上 下
259 / 409
ウェズリーの街編

閑話 神職の過去(2)

しおりを挟む
 
 
 踏み込みが重なり、鍔迫り合いになった。

 ツツジは母譲りのそばかす顔を真っ赤にし、父譲りの銀髪を振り乱して踏ん張る。カラタチはツツジのそういうところを好ましく思っていた。だからこそ手抜きはしない。

 すっと力を逸して、前のめりになったツツジの胴へ木剣を横薙ぎに振る。が、ツツジはそれを打ち払い前宙で跳び越えた。

 ツツジは素早く振り返って後方へ退く。また両者は距離を取って対峙した。

「おお、ツツジもやるようになったな」

「カラタチには敵わん。せめてウカノ殿に似ておればまだ可愛げがあったろうに、どうしてまた、お前に似たのか」

 ツバキは肩を落として溜め息を溢す。小袖、羽織に袴姿の大小二本差し。線が細く色の白い狐人。その心中では、かつてのオモトと自分の姿が思い起こされていた。

(息子の代で笑ってやろうと思ってたんだがなぁ……)

 オモトとツバキは同い年で、息子の歳もまた同じ。

 ツバキの目に映るカラタチの姿は、手合わせで一度も勝ったことのないオモトの幼少期そのもの。或いは、それ以上に技が冴えて見えていた。

 そして我が子であるツツジは、幼い頃の自分とそっくり。参りましたと声を上げる折まで同じ。ここまでくると、目を覆わざるを得なかった。

 そんな父の姿を見たツツジは、への字口になり俯いた。父を落胆させてしまったと思い、悔しさに涙ぐむ。その姿を見たオモトがツバキを肘で小突いて知らせる。

「おい、ツツジを見てやらんか」

「え? ああっ、すまーん! ツツジ、違うんだ! パパはな、お前が昔のパパとそっくりだから不憫でな! ごめんな、パパがオモトの馬鹿より強かったら、お前にこんな思いをさせなくて良かったのにな! ごめんな! 本当にごめんなぁ!」

 ツバキがツツジに駆け寄って抱きしめ、頬ずりしながら必死に弁解しているのを目にしたオモトとカラタチは顔を見合わせて苦笑した。見慣れたいつもの光景である。
 
 産声が上がったのは、それから間もなくのことだった。

「ああっ、産まれた! 産まれたぞ、オモト! おめでとう!」

「ああ、ありがとう!」

「オモト様、おめでとうございます。カラタチも、良かったな」

「うん、ありがとう、ツツジ。父上、どっちですかね?」

「女の子だ! ツツジの嫁に貰うからな!」

「気が早い。それになんでお前が答えるんだ。カラタチ、弟でも妹でも可愛がるんだぞ。お前が守ってやるんだ。兄貴になるんだからな」

 産婆を務めていたイナリが「産まれましたよ」と声を掛けに来る。ただ何やら慌しい。手早く割烹着を剥ぎ取り、下駄を履く。

 イナリもまたシラセの役割を担っている。故に、その様子からオモトとカラタチは察していた。魔素溜まりが出たのだと。

「オモトさん、可愛い女の子ですよ!」

「やったなツツジ! 許嫁ができたぞ!」

「あなた! 馬鹿なこと言ってないで行くわよ! 魔素溜まりよ!」

 その場にいた全員の顔が引き締まる。オモトとツバキ、イナリの三人が集う。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

地球からきた転生者の殺し方 =ハーレム要員の女の子を一人ずつ寝取っていきます

三浦裕
ファンタジー
「地球人てどーしてすぐ転生してくんの!? いや転生してもいいけどうちの世界にはこないで欲しいわけ、迷惑だから。いや最悪きてもいいけどうちの国には手をださんで欲しいわけ、滅ぶから。まじ迷惑してます」  地球から来た転生者に散々苦しめられたオークの女王オ・ルナは憤慨していた。必ずやあのくそ生意気な地球人どもに目にものみせてくれようと。だが―― 「しっかし地球人超つえーからのう……なんなのあの針がバカになった体重計みたいなステータス。バックに女神でもついてんの? 勝てん勝てん」  地球人は殺りたいが、しかし地球人強すぎる。悩んだオ・ルナはある妙案を思いつく。 「地球人は地球人に殺らせたろ。むっふっふ。わらわってばまじ策士」  オ・ルナは唯一知り合いの地球人、カトー・モトキにクエストを発注する。  地球からきた転生者を、オークの国にあだなす前に殺ってくれ。 「報酬は……そうじゃのう、一人地球人を殺すたび、わらわにエ、エッチなことしてよいぞ……?」  カトーはその提案に乗る。 「任せとけ、転生者を殺すなんて簡単だ――あいつはハーレム要員の女を寝取られると、勝手に力を失って弱る」 毎日更新してます。

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

ウィッチ・ザ・ヘイト!〜俺だけ使える【敵視】魔法のせいで、両親に憎まれ村を追放されました。男で唯一の魔術師になったので最強を目指します〜

(有)八
ファンタジー
「親父! 俺、冒険にでたい!」 「は? 無理だろ常識的に考えて」  冒険者に憧れる少年タクトは冒険に出たかった。しかし世界の常識が邪魔をする。“男は”冒険者になれない……魔法が使えないからだ。女だけが魔法を使える。それが十五年生きて知った常識だった。  ある時、夢を否定され意気消沈するタクトの前に一人の老婆が現れる。老婆は自分の事を“魔女”と言った。 「お前さんに魔法を使わせてやろう」  魔女の言葉にタクトは半信半疑だったが、村に帰った時それは確信に変わった。 「お前はもう息子ではない! 今すぐ村を出て行け!」  村の全員が豹変し両親でさえタクトを憎み、侮蔑する。魔女から与えられた力は普通の魔法ではなかったのだ。『敵視《ヘイト》を自身に向ける魔法』。使えば周りは敵だらけになる。  両親から憎まれ、村を追放されたタクトは一人決意する。「最強の魔術師になって、馬鹿にしてきた奴らを見返してやるッ!」  これは、与えられた特異な魔法を武器に、世界でたった一人の“男の魔術師”を目指した少年の物語。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

スキルスティール〜悪い奴から根こそぎ奪って何が悪い!能無しと追放されるも実はチート持ちだった!

KeyBow
ファンタジー
 日常のありふれた生活が一変!古本屋で何気に手に取り開けた本のタイトルは【猿でも分かるスキルスティール取得法】  変な本だと感じつい見てしまう。そこにはこう有った。  【アホが見ーる馬のけーつ♪  スキルスティールをやるから魔王を倒してこい!まお頑張れや 】  はっ!?と思うとお城の中に。城の誰かに召喚されたが、無能者として暗殺者をけしかけられたりする。  出会った猫耳ツインズがぺったんこだけど可愛すぎるんですが!エルフの美女が恋人に?何故かヒューマンの恋人ができません!  行き当たりばったりで異世界ライフを満喫していく。自重って何?という物語。  悪人からは遠慮なくスキルをいただきまーーーす!ざまぁっす!  一癖も二癖もある仲間と歩む珍道中!

ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう

味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく

ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ

阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
 どこにでもいる平凡なサラリーマン「俺」は、長年勤めていたブラック企業をある日突然辞めた。  心は晴れやかだ。なんといってもその日は、昔から遊んでいる本格的ファンタジーRPGシリーズの新作、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日であるからだ。  「俺」はゲームをプレイしようとするが、急に頭がふらついてゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。目覚めた「俺」は驚く。自室の床ではなく、ゲームの世界の砂浜に倒れ込んでいたからである、全裸で。  「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のだろうか⁉

処理中です...