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明かされる真実編

17.はじめてのおつかい(2)

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「なんやこれ、めちゃくちゃしんどいんやけど」

「そうだな。拙者など、もう心配でたまらん」

「お前もか。わしもや」

「何を言う! 拙者の方が心配しておるに決まっておろう!」

 スズランさんが声を張り上げる。何故そこで張り合うのかは分からないが、リンドウさんは完全にその勢いに吞まれてしまったようで「え? あ、そ、そうか。うん。悪かった」と、戸惑った様子で謎の謝罪を行った。

 どうやらスズランさんは相当な心配性のようだと覚る。そういえば、俺が【過冷却水球】を見せたときにも取り乱していた。

 真面目が祟って普段から余裕がないのかもしれない。今も尻尾がそわそわとせわしない。リンドウさんの方は死んだように落ち着いているというのに。

「む、気配が消えたぞ。どうやら行ったようだな」

「よし、ほなわしらも行くか」

 二人が【異空収納】からサングラスと付け髭を取り出し装着する。そしてフード付きの黒いローブを羽織った。どうやら見守りに向かうようだ。

 突然、景色がアルネスの街に変わった。場所は冒険者ギルドの側にある路地。唐突な場面変更に戸惑ったが、二人が【影転移】で移動したことで、俺も自動的に追尾したのだと覚る。

 ということは、リンドウさんかスズランさんが俺にこの一件を見せたいという風に思っていたということか。と、解釈したところで、その回答がスズランさんの口から飛び出した。

「ユーゴ殿とサクヤ殿にも見せてやりたかったな」

「ほんまやな」

 ありがとうございます! 今、見せていただいておりますよ、スズランさん!

 なんて素晴らしいものを見せてくれるのかと感謝の気持ちで胸をいっぱいにしながら、不審者にしか見えない二人が路地から大通りを覗く様子を眺める。

 往来する人たちから怪訝な表情で見られていることに気づいてもいない。そんな二人の視線の先には、ウイナちゃんとサイネちゃん、そして二人に付き添うサツキ君。

 俺はリンドウさんとスズランさんから離れ、大通りを歩く三人の側に近づいた。ウイナちゃんが周囲を必要以上に警戒し、サツキ君がそれを苦笑いして見つめ、サイネちゃんは紙を見ながら可愛く「うーん」と唸っている。

「うん、決まったのです。最初はお肉屋さんなのですよ」

「に、肉屋じゃと⁉」

「ウイナ、大丈夫なのですよ。ボンゴイさんは怖くないのですよ」

 へー、ボンゴイさんのお店に行くのか。

 俺は顎に手を遣りうんうん頷く。ボンゴイさんは冒険者ギルドに併設してある大衆食堂の店主、ブンガイさんの弟で、屠畜と肉の解体処理の腕前は街一番と評判の人だ。

 実際、相当に手際が良い。正直、ワイルドスタンプの肉はボンゴイさんのお店でしか買いたくないと思うほどだ。

 ただ、子供が見ると大抵泣く。というのも、かなりの強面で、血の付いた巨大な肉切包丁を持ったまま出てきたりするからだ。

 力士のような体を真っ黒な長い前掛けで覆っているのも相俟あいまって、まるでつい今しがた人でもあやめてきたように見えるのだ。

 大人の俺でも想像力を掻き立てられる風貌なのだから、子供ならトラウマを抱えることになってもなんら不思議はない。ウイナちゃんが下唇を出して困り顔になるのも仕方ないと思う。

「むぅー、サイネは平気かもしれんが、ウイナは怖いのじゃよ」

「じゃあ、サイネが行ってくるのですよ。二人は外で待っててほしいのです」
 
 
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