん」
クロエとナッシュは、顔を見合わせて苦笑する。
(本当、このおっさんには、かなわねぇな)
ビンゴの幌馬車は、しばらくのんびりと走り続けた。
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