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ウェズリーの街編
3.鉱山の街ウェズリー到着(3)
しおりを挟むそんなこんなでワイバーンとハーピーを撃退してから半日――。
遂に目的地である鉱山洞窟の街ウェズリーに到着した。
「嘘だろ……」
門前で身分証明を済ませ、中に入った途端に思わず呟きが漏れた。
洞窟の中にある街というから文明はさほど進んでいないと予想していたが大間違い。失礼な想像をしたことを恥じ入るくらい、しっかりとした街並みがそこにはあった。
建築物は均整のとれた石造りの直方体。幾つもの硝子窓が嵌め込まれていてビルにしか見えない。
それが様々な高さで居並んでいるのだから、俺たちの知る都会の風景と比べてもまったく遜色がない。そりゃ皆の目が皿になっても仕方ない。
「土と岩の洞穴を家にしてるような街だと思ってましたわ」
「俺も。一目見てすぐに心で謝罪したよ」
「広いな。洞窟とは思えんほど明るいし、空気も淀んでない」
「でもなんか居心地悪いなー。早く土と火の祠で属性取って帰ろう」
渡り人組は驚きに満ちた表情を見せたが、フィルだけは顔をしかめている。ハーフとはいえエルフはエルフ。ドワーフとはやはり相性が良くないようだと覚る。
確かにこれはちょっとキツイかもなぁ……。
事前に領民の九割がドワーフだという話は聞いていたので、ある程度の想像はできていたが、目に入る男のほぼすべてが、ごわついた長い髪を肩に掛けた筋骨逞しい小さいおっさんというのは中々に衝撃的。
女性は人族とほぼ変わらないが、それが混ざり込んでいるのがまた妙な違和感を覚えさせる。
人族の俺でさえ戸惑うのだから、感覚的に相容れない部分を持っていると思しきフィルが不快に感じたとしても何ら不思議はない。
「大丈夫? 辛いの?」
「んー、なんかねー、前世の嫌なこと思い出した。友達に招待された結婚式の披露宴に一人も知り合いがいなかったときみたいな居辛さがあるね」
「地獄っすね。むしろよく行きましたね」
「配慮しろよな、その友達も」
何故かその結婚式を挙げた者への批判に話が移ったが、それも束の間のこと。
フィルが嫌だと言うのなら長く滞在する必要もないと思った俺は、とっとと祠の場所を聞いてしまおうと、通りがかったドワーフの男性に声を掛けた。
「すいません」
「何だ? 何故謝る。お前は俺に何かしたのか?」
面倒臭ぇなこのおっさん。
祠の場所を訊くだけのつもりだったが、サクちゃんが途中で話に参加。受け答えが簡潔で寡黙な職人気質を互いに感じ取ったのか、思いの外会話が弾む。
それでも言葉数は少ないので時間にして五分程度ではあったが、無駄がないのでかなりの情報を得ることができた。
「ここは良い街の予感がする」
「サクちゃん、街に入ったなりからご満悦だね」
「祠の場所どころか冒険者ギルドと宿の場所、鍛冶屋や街の名所まで聞けましたからね。最後の街の名前の由来は正直余計だと思いましたけど」
「馬鹿言え。余計なもんか。実に合理的だった」
フィルが呆れたように肩を竦める。
「ウェズリー山にあるからウェズリーって、簡潔過ぎて逆に意味が分からなかったんだけどさ、それって由来とか理由になるの? 山と街の名前を同じにしたって紛らわしいだけだと思うんだけど」
「場所が同じだから問題ないんだよ。ウェズリーに行くという一言で山と街の両方が想像されるだろ? そこで『山か?』『街か?』なんて訊く方がおかしいんだ。『何をしに行く』と訊けばある程度は判断できるんだからな」
腕組みして鼻を鳴らすサクちゃんを見て俺たちは苦笑する。まだ通りすがったドワーフの男性一人としか関わっていないが、それでもこの調子。よっぽどウェズリーの街が気に入ったようだ。
言ってる意味はよく分からんけど。
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