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明かされる真実編
16.はじめてのおつかい(1)
しおりを挟む見覚えのある茶の間で、リンドウさんとスズランさんが並んで座っている。食卓を挟んだ向かいにはウイナちゃんとサイネちゃん。
俺はウェズリーの街に戻って鍛冶屋で色々とこなし、宿の部屋で精根尽き果て、懊悩を抱えて寝たはずなのだが、何故かリンドウ邸にお邪魔していた。
どうやら心の負担が大きくなりすぎて、リンドウさんたちに会いたくなってしまったのだと思う。或いは、ギーから例の件を伝えるように言われたからか。またしても【精神感応】が見せる夢の中に入り込んでしまったようだ。
それにしても、リンドウさんとスズランさんは表情が硬い。居住まいを正しているのも気になる。一体何があったというのだろうか。
相変わらず、俺の姿は誰にも見えていないようなので、部屋の中を浮いて移動しながら様子を観察することにした。
「ウイナ、サイネ、呼び出したのは他でもない。ちょっと手が離せん用事ができてもうてな。悪いんやけど、アルネスの街まで、おつかいに行ってきてくれんか?」
「おつかいなのです?」
サイネちゃんがこてんと首を傾げる。なんて可愛らしいのだろうと俺が悶絶している間に、スズランさんが「うむ」と頷く。
「ウイナは【異空収納】、サイネは【影転移】を習得したであろう? 算術も相当できるようだからな。それを活用する練習だ」
ウイナちゃんが緊張した面持ちで「わ、分かったのじゃ」と言って頷く。お姉ちゃんだから意気込んでいるようだ。なんて尊い。
「ウ、ウイナとサイネの、二人だけで行くのじゃな?」
「いや、サツキも一緒や。そろそろ本腰入れてマモリの修行を始めよ思うてな。これもその一環や。シラセを守る責任感をつけさせるのに丁度ええやろ」
そう言って、リンドウさんが小さな巾着袋をウイナちゃんの前に置く。
ウイナちゃんはそれを手に取り「ほえ⁉ ずっしりしとるのじゃ⁉」と驚いた様子で呟き、開いて中を覗き込む。
「き、金貨がいっぱいなのじゃ!」
「ほうや。大きいお金やから気ぃつけるんやぞ。買うてきて欲しい物は、一緒に入れてある紙に書いてあるからな。ほんなら、頼んだで」
サイネちゃんが「はいなのです」と言って、ウイナちゃんの手を取る。
「ウイナ、まずはサツキを呼びに行くのですよ」
「そ、そうじゃな。サイネ、何も心配いらんのじゃぞ? サイネのことは、ウイナが守るのじゃ」
「違うのです。二人ともサツキに守ってもらうのですよ」
二人が影に沈んで消える。途端にリンドウさんとスズランさんが「はぁー」と深い溜め息を吐いて、空気が抜けたように脱力した。
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