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ウェズリーの街編
閑話 神職の過去(2)
しおりを挟む踏み込みが重なり、鍔迫り合いになった。
ツツジは母譲りのそばかす顔を真っ赤にし、父譲りの銀髪を振り乱して踏ん張る。カラタチはツツジのそういうところを好ましく思っていた。だからこそ手抜きはしない。
すっと力を逸して、前のめりになったツツジの胴へ木剣を横薙ぎに振る。が、ツツジはそれを打ち払い前宙で跳び越えた。
ツツジは素早く振り返って後方へ退く。また両者は距離を取って対峙した。
「おお、ツツジもやるようになったな」
「カラタチには敵わん。せめてウカノ殿に似ておればまだ可愛げがあったろうに、どうしてまた、お前に似たのか」
ツバキは肩を落として溜め息を溢す。小袖、羽織に袴姿の大小二本差し。線が細く色の白い狐人。その心中では、かつてのオモトと自分の姿が思い起こされていた。
(息子の代で笑ってやろうと思ってたんだがなぁ……)
オモトとツバキは同い年で、息子の歳もまた同じ。
ツバキの目に映るカラタチの姿は、手合わせで一度も勝ったことのないオモトの幼少期そのもの。或いは、それ以上に技が冴えて見えていた。
そして我が子であるツツジは、幼い頃の自分とそっくり。参りましたと声を上げる折まで同じ。ここまでくると、目を覆わざるを得なかった。
そんな父の姿を見たツツジは、への字口になり俯いた。父を落胆させてしまったと思い、悔しさに涙ぐむ。その姿を見たオモトがツバキを肘で小突いて知らせる。
「おい、ツツジを見てやらんか」
「え? ああっ、すまーん! ツツジ、違うんだ! パパはな、お前が昔のパパとそっくりだから不憫でな! ごめんな、パパがオモトの馬鹿より強かったら、お前にこんな思いをさせなくて良かったのにな! ごめんな! 本当にごめんなぁ!」
ツバキがツツジに駆け寄って抱きしめ、頬ずりしながら必死に弁解しているのを目にしたオモトとカラタチは顔を見合わせて苦笑した。見慣れたいつもの光景である。
産声が上がったのは、それから間もなくのことだった。
「ああっ、産まれた! 産まれたぞ、オモト! おめでとう!」
「ああ、ありがとう!」
「オモト様、おめでとうございます。カラタチも、良かったな」
「うん、ありがとう、ツツジ。父上、どっちですかね?」
「女の子だ! ツツジの嫁に貰うからな!」
「気が早い。それになんでお前が答えるんだ。カラタチ、弟でも妹でも可愛がるんだぞ。お前が守ってやるんだ。兄貴になるんだからな」
産婆を務めていたイナリが「産まれましたよ」と声を掛けに来る。ただ何やら慌しい。手早く割烹着を剥ぎ取り、下駄を履く。
イナリもまたシラセの役割を担っている。故に、その様子からオモトとカラタチは察していた。魔素溜まりが出たのだと。
「オモトさん、可愛い女の子ですよ!」
「やったなツツジ! 許嫁ができたぞ!」
「あなた! 馬鹿なこと言ってないで行くわよ! 魔素溜まりよ!」
その場にいた全員の顔が引き締まる。オモトとツバキ、イナリの三人が集う。
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