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もう一人の渡り人編
5.舐められ隊長と輩ムーブに戸惑う責任転嫁(2)
しおりを挟む要は、争わないで逃げ出せれば良い訳なのだが、なんというか、俺はもうそれだけじゃ納得できない感じになってモヤモヤしている。
この街は変だ。チエが無茶苦茶やってんのに、野放しっていうのはどう考えたっておかしい。という訳で、そこを穏便に探りたいんだけども。ムムム。
「よし、サクちゃんの言う通り、このまま進んで衛兵たちに話す。だけど、もし取り調べるからついてこいって言われた場合は断固拒否する。ただし、武力行使はしない」
「え? 仮に嘘八百並べられて、俺たちが犯罪者扱いされてた場合はどうするんすか? 戦わなきゃ強制連行されちゃいますよ?」
「んー、もしそうなったときは【天眼芯】が欲しいんだけど、もらえるかな?」
「いいっすけど、どうするんすか?」
俺は考えを話した。何のことはない。俺一人が犠牲になるというだけ。
「それなら、全員で【箱庭】に隠れてやり過ごせば良いんじゃないのか?」
「それも考えたんだけど、ちょっと探りたいってのもあるんだよね」
今は午後二時、衛兵たちがチエとグルだとすれば、ルードの依頼を失敗させる為に冒険者ギルドが閉まるまでの六時間は確実に拘束される。パーティー全員がそうなればルードにサラマンダーを渡せず、ジ・エンド。
だが拘束されるのが俺一人であればむしろメリットが出てくる。領主との面会希望を出す機会が作れて、上手くいけば面会で情報交換もできる。チエのことも探れる、というか悪事をそのまま伝えられる。
はぁ、しかし……。
一番の問題。領主の客分だという証明ができないこと。
こんなことならエドワードさんに、その証でも貰っておくんだったな。でもなんか気が引けるんだよな、そういうの。うちのパーティー全員だけど。
なんでだろう? 印籠を出させる御老公感が嫌なのかな?
なんにせよ、この街の領主のイワンコフさんはエドワードさんと懇意という話だし、無碍にされることもないはずだ。流石に牢に放り込まれることはないと思いたい。
「でもさ、ユーゴ一人が捕まっても、やっぱり捜索されちゃうんじゃない?」
「それは、俺が『仲間は転移術で他の街に逃げた』って言えば大丈夫じゃない? 【箱庭】に入るときって【影転移】に見えなくもないでしょ? 【箱庭】なんて俺たち以外は誰も知らない訳だし、誤魔化せると思うんだよね」
「なるほど、ユーゴだけが逃げ遅れて転移できなかった感じを演出するってことか。だが、俺たちがサラマンダーをルードに渡した後はどうするんだ?」
「そうだね、ユーゴは牢に入れられてるかもしれないもんね」
「俺が牢に入ったかどうかはヤス君が探知で分かるだろうから、そうなった時点で【犠芯転移】を使って迎えに来てもらうんだよ。そこで俺も【箱庭】に入って短距離転移を利用して脱出する感じ」
まさか牢の壁の厚さが三メートルもあるなんてことはないだろう。もしそうだったら強行突破しかないが、その時はその時で【過冷却水球】に大活躍してもらうとしよう。
その後はドゴンたちを【箱庭】に収容してウェズリーの街を出る。下山後にヤス君とはお別れし、残る三人はドゴン一味を引き連れてカナン大平原へ向かえば良い。
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