【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜

月城 亜希人

文字の大きさ
上 下
390 / 409
明かされる真実編

19.はじめてのおつかい(4)

しおりを挟む
 
 
「おい! そこの二人!」

 突然、聞き覚えのある野太い声が背後で響いた。振り返ると、不審者を見るような目をしたジオさんが大股で歩み寄ってきていた。

「そこで何をしている!」

 そう問われたのは、間違いなくリンドウさんとスズランさん。二人も声に反応して既に振り向いていた。

「ああ、なんや、ジオか。わしや」

 リンドウさんが中国被り面を脱ぐ。すると、ひょっとこのお面が出てきた。

「誰だよ!」

 ジオさんに問われて「すまんすまん」と、ひょっとこのお面を外すと、サングラスと付け髭で飾られたリンドウさんの顔が現れる。

 ジオさんは声の時点で気づいていたのか哄笑した。

「何の悪ふざけですか、リンドウさん」

「いや、それがな――」

「しっ! 出てくるぞ!」

 スズランさんに注意され、二人が黙る。と、ほぼ同時にリンドウさんに手招きされてジオさんが路地に駆け込んだ。

「ジオ! お前、これ被れ! あとこれ着ろ!」

「え⁉ な、何で⁉」

「ええからよせえ!」

 リンドウさんが【異空収納】から中国被り面と黒いローブを取り出し差し出す。ジオさんは戸惑いながらもそれを受け取って着用した。

 路地から顔を出す異様なトーテムポールが三段になる。

 間もなく店の扉が開いて、ウイナちゃんが半べそをかいて出てきた。その頭をサツキ君が撫でている。

 そして何故かボンゴイさんも半べそをかいて出てきた。最後尾はサイネちゃんで、手を伸ばしてボンゴイさんの背中を撫でている。

「ボンゴイ、怖いと言って悪かったのじゃ」

「ううん、いいのよ。自分でも分かってるから」

「生まれ持ったものはしょうがないのですよ」

「ありがとう、サイネちゃん、優しいのね」

 ボンゴイさんは、所謂いわゆるオネエさんだ。とても繊細で優しい方なのだが、外見とのギャップで辛い思いをされている。

「ボンゴイ、ウイナはお肉が足らなくなったらまた来るのじゃ。もう友達なのじゃ」

「ウイナちゃん……」

 ボンゴイさんが涙ぐむ。それを見て俺まで涙ぐむ。振り返ると、中国被り面が三つ震えていた。感動が台無しだよ。

「ありがとう。そのときはお菓子を用意して待ってるわね。おつかい頑張って!」

「うむ、ありがとうなのじゃ! それではまたなのじゃ!」

 ウイナちゃんは手を振って歩き出す。それをサイネちゃんに「そっちは違うのですよ。お野菜のお店はあっちなのです」と止められて慌てて戻る。一行はサイネちゃんの案内で次の目的地、青果店へと向かった。

「よし、次は青果店だな。どの店に行くと思う?」

「分からん。しばらく歩いて追うしかないやろ。ジオ、お前暇か?」

「え? いや、暇じゃないっすよ。これでも仕事置いて来てるんですよ? 黒いローブ姿の、顔を隠した二人がいるって聞いて、すっ飛んで来たんですから」

 アルネスの街では、ハンを名乗った黒いローブの男が指名手配されている。それだけならいざ知らず、顔まで隠していれば怪しまれるだろう。今はそれが三人。

 いつの間にやら、辺りには人だかり。それも冒険者らしき者たちが路地を囲うような状態。それはそうだろう。指名手配犯は名を上げる格好の獲物でもある。

 剣呑な雰囲気が漂う中、リンドウさんが手の平を拳の腹でぽんと打つ。

「よし、スズラン。三人は探知で追っとるから、少し飛ぶぞ」

「うむ、頼む」

「え⁉ あ、ちょっと⁉」

 リンドウさんとスズランさんが【影転移】で移動する。やはり俺も一緒に連れていかれたが、移動したのはすぐ側。一つ先の路地だった。

「二人逃げたぞ!」

「こいつは逃がすな!」

 そんな声が上がり、集まった冒険者たちに襲撃されるジオさんの姿が確認できた。ジオさんは「馬鹿野郎! 俺だ!」と叫んでいるが、中国被り面の効果は絶大なようで、誰にも分かってもらえていなかった。
 
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

怠惰の大罪を背負ったけど何の因果か同時に娯楽神の加護を授かったおかげで働いたら負けの無敵状態になってゲーム三昧

きゅーびー
ファンタジー
「あぁ、異世界転生したいなぁ、異世界召喚とかトリップでもいいけど…」  いつからだろう、こんな夢物語を本気で願うようになったのは。  いつからだろう、現実と向き合うのをやめたのは。  いつからだろう、現実を味気なく感じたのは。  いつからだろう、リアルで生きていくことに飽きたのは。  働きたくない男が、働かなくてもいい環境に置かれていくお話。  ※他サイトでも投稿しています。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

処理中です...