384 / 409
明かされる真実編
13.そんな馬鹿なと言うに値する話(5)
しおりを挟む「お陰で二人とも同じスキル持ちになっちゃったんだよ。能力値も同じくカンストしてるし、弱ったもんさ」
「何を弱るかは知らんが、話が逸れておるぞ。坊主、もう分かったじゃろうが、ラグナス帝国は桃花仙と繋がっておる。妾たちが亜人を得る為にのう」
自分で飼料を作り、食べて、交尾して、勝手に増えていく家畜であり実験動物。それが桃花仙に住む者から見た亜人という存在。
ギーと、ニルリティ含めトウゲンたちは定期的に桃花仙への搬入口を開いて運搬し、工場で食糧に加工、各家庭に届くようにスーパーなどで流通させているらしい。
更に、桃花仙には魔物が増えたら儀来に排出する仕組みが確立されているという。儀来で魔素溜まりが生じ、魔物の氾濫が起こる原因はそこにあった。
つまるところ、俺たちの世界、二大仙に住む者がこの儀来に転移する素因は、桃花仙が世界を繋ぐ術を開発し、魔物の排出の為に使用しているからだったということだ。
事情は分かるが、傍迷惑にも程がある。生きる為とはいえ、一体どれだけの者を不幸にしているのか。
気づけば眉根が寄っていた。そんな俺の反応を見て、ニルリティが寂しげに微笑む。
「不服じゃろうな。二大仙から渡った者からすると、そういう反応になっても不思議はない。じゃが妾たちとて必死じゃ。同胞を守る為にやっておるだけのこと。恨むなら、妾たちをこんな風に仕上げた神を恨むんじゃな。妾たちのように」
「ま、そういうこったね。桃花仙の人族は気の毒だよ、本当に」
被害者面か。と思ったが、話された状況は相手の立場に立って考えれば確かに困ったものだった。
桃花仙では、この四百年ほどの間、一部地域で魔物を排出できない事態が続いているらしい。
年々魔物の数が増え続け、更には強化され、知恵までついた。どうにか討伐してはいるが、近年では深刻な問題になっているのだとか。
理由はイノリノミヤ神教の神職が魔物の氾濫を防いでいるからに他ならない。
桃花仙からの渡り人、トウゲンたちは何度もそれを止めさせようと試みてきたが、成果は出ていないという。
「成果が出ない理由は……見た方が早いか。論より証拠だな」
そう言って、ギーが【光球】を浮かべて手招きする。そのままクリス王国の国境付近まで三人で移動した。
「何をするんです?」
「ニルリティ、頼む」
「はぁ、やはりそうなるか。嫌じゃのう」
ニルリティが左手を前に出した状態でゆっくりと国境へ向かい近づく。すると、ある時点でパンッという破裂音が鳴り血飛沫が舞った。
「ぐぅっ!」
という呻きを上げ、ニルリティが素早く後退して振り返る。俺は目の前の光景に唖然とした。ニルリティの左手首から先がなくなっており、だらだらと血が流れ出ていた。
「うう、痛いのう。忌々しや、イノリノミヤめぇ」
「何が……起きたんですか?」
「さてね。それが分かりゃあ苦労しない。いや、それでも苦労はするか」
ギーは肩を竦めてそう言うと、ニルリティの左手首を掴み、溢れ出る血をべろりと一舐めした。そして、薄闇に映える淡い光を放つ回復術を、先が欠損したニルリティの左手首に掛けながら言葉を続けた。
「トウゲンがクリス王国領に入るとさ、こうなっちゃうんだよ。酷いだろ? 話し合いも何もあったもんじゃない」
攻撃しているのはおそらくイノリノミヤだろうというところまでは推測が立った。というより他に思い当たる存在がいないので断定されているらしい。
だが、それが分かったところで、まるで対処できずに犠牲が増えるばかり。能力値が最高値に達していようが、関係なく殺されてしまう。
その恐ろしさから、桃花仙ではイノリノミヤを邪神として扱っているという。
0
お気に入りに追加
431
あなたにおすすめの小説
ウィッチ・ザ・ヘイト!〜俺だけ使える【敵視】魔法のせいで、両親に憎まれ村を追放されました。男で唯一の魔術師になったので最強を目指します〜
(有)八
ファンタジー
「親父! 俺、冒険にでたい!」
「は? 無理だろ常識的に考えて」
冒険者に憧れる少年タクトは冒険に出たかった。しかし世界の常識が邪魔をする。“男は”冒険者になれない……魔法が使えないからだ。女だけが魔法を使える。それが十五年生きて知った常識だった。
ある時、夢を否定され意気消沈するタクトの前に一人の老婆が現れる。老婆は自分の事を“魔女”と言った。
「お前さんに魔法を使わせてやろう」
魔女の言葉にタクトは半信半疑だったが、村に帰った時それは確信に変わった。
「お前はもう息子ではない! 今すぐ村を出て行け!」
村の全員が豹変し両親でさえタクトを憎み、侮蔑する。魔女から与えられた力は普通の魔法ではなかったのだ。『敵視《ヘイト》を自身に向ける魔法』。使えば周りは敵だらけになる。
両親から憎まれ、村を追放されたタクトは一人決意する。「最強の魔術師になって、馬鹿にしてきた奴らを見返してやるッ!」
これは、与えられた特異な魔法を武器に、世界でたった一人の“男の魔術師”を目指した少年の物語。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
スキルスティール〜悪い奴から根こそぎ奪って何が悪い!能無しと追放されるも実はチート持ちだった!
KeyBow
ファンタジー
日常のありふれた生活が一変!古本屋で何気に手に取り開けた本のタイトルは【猿でも分かるスキルスティール取得法】
変な本だと感じつい見てしまう。そこにはこう有った。
【アホが見ーる馬のけーつ♪
スキルスティールをやるから魔王を倒してこい!まお頑張れや 】
はっ!?と思うとお城の中に。城の誰かに召喚されたが、無能者として暗殺者をけしかけられたりする。
出会った猫耳ツインズがぺったんこだけど可愛すぎるんですが!エルフの美女が恋人に?何故かヒューマンの恋人ができません!
行き当たりばったりで異世界ライフを満喫していく。自重って何?という物語。
悪人からは遠慮なくスキルをいただきまーーーす!ざまぁっす!
一癖も二癖もある仲間と歩む珍道中!
ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう
味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく
ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ
阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
どこにでもいる平凡なサラリーマン「俺」は、長年勤めていたブラック企業をある日突然辞めた。
心は晴れやかだ。なんといってもその日は、昔から遊んでいる本格的ファンタジーRPGシリーズの新作、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日であるからだ。
「俺」はゲームをプレイしようとするが、急に頭がふらついてゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。目覚めた「俺」は驚く。自室の床ではなく、ゲームの世界の砂浜に倒れ込んでいたからである、全裸で。
「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のだろうか⁉
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
追放?俺にとっては解放だ!~自惚れ勇者パーティに付き合いきれなくなった俺、捨てられた女神を助けてジョブ【楽園創造者】を授かり人生を謳歌する~
和成ソウイチ
ファンタジー
(全77話完結)【あなたの楽園、タダで創ります! 追放先はこちらへ】
「スカウトはダサい。男はつまらん。つーことでラクター、お前はクビな」
――その言葉を待ってたよ勇者スカル。じゃあな。
勇者のパワハラに愛想を尽かしていたスカウトのラクターは、クビ宣告を幸いに勇者パーティを出て行く。
かつては憧れていた勇者。だからこそここまで我慢してきたが、今はむしろ、追放されて心が晴れやかだった。
彼はスカルに仕える前から――いや、生まれた瞬間から決めていたことがあった。
一生懸命に生きる奴をリスペクトしよう。
実はラクターは転生者だった。生前、同じようにボロ布のようにこき使われていた幼馴染の同僚を失って以来、一生懸命に生きていても報われない奴の力になりたいと考え続けていた彼。だが、転生者であるにも関わらずラクターにはまだ、特別な力はなかった。
ところが、追放された直後にとある女神を救ったことでラクターの人生は一変する。
どうやら勇者パーティのせいで女神でありながら奴隷として売り飛ばされたらしい。
解放した女神が憑依したことにより、ラクターはジョブ【楽園創造者】に目覚める。
その能力は、文字通り理想とする空間を自由に創造できるチートなものだった。
しばらくひとりで暮らしたかったラクターは、ふと気付く。
――一生懸命生きてるのは、何も人間だけじゃないよな?
こうして人里離れた森の中で動植物たちのために【楽園創造者】の力を使い、彼らと共存生活を始めたラクター。
そこで彼は、神獣の忘れ形見の人狼少女や御神木の大精霊たちと出逢い、楽園を大きくしていく。
さらには、とある事件をきっかけに理不尽に追放された人々のために無料で楽園を創る活動を開始する。
やがてラクターは彼を慕う大勢の仲間たちとともに、自分たちだけの楽園で人生を謳歌するのだった。
一方、ラクターを追放し、さらには彼と敵対したことをきっかけに、スカルを始めとした勇者パーティは急速に衰退していく。
(他サイトでも投稿中)
俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜
平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。
『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。
この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。
その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。
一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる